こんな本を読んでいる

日々出版される本の洪水。翻弄されながらも気ままに楽しむ。あんな本。こんな本。
新しい出会いをありがとう。

『学力の新しいルール』

2005年12月29日 | 読書ノート
学力の新しいルール

文藝春秋

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 早寝早起・朝ご飯,テレビやゲームの制限に親子の団欒。現代人が失っているごく普通の日常生活をまずは家庭に取り戻し,その上で,百マスを中心とした反復と音読で集中的に学習に取り組めば,基礎学力がしっかり身についていく。これが,陰山さんが兵庫県・山口小学校で10年実践・実証し,尾道・土堂小学校でさらにブラッシュアップした教育手法(・メソッド)だ。このメソッド。何も難しいことをやりましょうといっているのではない。当たり前のことを当たり前にやりましょう,という極めてシンプルなメッセージなのだ。

 2000年のNHKクローズアップ現代で取り上げられて以降,この陰山メソッドは,私のような教育にはいっさい関係のないものも知る全国区の話題になった。その後先生の計算プリントが市販され,”百マス”ブームにも火がつき反復・音読学習の効用を脳科学の分野から実証する川島ブーム(東北大学の先生)と相まってマスコミでも良く取り上げられるようになる。先生たちの出演の機会も増えた。

 マスコミ報道が過熱し陰山さんが全国区で有名になるにれ,この百マスの反復学習の実践の部分だけが一人歩きしはじめる。ゆとり教育のアンチテーゼのように喧伝されたところが東京大学の先生を中心としたゆとり教育イデオローグたちの逆鱗にふれ,一転,「百マスが日本をダメにする」などという反論も提出されている。(「陰山方式の流行で日本の子どもたちの学力が低下したと思われる」『世界』2005年5月号,岩波書店)

 ゆとり教育とその反動。百マスの礼賛から罵倒。百マスを巡る教育論議は混乱し,素人にはわかりくにく。とくに,権威者のような人が発言すると混迷は深まる。一層,我々には理解しがたくなる。親が理解できないような議論をして子どもが救えるのだろうか。大いに議論である。陰山本は出版以来ほとんどすべてを読んでいるが,基本的に論旨は同じなのでこのところ陰山本にも食傷気味だった。彼らがマスコミ受けし有名になるなかで,判官びいきが頭をもたげ,「彼らも少し調子に乗りすぎ」だという気持ちも湧いていた。

 そんなもやもや気分があったので,この『学力の新しいルール』を読んで気持がすっきりした。詳しくは,各自で読んでいただくことし,やや長いがエッセンス部分を引用する。

「 社会構造の変化による日本全体の夜型化によって子どもの生活習慣が睡眠を軸に乱れていったこと,これが81年から始まる「学力・知力の低下」の原因でした。これまで述べたようにさまざまなデータがそのことを証明しています。
 しかし,そういう原因を科学的に実証することなしに,「詰め込み批判」「受験競争批判」というムード,「個性尊重」「考える力育成」といういっけん口当たりのいいキャッチフレーズに躍らせれ,基礎基本の反復練習・生活指導を軸とするそれまでの日本の教育の基盤を切り捨てていったのが92年の指導要領の改訂で,これがさらに問題を悪化させたのです。
 この92年の指導要領の改訂は,第1章で述べたふたつの層の学力低下についていえばそれまで中間に位置していた子どもたちの学力を一気におしさげることになりました。
 それが10年つづいてさすがに,おかしいということで実業界や大学から声があがって,2003年以降,基礎基本の反復が見直されたというのがこれまでの流れです。(P79)」

 むしろ,こうした制度矛盾をはらみながらも,先生たちが歯をくいしばって現場で戦い,日本の教育の壊滅的な崩壊を食い止めているというのが現状のようだ。もちろん,ダメな先生もいるけれど,まともな人なら先生という職がもつ聖職性に目覚めるのだと思う。だから多くの先生は頑張っている。(この間の友人との話でもそう感じた。)
 ちなみに,本書の冒頭は,「低所得の家庭から東大合格者が増えている」「東大合格者に地方出身者が増えている」ではじまる。冒頭から既成概念を壊される。夜型化による体力の衰え知の偏在が有名私立新学校神話を壊している。現実に起こっていることを我々,親たちは,冷静に分析してみないといけない。子どもに言う前に,まず,我々が我々の頭で考えることが必要だ。そんなことを考えさせられた。

 
〔最後におまけのメッセージ〕

 本当にいい本です。小さいお子さんを持つ親御さんは読んでもらいたいと思います。そして,自分の子どもをどう導けば良いか一緒に考えてみませんか。みんなで真剣に考えて我々子を持つ親たちの力で日本の教育を変えましょう。きちんとした自己鍛錬があれば未来が切り開けると自分たちの子どもに教えることで,我々の日本の未来に「希望」が生まれてきます。(かなり大げさなエンディングでした。お許しください。)

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