ウルトラ・ダラー 新潮社 このアイテムの詳細を見る |
冷戦終了で人気のなくなった諜報部員の公募記事が今朝の新聞に載っていた。ジェームズ・ボンドの生んだ英国諜報部の黄昏のシグナルなのかもしれない。
ところで,『ウルトラ・ダラー』。偽札造りのカラクリを,BBCの日本特派員である英国諜報部員が,オックスフォードの同期生で米国シークレット・サービスの分析官と辿る前半部分は,外交機密や機密を巡る外交官,内閣官房副長官などとの知的な駆け引き・情報のやりとりがあり,インテリジェンスの世界の一端が垣間見れておもしろい。
しかし,である。その拠点が北朝鮮で裏で中国が糸を引くという構成は,まあ許すとしても,偽札づくりの真相を核弾頭の闇取引に収斂させたストーリに転調(乃至は突然の飛躍)や,ICタグの蒔絵による取り引きルートの解明という仕掛けの稚拙さが災いして,後半部分の魅力は急激に低下する。
加えて,拉致問題とその解決に向けた日本外交の良心とダブルエージェントの描き方が単純すぎて迫力にかける。前半部分の点描のしかたが刺激的であった分,後半部分の展開・描写の粗雑さに激しく落胆してしまった。だから,あまりにもあっけない終わり方も致し方なしという気持ちである。