一年前のちょうど今頃、日本代表は危機的状況に陥っていた。丁度東アジア選手権が開催されWカップの年の幕開けと位置されていた。快勝する予定が内容が悪く、というか岡田監督が標榜とするサッカーをちゃんとしているにもかかわらず格下相手を翻弄できないサッカーが延々90分近くTVで流れ中村俊輔がいてもいなくてもチーム自体が中村と一緒に降下していっている様が見て取れた。
準決勝延長後半の戦い方の修正が明らかにあった日本代表。非常に運の良い流れだった。韓国と戦う前までは色々な中東チームとの試合であり代表の問題点がなかなか見つけられなかった。サッカーはどんなチームでも欠点がある。それを自分たちが気がつかず、相手の監督が気がついている時が最も危険だ。
ドイツW杯の時、オーストラリアの監督が日本の高さ対策に不備がある点を見つけ試合開始から延々とそれをやった。その結果、日本の生命線であるボランチが試合を組み立てるどころか上下にボールを追いかける仕事をやらされ終了間際にはプレスをかけられる状態にはならなくなってしまった。ジーコ監督に全ての問題がある、と言われてもああいう試合をそれまで相手が仕掛けてきた試合をやっていないのだから修正しようもない。頭の中で考える対策と実際選手が経験し監督の対策、スタッフの意見、現場の選手の意見が統合されて初めて対策らしきものが出来上がっていくのが現状だと思う。
その意味で言えばザック監督も薄々は日本が高さを利用したパワープレイを仕掛けられてきたらどうしよう、とは思っていただろうしシミュレーションレベルの対策は考えていただろう。それが韓国戦の延長戦の結果なのだ。つまりザッケローニと言えども実際やってみてラインが下がり5バック状態に陥って長谷部が退場するレベルにボランチが疲弊して「ようやく」実際の対策が練られたと考えられる。
日本が今大会、運が良かったのは決勝のオーストラリアが仕掛けてくるだろうパワープレイを韓国戦で事前に学び選手と監督が対策を構築できたのが大きい。この為、オーストラリアの攻撃は日本の守備網にかなり上手にあしらわれ自分達の得意な戦い方で攻めたにも関わらず無得点に終わった。日本人、オーストラリア人両方を熟知した相手の監督に勝つのは並大抵の事ではないがここらへんはある意味韓国に感謝したほうがいいのではないだろうか。
試合全体は日本が本来上下運動を駆使して攻撃力を上げるのだが上記の対策も考えて広くスペースを埋めた。ボランチは最後の最後でへたらないように運動量は控えめにし右サイドの内田もかなり自重していた。運動量に異常に強さを見せる長友を起点に攻撃は片翼であったし全体が控え気味の攻撃であったがこれが大当たり。オーストラリアは日本の攻撃が日本の守備スペースを多分に犠牲にして成り立っているのを研究していてカウンター時にはえらいスピードを上げていた。日本にペースが回ってこなかったのは日本本来の攻撃を控えて自分達の陣営を余り開けなかったからだ。この為何度かあった日本のチャンス直後には同じレベルのピンチがあったが何とか防ぐことが出来た。普段の攻撃をしていたら、と思うとユニだけでなく顔まで真っ青になる試合だった。
キ・ソンヨン本人によれば観客席の旭日旗を見て「私の胸中で涙が流れた」という理由であのパフォーマンスをやったらしい。こういった弁明を読むと(韓国国内の反日感情を利用して)自身対世論という構図を韓国対日本に転換させたいという意図が見える。
試合前の彼のインタビューを読むと
「日韓戦は戦争だ」
「イエローカードの累積が減るので本田に対してもカード覚悟で(殺人タックルを)やってやる」
と鼻息が荒かった。何故このような感情に陥っているのかというとどうも去年10月に行われた韓国ホームでの対日本戦で同世代である本田に何度かごぼう抜きされ己のプライドをかけた戦いになっていた節がある。イチローなどに対する異常なまでの対抗心と同じで(世界に通じる)日本のトップアスリートは理由なく恨みの対象にされる事例のひとつではなかったか。
本田は見た目がゴツイのでゴリラっぽいと以前から言われていた。キ・ソンヨンがやったパフォーマンスは猿ではなく本田個人を馬鹿にしたゴリラの真似ではなかったのだろうか、と彼の試合前の気負いから感じてしまう。もしこれが事実だったとしても恥ずかしくって言えるもんじゃないだろうが旭日旗よりは理由がそれっぽいと思う。
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さて、決勝だが香川がケガで出られなくなったので前の方の組み換えが必要になってくるとは思う。しかし韓国戦の最後の最後でパワープレイで露呈した日本の問題点=遠藤と長谷部にフォローが欲しい、という点からもW杯でやった阿部のような役割の選手を投入する必要もあるかもしれない。適役は今野ではあるがそうすると伊野波と岩政の鹿島コンビで場を凌ぐしかなくなってしまう。川島がこの前PKでは良かったが試合中は不安定であった点を考えると今野を前にするのはギャンブルではある。
相手の監督が日本をよく知っている点からしても高さを使ってくる可能性が高い。ここ最近はトゥーリオと中澤がいたお陰でこの欠点は覆い隠されていたが。
試合中の最初のPKでゴールを決めたキ・ソンヨンのパフォーマンスがちょっとした物議を醸しているようだ。彼はゴールを決めたあと韓国で日本人を馬鹿にする時に使う猿の真似をした。
サッカーでは敵のチームのサポーターを挑発する行為はよくやる。敵サポーターの前で決定的ゴールを奪ったあとに口に指を当てて「さあ、皆さん静まり返りましょう」とやったりする。彼自身も欧州で向こうのサポにやられているようだし。
微妙に欧州かぶれした青年の愚行、と軽く考えていい類だと思うが日韓戦という高視聴率(つまりは普段サッカーを見ない人も多い)番組でこういう事をやる意味をもっと大人が教えなくてはいけない。韓国の方の視聴率も凄かったらしいが日本の方もBSまで合わせればNHK紅白並だったらしい。紅白に出場した韓流スターが生放送中、突然猿真似をしたレベルだと言っていいわけでほんと頼むよと。
毎度の日韓戦ではあったが韓国側の攻撃でまともに日本を崩したシーンは驚くほど少なかった。それだけ日本側の守備が良いと判断していいだろう。韓国側から見れば今回の日本はCBのレギュラー二人が不在に加え3番手の吉田までいなかったわけだから控えの控えにほぼ封印された事になる。ただしそういう認識が恐らく日本側にも余り無いのは日本の弱点だったはずのCBとキーパーの連携というところまで韓国の攻撃が到達しなかったというだけだ。
勝因の一番はカタールのボールウォッチにある。香川は決定的シーンを演出するボールを出した後、「またもう一度」自分にチャンスが来るよう空いているスペースに走りだす。本当なら相手DFがそれを妨害しなければいけないのだが皆がボールの行方を気にしていて香川の動きを察知している人間がいない。香川は自分自身をステルス機にする為にゴール前で危機的状況を演出するのに長けているのだ。これに加えて岡崎もDFの視点から隠れるスキルを持っているのが大きい。岡崎の場合、自分からそういう状況を演出出来る訳ではないので演出家待ちになるわけだが。
昨日の試合はサウジが駄目だったというものあるだろうが非常に内容が良かった。コンディション的にも3試合やってこなれてきたというものあるだろうがパスのスピードにようやく足がついてきたと言える。初戦などは相手DFを振り切れずにパスを貰うものだからどこにも出しようがない状況が多かったように感じたがサウジ戦は貰う側がフリーのパターンが多かった。
前の試合よりはずっと良かった。勝負どころのパスとドリブルは本田が生きていたからかもしれないが何度も良いシーンを作り出していた。去年の今頃からそうだが本田が機能する試合では前線のボール回しのレベルが上がる。こと攻撃だけを考えるなら本田をどうするかだけを考えればそれなりに成り立つので便利だ。