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非凡に発想し、大胆に

2016年11月09日 23時51分47秒 | 創作欄
「なぜ、いつも同じ結果になるのだろうか?」
それは、多くの競輪ファンたちの嘆きであり、愚痴でもあった。
最終バスに乗って駅へ戻る人々の大半は押し黙っている。
車内の空気は重く淀んでいるばかりである。
中には残った小銭を数えている人もいる。
「10月の年金も今日でゼロだ」と独り言が聞こえた。
「どこから、金が入るわけでないしな」
競輪ファンは年金暮らしであり、少しでも金を増やしたいと願望し競輪場へやってくるのであるが、皮肉にも持ち金を失うばかりだ。
淡い期待は裏切られるばかりなのだ。
「親の財産を全部、無くしてしまった」自嘲気味に言うのは、利根輪太郎の知人の倉持聡一郎である。
「酒でも飲んで行くか?」倉持がバスを降りながら背後を振り返る。
多くの人々が足早にバスを降り、駅の階段を上っていく。
倉持と輪太郎は焼き鳥屋へ向かう。
「非凡に発想し、車券を買う」倉持の口癖であるが、常に実行に至らない。
オッズを点検している内に、倉持の思考は凡庸になるのだ。
オッズに左右され「堅そうだな」と思い込む質なのだ。
競輪は走る格闘技であり、倉持が軸にして買った3番選手が、5番選手に外に張られ失速して後退する。
「3番は捲り切る勢いで追い込んで来たのにな。5番に邪魔された」
それが競輪である。
あるいは、倉持が軸に買った7番選手が逃げてしまう。
そして4着に沈む。
「なぜ、逃げるんだよ!バカ野郎!」倉持が7番選手に向かって罵倒する。
「非凡に発想し、大胆に車券を買う」伝説の車券師東剛志のことが思い出された。