先週末、妻と息子が旅行にでかけた(今日帰ってきました)こともあり、
「ぶらあぼ」(レコード店などにおいてある、クラシックのコンサート中心のフリー情報誌)に載っていて見つけた、
敬愛する伊藤恵さんのピアノコンサートを聴きに、代々木上原のムジカーザという小ホールに。
1995年にオープンしたとのことですが、寡聞にして知りませんでした。
そもそも、学生時代(1994~98年)に小田急線沿線に住んでいながら、代々木上原にまともに降りたことがないことに気づきました。
駅高架内のチェーン店とは別に、町の本屋さんが(^^)
古本も扱うこんなお店も。飲食店も充実している様子。いい町ではありませんか。いやが上にも期待は高まります。
この日は年6回のホール主催のコンサート。会場内は会員のバッジを付けた方も多く、会員さんが支えている、アットホームなホールとの印象。
プログラムはいずれもシューベルト作曲、
ピアノ・ソナタ第13番 イ長調 D664、
4つの即興曲 D899、
ピアノ・ソナタ第21番 変ロ長調 D960。
ピアノは、このホールにあるスタインウェイとベーゼンドルファーのうち、主催者の希望でシューベルトゆかりのウィーンの音色、ベーゼンドルファーが使われたと、ホール代表の方が演奏前に紹介されました。
そして、私にとっては、2005年12月のジャン・フルネ指揮・都響の2夜連続のフルネのラスト・コンサートの第1夜、サントリーホールでのモーツァルトのピアノ協奏曲23番いらい、機会を待ち焦がれた伊藤さんの生演奏。
シューマンの全ピアノ曲録音「シューマニアーナ」完結後、ここ数年、自らの封印を解いてとりくんでいる、「伊藤恵のシューベルト」を初めて聞く機会となりました。
1音鳴ると、こんな音色が!とまず感激しました。
シューベルト最期の年に書かれた、21番の終結に向かって、真摯な全力の演奏を聞かせてくれました。
21番は、リリー・クラウス演奏・1979年録音のCDを持っていますが、
クラウスの演奏はモーツアルトに心奪われて聴いていたので、シューベルトのこの曲の言葉では言い表せないすばらしさを、真剣に聞いていなかったなあと気づかされた思いでした。
まさに全身全霊の演奏と、伊藤さんの呼吸、演奏しながらの声も聞こえ、
何より、ピアノという巨大な楽器が鳴り、振動している様を目の前の特等席(全席自由でした)で体感でき、
10年に1度の幸せな演奏会でした。
プログラム後半の最初と最後に、伊藤さんの口からシューベルトへの熱い思いが語られました。
テレビでなく伊藤さんの肉声を聞いたのも初めてだと気付きました。
鳴りやまない拍手に応え、アンコールを弾こうと思ったが、
21番を弾ききって、「これ以上出ません」とアンコールなしであることを聴衆にやさしく告げた誠実な姿にも、
納得がいく、すばらしいコンサートでした。
終わると、会員さんたちが椅子を重ねて片付けていきます。まるで息子の学校でのわれわれ保護者たちのように。
このホールの演奏会は、会員の方は料金にその後のパーティー代が込み。
私のような1回券の聴衆は、コンサートのみか、パーティーともかの料金が選べます。私は貧乏暇なしなので、奮発したとはいえ、前者。
小規模な、質の良いこのようなホールで、音楽とワインと語らいが演奏家を囲んで楽しめる…こんな幸せはないと言えよう(今年亡くなった合唱・オケ指揮者・音楽評論家の宇野功芳さんの語尾のまね)とうらやましく思いながら、
国会前での行動に合流すべく、都心に向かう地下鉄に乗り込んだのでした。