巨匠 ~小杉匠の作家生活~

売れない小説家上がりの詩人気取り
さて、次は何を綴ろうか
【連絡先】
cosgyshow@gmail.com

終焉の前奏曲

2018-08-26 16:33:04 | 
『終焉の前奏曲』

空を行く白鷺の舞に魅せられるよう。美しきものを美しいと認める審美眼が出立の邪魔をする。

「さあ、ここへおいで。」

時を止めてまで招き入れる声に、誰もがすべての理性を失ってしまう。

それは裏切り?
誰に対してのものなのか。

略奪しようが、されようが、すべての始まりは終わりの始まりだ。それが分かっていながら過ちに手を染める。

まだ築かれぬ未来なら、いっそ、崩してしまおう。行く手を阻む向かい風の意味も知らず、前へ、前へと進んでいく。

誰かにとっての幸福は、他の誰かにとっては悪行かもしれない。
心に素直に従えば、正否を超えたどこかへ辿り着くことだろう。

では、前奏曲(プレリュード)を奏でよう、本番は長くは続かない。じきに迎えるであろう終焉を祝して!

一定の揺らぎを見せながらも我が人生は順調なり。

心に暗い影を落とす夜叉の舞を除いては。


赤い涙

2018-08-26 12:14:48 | 
『赤い涙』

火星は光っている
赤く、赤く、妖しい輝き

水星も光っている
木星も光っている
星々の光るこの夜空に
誰かの涙が乱反射している
人々の喜怒哀楽の投影
それが夜空の星粒だと
大人になってようやく気付いた
僕の涙が涸れたときにやっと

数え切れない喜びと悲しみが
火星をはじめ、恒星を構成する
僕は夜空を見上げながら
いつもより赤い星色に想いを馳せる

星屑の欠片は地上の衆生の生き様だ

僕は想像の遥か彼方で
夜空が演じる人生劇場を堪能する

振り返ると涙を流した少年が
天を目掛けて走り出していた
彼の涙は火星に届くのだろうか
僕は天空に視線を遣りながら
不意に瞼に滲んだ雫を指で拭う

空が白む
火星が消える
星々は輝きを失う
そうやって朝を迎えて
人々は新たな一日を謳歌する

あゝ、今宵も誰かの涙が
夜空を埋め尽くすことだろう
僕は嬉し涙が悔し涙に勝る星空を願い
まだ夜が明けたばかりの淡い青空を見上げた
そこには我関せずと分厚い雲が横たわっていた