きらく堂日記

鍼灸師の喜楽堂が日々の出来事、過去の思い出、趣味にまつわる話などを綴った日記帳(=雑記帳)です

音楽家と肩こり

2011年01月27日 | 日々の暮らし
飛び込みでマッサージのお客さんが来ました。
頚と肩のコリと腰痛を訴えていて、時間が無いのでマッサージを30分して欲しい・・・とのこと。

 頚が太く胸の厚みも並ではないので、「何かスポーツをされていますか?」とたずねたのをきっかけにいろいろ話していただきました。患者さんはクラシックの音楽家で埼玉に住んでいるが、三浦市の中高校で吹奏楽部の指導を十数年間しており、コンクールが近付くと頻繁に指導に来ているとのことで、指揮棒を振ったりしていると肩がこってしまうし、また頚がいつも張った感じで辛い・・・とのこと。 

また自分自身も管楽器(トランペットよりデカイと言っていたのでコントラバスか?)の奏者であり、吹く時に頚の筋肉を強く緊張させる必要があり、そのため頚が太くなったと言っていた。背筋の発達も、良く来るウインドサーファー達並に発達しており、相当重い楽器を使っているのかもしれないと思いつつ、あっというまの30分が過ぎました。

 さて、呼吸運動とは、言うまでもなく胸郭の運動によっておこる肺の拡張と収縮によりますが、その運動に使われる筋肉は呼吸筋とよばれます。横隔膜や胸壁筋が主体になりますが、実際には頚部、胸部、腹部の筋も共同して働いています。さらに姿勢をしっかり支えるためには腰部や下肢の筋も使われますし、また楽器を演奏するため指を速く正確に動かすためには上肢帯といわれる肩回りの筋肉の緊張も必要になります。

 吸気で使用される筋、すなわち胸郭を持ち上げる筋は頚部にある胸鎖乳突筋、斜角筋、肩甲挙筋、胸部にある大胸筋、外肋間筋、肋骨挙筋、それに横隔膜です。呼気で使用される筋は胸部にある内肋間筋、肋下筋、胸横筋、腹部にある腹直筋、内腹斜筋、腹横筋、外腹斜筋などです。
 
 さて、頚肩のコリは使用する筋肉のオーバーワークにともなう筋の損傷とそれにともなう筋緊張による血行障害が原因の一つですが、ほかに重要なのは横隔膜と肩こりとの関係です。頚には7個の椎骨がありますが、各椎骨の間から頚神経という末梢神経が出てきており頚や肩や上肢などの運動や感覚を支配しています。この内第3頚神経(C3)は頚部を、第4頚神経(C4)は肩部を、第5頚神経(C5)は上腕外側の三角筋あたりをそれぞれ支配していますが、実はこの3本の神経は下に下って横隔膜も支配しており、横隔神経と呼ばれています。

 なんで頚から出た神経がお腹の方にある横隔膜を支配しているかというと、昔ヒトが魚類だったころ(現代でもさかなちゃんが居ますが・・・)のエラの名残だといわれています。前に「ウオーター・ワールド」という映画でケビン・コスナーが演じていた両生人間のエラが耳の後ろにありましたが、この位置だと頚神経が支配するにはピッタリですね。

 横隔膜自体やそれに近接する臓器、例えば肝臓、胃、心臓、肺、などに異常がある場合、横隔膜に分布している横隔神経の神経終末(感覚受容器)が異常をキャッチして脊髄を通って大脳皮質の体性感覚野に信号を伝えますが、この信号伝達の過程や大脳皮質での情報処理の過程で、もう一方の神経支配領域である頚、肩からの信号と錯綜してしまい、頚、肩に異常があると誤解し、反射的に防御的筋緊張を発生させてしまうのが内臓から来る関連痛・コリといわれるものです。

 鍼灸師は常に肩こりの原因を、筋肉そのものの問題、末梢神経の問題、中枢神経(脊髄、大脳)の問題、内蔵の問題、さらには心因性の問題と分けて鑑別を行うよう心がけているのです。前にも書きましたが、肺がんから来る肩こりもありますからね。
管楽器奏者は横隔膜のオーバーワークによる肩こりも推測される訳です。

ほかにも、オーバーワークや姿勢性によるものとして、ピアノ教師、趣味でバイオリンを習っているおばさん、吹奏楽部でチューバを吹いている女子高校生なども頸、肩のコリ、頭痛などで良く治療を受けに見えられます。
パソコンも同じで、ついつい根をつめてしまい、気付かない内に長時間の作業をしてしまうのが原因の一つと思われます。

(鍼灸マッサージサロン・セラピット)

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