夜窓より ☆私の考えなり流儀なり☆

日刊『中・高校教師用ニュースマガジン』に連載中の教育への雑感をまとめておきます。夜間定時制高校の教師の視点です。

「夜窓より」(22)

2012年09月05日 | 教育
「夜窓より」 (22)

瀬尾 公彦(愛知県)
seo@ksn.biglobe.ne.jp

(海外修学旅行の話 2)

毎年のルーティーンである物事を大幅に変えることは官僚的な学校にお
いてはなかなか困難なことである。提案する私にしてみても、修学旅行
を海外にするということに対していくつでも反対意見を並べることは出来
る。そこを乗り越えることはなかなかパワーのいることで、少し障害があ
ったり不愉快なことを言われれば何の為にこんなに苦労してやらなくては
いけないのだとかいじけることも容易である。言い訳を用意して投げ出す
ことも又容易である。

 @@すべきという一事で突破できるほどこの闘いは甘くはない。結局
私の場合、実現すれば面白そうだという遊び心と、海外に彼らを連れて行
く事のイメージを実際に見てみたいという好奇心が原動力となっていた。
 又一つには、賛同してくれる仲間の存在もあった。他の物事と異なり、
学校行事なので、一人だけで出来ることでもない。結局8年間海外の修学
旅行は継続されることになるが、これもまた仲間によって支えられたと言
って良い。

 さて、まず前史として、その2年前ほどに職員の親睦旅行でグアムに行
ったこともやはりこの計画が実現したことに有利に働いている。たまたま
私が幹事で、少しお金を追加して家族なども同行して、楽しい旅行となっ
ていた。グアムの安全性を肌身で職員の多くが感じていたことも「海外」
への抵抗感のなさにつながっていたことと思う。

 話は前後するが、「海外」の候補地を考えるときに、韓国、中国なども
検討したが、学校交流はどこでも出来るとして、他の要因をいくつか比較
していった。当時修学旅行は6万5千円が上限であり、海外においては確
か9万円が上限であった。しかし定時制と言うこともあり、大幅な値上げ
は難しい。入学時より6万5千円を想定して積み立てているわけで、その
差額分を徴収する必要がある。様々な折衝の結果、7万9千円の計画とな
った。

 グアムに決定した要因としては、趣意書に書いたとおりである。安全性、
自然、街が狭く迷わないこと、英語圏であること、日本統治の戦争の歴史
があることなどである。思いつくままにその中身について書いていきたい。

①警察署見学

 旅行代理店の方も、私の趣旨に賛同してくれて、仕事を超えて支えて下
さった。また現地の代理店のスタッフの方もグアムへの修学旅行の計画を
大変喜んでいただき、いろいろなサジェスチョンをいただいた。たまたま
現地の担当の方の夫が警察官であり、警察署の見学というのもルートに入
れた。これは最後まで継続した。実際の警察署で、いいのかなと思いつつ
有刺鉄線の中の受刑者に「ハロー」とか声をかけられることもあった。本
物の銃を触らせていただいたり、手錠をかけられて護送車で記念写真を撮
ったりした。ハーレーにまたがったり、檻の中で写真を撮ったりした年も
あった。

②学校交流

 学校交流はカレッジで日本語を勉強するクラスと交流をした。年齢層も
結構様々で定時制という感じでお互いフランクに交流できた。向こうは、
日本語で歌を歌ったりダンスを踊ったり、こちらは筆ペンで日本語を教え
たり、けん玉など日本独特のパフォーマンスを用意して、少人数で班を作
って楽しく交流した。日本人相手では引っ込み思案な生徒達も結構がんば
って交流することが出来ていたと思う。メール交換をしたり、翌日の観光
にも顔を出して一緒にバスに乗ってガイドしてくれた生徒もいた。年によ
って、向こうもこちらもノリのいい生徒の多い年と悪い年とあったが、生
徒達は概ね楽しい機会と捉えていた。

③スポーツ体験

 PICと言うホテルにて一日スポーツ体験をした。当初は別のホテルであっ
たがすぐこのホテルに宿泊することにした。施設内の大きな池のようなと
ころで体験ダイブも出来、テニス、バドミントン、スカッシュ、アーチェ
リー、卓球、ビーチバレーなどそれぞれにインストラクターがいて楽しま
せてくれる。運動の苦手な生徒も先生達とパターゴルフをやったり、カヌ
ーに乗ったりして楽しんでいた。私は一通りつきあうと、海やビーチサイ
ドの長いすに寝っ転がり読書してくつろいだりしていた。ハンモックなど
もあった。
 お昼はホテルの豪華なバイキングで、「こんなにおいしいもの初めて食
べた」と言うような生徒もいたことを覚えている。スポーツに熱中してい
る生徒は一日そこで過ごして、もういいやと言う生徒達は午後から市内を
先生が付き添いながら繁華街をぶらぶらした。
 
④現地のお祭り

 チャモロビレッジという場所で週1回ちょっとした出店が出て、現地の人
が踊ったりするのを見つつ、その熱気を感じたりもした。夕食がわりにこ
こは自腹で買い食い。そう言うのが苦手な生徒はホテルの近くのレストラ
ンで食事をした。

⑤バス観光

名所スポットである「恋人岬」や海の中に階段で下りてきれいな熱帯魚を
見る「フィッシュアイ海中展望台」などを半日観光した。かつての戦争で
使用された真っ暗な防空壕も見学した。

⑤所持金

 アンケートによると大体お土産など1万円くらい使った生徒が多かった
が(職場や家族など義理のお土産をたくさん買い込む生徒も結構いた。)
なかには一年間でここで使う為に10万円以上ためて(母親から聞いてい
たのだが)気合いを入れてシャネルのバッグを買った女生徒もいた。それ
も又仕事をしている定時制の生徒ならではのことであろう。バッグを握り
しめて、店員さんと店で撮った彼女の笑顔は実に輝いていた。

⑥アンケート

 毎年アンケートを細かくとったが、ほぼ100%の生徒達が「楽しかっ
た」と言う意見であった。それを見るといろいろと苦労した事が報われる
感じでほっとしたものである。

さて、次回はその苦労の部分を書いて、この稿を閉じたいと思う。

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 中学はほとんど行けなかったので
 高校は定時制に入った
 最初はこわそうな人たちもいて
 どきどきしていたけれど
 友達が二人出来た
 二人とも私と同じように 
 おとなしくて真面目な子たちだ
 4月21日
 私の誕生日に学校に行くと
 二人からかわいいキーホルダーの
 プレゼントをもらった
 うれしかった
 本当にうれしかった
 人のあたたかさに触れることは
 本当に素晴らしいと思った
 私も、
 こんな私も
 二人の友人達に
 これからたくさんの
 あたたかさを
 プレゼントできたらと思う
 
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