“手をつなぎたいと思った。
初めてのデートの帰り道、彼の腕の揺れるタイミングに合わせて私は彼のほうに手を伸ばす。ちょんと手が触れると彼の手は反動でピクっと動いた。そのピクがどういう意味なのかわからなくて、私はそれ以上、手を伸ばすのをためらう。嫌だったのか、それとも照れくさいのか。
私はなんだか恥ずかしくなってうつむいた。すると、彼の掌が私の方へ向いた。その掌の意味がわかる私は、彼と通じ合っていると思っていいのだろうか。彼の手にすっと自分の手を重ねると、彼はぎゅっと握り返してきた。
「ほんとは」小さな声で彼は言う。「ほんとは、ずっとつなぎたいと思っていたんだ」彼の手はとても温かくて、大きかった。”(5月14日付け中日新聞)
「300文字小説」から東京都の大学生・久保田さん(女・21)の作品です。偶然にも前回に続いて続いて手をつなぐ話です。
これはノンフィクションであろう。久保田さんの嬉しさを現している。初々しさが感じられる。若いっていいなとつくづく思う。こんな気持ちを持ち続けて欲しいものだ。こんな話を聞くと、ボクもこの頃を思い出す。会える機会を一生懸命模索し、そしてお互いの愛を確信した後には辛いことが待っていた。でも今思えば貴重な体験だったと思う。辛い体験などない方がいいが、それも与えられた人生である。それがあって今があるのである。久保田さんのこの先の幸運を祈りたい。
今の若い人達の生態をほとんど知らないが、すぐにセックスに走る気配も聞く。もっとじっくり愛を確立して後のこととして欲しいと・・・老人は思う。セックスは体を傷つけることでもある。すべての愛が成就することはない。というより破断することの方が多いのである。