馴染みの蕎麦屋の主が言う。
「福岡の人は蕎麦屋の飲み方を知らんですもんね」
料理をあれこれ頼んでワヤワヤ飲んで、締めに蕎麦を啜る、というのが多いらしい。
「まるで居酒屋ですもん。蕎麦で酒を飲むということを知らんのですよ」
実はオイラも蕎麦屋の“イキナノミカタ”ってのが、聞く人によって微妙に違うので、イマイチピンと来てないのだが、
主によると、蕎麦がきや蕎麦切りで酒を飲む。物足りなければ板わさ、鶏わさ、玉子焼なんかの蕎麦屋にある材料で作ったアテを食べる、ということらしい。
まあ、実のところはお江戸に上って実際に飲んでみるしかあるまい。
ここの主はほんと研究熱心で、福岡でもいちはやく江戸スタイルを取り入れているのだが、
そんなこんなで今は江戸風よりも、蕎麦を準主食として年中食べていた信州や東北の食べ方を研究しているそうな。
筋は通すが固執はしないという姿勢には敬服するばかりである。
ところで、いつも疑問に思うんだけど、蕎麦ってのは、それこそ寒くて痩せた土地でも育つし、
生育が早いので飢饉対策にされていたほど。
おまけに蕎麦打ちはたいして修行もいらず、うどんほどの手間もかからず、格好の脱サラ職業だと言われる。
なのにまともな蕎麦屋はなぜ高い?
時代を経て蕎麦がすっかり高級食材になってしまったのだろうか。
なかにはそんな疑問にこたえてくれる店もある。
生粉蕎麦(つなぎなし)の“三たて”でざるが290円。
当然、安く抑えるための裏技(別に“裏”という訳でもないが)はあるし、
旨いとはいえ、前述の店ほどのものではないのだが、
この値段を考えれば十分文句なしの内容。
もちろん高級な店も安い店も両方あって然りなんだけど、
しょせん福岡、もちっと庶民的な店があってもいいんではなかろうか。