出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

今どきの口コミの原理

2006年04月17日 | 宣伝
たまにいろんな話を聞くが、うちでは「やらせ書評」は一切やっていない。やらせ購買ならやろうかと思うこともないではないが、書評がいくつか増えたくらいでどうかな?と思うからだ。

で、今回の「売れ行きの読みづらい、著名人の本」だが、あっという間にオンライン書店で書評が書き込まれている。で、またみんな似たような感想を述べている。

私は企画段階から自分で好きなように本を作ってしまうので、他人の感想には非常にナーヴァスに反応する。原稿が完成に近づいた時点でとりあえず社内の人間に読んでもらうんだが、妙に好評でも全面的には信じないようにする。

で、今回の書評だが、「社内の妙に好意的な感想」と同じなのである。

最初に考えたのは、「私の苦労を知ってる社内の人間が、あちこちに書いている」ということ。それにしては、感想を述べた後は自分の仕事に戻って「出版は○○さんの仕事でしょ」のごとく無視をしている。

次に考えたのは、「ある熱烈な著者のファンが、あちこちに書いている」ということ。それにしては、微妙に言い方が違う。それも、ひとつの文章を表現を変えて書いてみたというのではなくて、アプローチも違う。ただ、言ってることが同じ。

よくわからないが、それぞれのオンライン書店に書き込もうと思ったら、コピーペーストをすればよかろう。それに、表現を変えて書いてみたらどう変わるか、一応「言葉産業」にいるものとしてはわかるつもりだ。

今回はどうも、「それぞれの感想がたまたま同じようなものになっている」としか思えない。今までは人によって反応が違う本ばかりだったので、私自身が変に反応してしまう。

ただ、この書評の書き込みにはずいぶんタイムラグがある。ある書評を書いた人が別の書評を読んだという可能性は充分にある。

…と、そこまで考えて、巷の口コミというのは、そうやって「いい!」という「路線と「ダメ!」という路線に分かれていくのかもしれないんじゃないかと思った。つまり、本自体だけでなく既存の書評にも影響を受けた書評が、どんどん生まれていくってことだ。

思い出してみると、前回の本では「書籍概要と書評を読んでどうのこうの…」というコメントが一人歩きまで始めた。それと似たようなことがちゃんと本を読んだ人にも起こっていて、口コミってのを生むんじゃないか。

今まで口コミといえば、「ある主婦がある商品を使ってみてよかったから友人主婦に勧めて、その友人主婦が使ってみてよかったから・・・」みたいなものだと思っていた。けれど、買う前に読んだ書評」に少々影響を受けるってなことはあると思う。

それが「そうだよな~」となるか「期待はずれ」になるかは、本そのもの次第だったり読んだ人次第だったりするんだろうが。ただ、万人ウケするものに関しては、口コミが口コミ以上に作用するってこともありそうだ。

例えば、比較的括りやすいタイプの女子高生向けの本だったら、その括られた女子高生の感想はほとんど同じになるんじゃないか。で、「これだけ多くの女子高生がいいと言ってるんだから!」と、効果は雪だるま式になる。

これは、ひとりがいいと言って「あら、そう? じゃ、あたしも買ってみようかしら」と反応する普通の口コミとは、別のもののような気がする。効果というか、費用対効果ならぬ「時間対効果」がめちゃくちゃ違うような気がする。

もしかすると、こんなことはマーケティング界では当たり前のことで、それをちゃんと理解&実行している出版社が、「わかりやすい」本を出しているのか。

巷には「わかりやすい」本がいっぱいある。わかりやすいってのは、読みやすいとか理解を促すってことではなくて、企画段階から販売まで一連のやり取りが想像しやすいってことだが、そういう本が多いなと最近感じていたのだ。

もしかすると、これは「口コミの作りやすさ」から来るマーケティング戦略なのか。

うーん、専門家にじっくり質問してみたい課題である。