出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

書店向けFAX営業

2005年03月06日 | 宣伝
<メルマガのバックナンバーです。昔の話です。>

新聞広告は高くて、まあ雑誌など紙媒体なら大体一緒だろうから、広告はやめようと思った。

それに、突然聞いたこともない出版社のただの資格本、そんな広告を出しても、もともとニーズがある人にしかアピールできないだろうと考えた。

おバカなもんで、なんとなく「迷っている人にアピールして行動を起こしてもらう」のが、広告だと思ってた。

本当は、潜在読者にきちっと本の存在を伝えることがとても重要だ。知らなければ買えないから。けれども、当時は「新刊本の多さの影響」をまじめに理解してなかった。

ただその頃の勉強で、知ってたことがひとつある。自分が本屋に行く場合、目当ての1冊を探しに行くとき以外、ほしいジャンルの棚にある本の中からよさそうなのを選ぶ。けれど、初回配本数(委託)が1000冊とすると、とても全国の書店(約2万店?)には行き渡らない。書店にないものは、だから買ってもらえない。

しょうがない、書店に置いてもらうように営業をしよう。手っ取り早いのはFAXだ。ちなみにうちはIT関連の事業もしてて、コンピュータやネットに疎くはないんだが、書店員が仕事中に見てるのはパソコンじゃなくてPOSだろうと思って、メールはやめた。

出版の話を持ってきた例の知人に「書店データ持ってるか」ときくと、やっぱりあるという。このおっさんは、なにしろ営業関係は強い。おまけにバイトを使って、すでに同報FAXできるように番号打ち込みしてあるという。ホントは「あんたが作れって言った本だろ」と思ったが通信費はこっちで負担して、一斉に送ってもらうことにした。

で、本屋向けの「新刊案内」なるチラシを作る。ごちゃごちゃ書いてあるより「タイトル、出版社、著者名、値段」をスパッと明確にした方がいいとどこかで読んだので、そうする。

が、これは有名な出版社、有名な著者に限った話だと知るのは、これまた後の話だ。

なんかこう書いてると、私ってバカですね。出版というと、どうも「知らない世界」が先行してまったく頭が働いてない気もします。

FAXを頼む関係で例の知人の事務所でチラシを作っていたら、横から覗いて、ごちゃごちゃ言ってくる。イラストを描いてアーティストの気分を満喫した後なので、レイアウトについての彼のコメントはちょっとむかつくが、言ってることは正しいので従う。

曰く、
「注文を書き込むところは、短冊(本の注文書)と同じスタイルにしろ」
「取次はどこを使ってるか、ちゃんと書いとけ」

取次を書いておかないと、ただでさえ「どこの馬の骨」なのにどこかの個人の自費出版と間違えられてしまう。別に自費出版がダメってことではない。まとめて返本できないとか支払とか契約とか面倒くさくなくて、普通の版元ですと、言いたいだけ。自費出版については、また後日。

ブログ初心者 その2

2005年03月04日 | ただの雑談
ブログで世界が広がると聞いてたが、ほんとに、こんなところにもいろんな人が来てくださる。おまけに、業界人間に恐怖心を抱いている私としては、「どこそこのパーティーに行かなくても」生の声が聞けるのは、涙がちょちょ出るほど嬉しい。

ちなみに私はつい最近まで部外者だったので、本で読んだり話に聞く「誰それさんの出版パーティーであの人にもあの人にも会った」系統の話に弱い。弱いっていうのは、ヨロヨロ誘われてしまうのではなくて、ケッとか思って無視しようとするってことですが。「営業苦手コンプレックス&部外者コンプレックス&ステレオタイプ編集者忌諱」などなどの複雑な思いを抱いて、結局は避けてしまうので。

ネットのありがたみをここでも感じる。

そうじゃなくても、紙やすりをはじめとして、本当に勉強になる。いや、紙やすりにこだわるわけじゃないんだけど、知らなかったら絶対わからないって! 紙やすりなんて使ったの30年位前だもん。

でも、ブログって時間食いますね。あちこち行ったりして。慣れないもんで、ページ構成が違うと余計に時間かかるし、いくらでも広がってく。

本の宣伝

2005年03月04日 | 宣伝
<メルマガのバックナンバーです。昔の話です。>

返品の山(まあ、山と言うほどじゃないけど)を目にして、ようやく出版業について勉強し始めたわけだが、ひとつ難題が出てきた。

情けないことに、私は営業嫌い&苦手。

今まで、不特定多数の人に物を売った経験がなく、なんとなく口コミで紹介された客にプレゼンする程度で仕事を得てきたせいだ(といってごまかす)が、経営者たるもの、それじゃいかん。

で、本の営業ってのはどうするのか調べた。営業というか、売るための行為ですかね。

まず宣伝。これも知らなかったことが多かった。

新聞の下の方の広告スペースが、いつも本の宣伝に使われてるなんて、今まで気づかなかった。言われてみればそのとおりだ。一面から本の宣伝だ。雑誌とか、新刊とか、あと数社並んでるのもある。

世の中にはいろんな商売がある。出版なんて、売上ベースでは小規模産業らしい。なのに、新聞というマスコミの大媒体の一部を、ほぼ固定で「本」に使っているというのが驚きだ。

出版社向けには別の広告料金があるのかと思った。だって、本なんて1冊平均千円くらいでしょ、印刷代、取次手数料、印税やらなんやら払ったら、広告費なんて出ないよな。

新聞広告の相場というか、高いことは知ってる。きっと出版向けにあのスペースは安くなってるんだ!

広告なんて、広告主と代理店の力関係なんで、知ってる代理店に聞いてみた。

ところが、その知ってる代理店のよく知ってる担当者は、書籍広告スペースについてはあまり知らなかった。とりあえず各新聞社の料金表を持ってきたが、

別 に 安 く な い 。

調べると、あのスペースは、いつも似たような面子の出版社が並んでいて、その他大勢の小さい出版社はあまり広告を出さないらしい。あんなに高かったら、うちみたいな新参でなくとも当たり前。

他には、本の広告は売れてきたときにもっと売るために出すことが多いらしい。「増版出来!」とか「5万部突破」とか。で、「こんな本が評判になってるんだ、買ってみようかな」というふうにあおるわけだ。

もうひとつ驚いたことに、「うちはまだ生きてますよ」と書店に知らしめすためにも出すらしい。

こいつはビックリだ。倒産してないことを遠方の見知らぬ小売店に知らせるために新聞広告出すバカが、どの商売にいる?と思った。

だって書店って全国に2万かそこらあるらしいけど、全部にファックス送ったってコストは知れてる。新聞広告は何十万だ。ん?変わらないか。

いやコストの話じゃなくて、なんか捜索欄みたいじゃないですか。父危篤、うちは生きてるって。

出版って古い体質がいっぱい残ってるってどんな本にも書いてあるけど、新聞広告でそれを感じるとは…

ま、うちはただの資格本だし、広告料金高いし、別の宣伝方法を学ぶことにする。

初めての返本

2005年03月03日 | 返本
よくお分かりだと思うけど、私は1冊目を出すまで何の努力もしていない。棚ぼたの取次口座に、人任せの本作り。委託の納品が終わって、ちょろちょろと注文が入って、めちゃくちゃいい気になっていた。

が!
委託納品の日の2週間後、日販のトラックがやって来た。20冊の束を3つくらい置いていった。ええっ、こんなに!・・・と驚いているのもつかの間、その2日後トーハンも来て、同じようにドサッと置いていった。

これが恐怖の返品だ。

それまでは、委託期間は6ヶ月と聞いて、なんとなく6ヵ月後に売れ残りを精算と思っていた。どうせ委託販売の売上は6ヵ月後にしか入ってこないんだから、そのときに「納品した数-返品数」の入金があって、売れ残った本がちょっと返ってくる…という感じを想像してた。

とんでもございません。山のように返ってくる。最初に日販のトラックのおじさんが来てから3週間くらい、トーハンも日販も、毎回3つも4つも束を置いてった。

ここでノー天気な私も「こりゃ、いかん!」と思った。作ってしまった本はしょうがないとして、売上のためにはもう少し出版業そのものについて勉強せにゃならん。ここでようやく、出版に関する本を読み始める。ネットでも調べ始める。

すると、返品というのは、奥の深~い問題だとわかってきた。そこから芋づる式に業界のいろいろもわかってきた。

しかし業界のことがわかったって、あまり役には立たない。いや、もともと何にも知識がなかったんだから知ったという意味では役に立ったんだけど。

「くだらない本をたくさん発刊し過ぎる版元」、「新刊が多過ぎて、取次からの箱から出しもせずに返品する書店」、そんなことわかったって、じゃあ私はどうすればいいのって簡単にはわからないでしょ。

流通の膿とかなんとか言ったって、へえ~ってなもんで、うちの最初に出した1冊の返品が減るってモンじゃなし。ま、次回以降に生かすための雑多な知識というところか。

で、しばらく返品の束も一緒についてくる伝票もほうっておいたが、さすがにいかんと思うようになった。どうすればいいのかわからないが、とりあえず伝票だけ別にしてとっておくことにした。

前にも書いた気がしますが、品物を扱った経験がなくて、伝票とか納品書とかどうも馴染みがなかったんですよ。

で、汚い紙のついた返品の束、もともと汚いんじゃなくてトラックで運ぶ間とかに汚れるんでしょうけど、その束がドサッとあると見た目にも汚らしいので片付けることにする。

ほどいてみると、束だけでなくて本自体も汚れている。紐の痕がついてたり、オビが切れてたり。普通返品って、きれいなモノしかしないでしょう! 「使用後でも返品できます」なんて怪しい化粧品じゃあるまいし。

しかし出版業界の返品ってのは、そういうもんらしい。

怒ってもしょうがないのでどうしようと考えていた頃、「一家総出で返本にグラインドをかけた」とある本で読んだ。おうっ、これか。グラインドというのは研ぐとかいう意味だから、ブックオフのレジの奥でガーガーやってるあれに違いない。

しかし想像するだけであの機械は高そうで、メーカーから見積もりを取る気にもならない。しょうがないから、消しゴムで周りをきれいにする。ちなみに本の周りの横は小口、上は天とかいうらしい。

どこで付いたのか、たまに赤い線が付いている。悲しいことに、これは消しゴムでは消えない。

カバーが傷んでいるもの、本体が傷んでいるものと分けて、消しゴム組にキレイなカバーをかけ直して作ったキレイ組を次回からの注文納品に当てることにする。

ついでに言うと、書籍メインの印刷屋は、カバーとかオビの予備を刷ってくれるが、そのときはそんなこと知らない。

取次の納品口にて

2005年03月02日 | 注文納品
注文納品だが、取次からと電話で直接来るものの2通りある。

取次から来る場合、例の取引口座開設のときにどうするか決めておく。注文書を送ってもらうか、取りに行くかなんだけど、トーハンと日販で違う。ちなみに注文書は、短冊とかスリップとか呼ぶ。

トーハンは、注文の書籍の納品口に棚がある。10センチ四方で奥行きが20センチくらいに仕切られていて出版社が割り当てられている。そこに入っている注文書を受け取る。いっぱい入っていると嬉しい。

日販は、郵送されてくる。そのために前もって切手を貼って住所を書いた封筒をまとめて送っておく。前回書いたように日販はめちゃくちゃ遠いので、行ってみて注文ゼロじゃ悲しいから、そうしてもらった。

うちのレベルだとそんなに多いわけじゃないので、1枚1枚ニヤニヤしながら「吟味」する余裕があります。「おうっ、はるばる鹿児島からじゃないか!」とか、「紀伊國屋さん、売れたら黙ってても補充してくれる、さすが!」なんて感じ。

だから、トーハンは行ってみてのお楽しみ、日販は用意して、電話で直接受けた注文と一緒に納品する。

ちなみに納品口に行くのは、当然運送屋さんが多い。出版社や製本屋で本を受け取って納品するだけ。街で見かける引越し屋のような厳しい表情で、重い箱を運ぶ。ヤマトや佐川のお兄さんのような笑顔はない。

出版社から来る人も、搬入専門なのか、黙々と納めている。大手の雑誌編集者のイメージなんかからは程遠いおじさんがワゴン車の後ろを開けて、これも渋い顔つきで納品する。たまに派手なオバサンがいるけど、あれはきっと6人くらいの小さな出版社の社長の奥さん=専務と見た。

私の場合、本に短冊をはさむ瞬間が一番楽しい。自分で作った本なので愛着があるし、売上を実感できるから。おそらく、渋い顔つきの人が行き来する中、ひとりでニヤけてると思う。

最後に、納品書にはんこをもらう。日販はお姉さんが2人いるが、1日中はんこ押しで疲れるためか、すごくむすっとしている。最近は検数のためのおじさんが外にいるので、怖いお姉さんに会わなくて済む。トーハンは3、4人のイケてるお兄さんなので気分がいい。

ブログ初心者

2005年03月01日 | ただの雑談
この前見つけたとてもためになるブログに、初めてトラックバックというのをしてみた。

トラックバックって、なんだか黙って人のページを利用している気がする。コメントもしておくべきなのか。「トラックバックさせていただきました」ってコメントしたって、人のブログを使ってこっちのブログの宣伝してることには変わらない。そういうもんなんだろうか。

世の中ブログ大流行なので、やってみてるけど、いまいちわからん。20年近いネット暦も役に立たない。

いろんなブログを見てみると、出版に関するものだけじゃなくて、出版につなげたいと思ってる人のも結構ある。

「文章書くのに慣れていく」から、いいですよね、ブログ。うちの本で、最初に出てきた原稿がめちゃくちゃだった人がいた。あれは苦労した。「そんな人の本出すなよ」と言われそうだけど、うちは企画なんて誰も持ってきてくれない。だから、自らゴーストライターになる。今度、その話も書こう。


最初の頃の苦労

2005年03月01日 | 注文納品
なんやかんやで、見本納品が終わる。印刷屋から、どさっと本番納品(委託納品)も終わる。

ところで皆さん、気に入った商品が発売中止になることってありませんか? 私の場合、ラーメンの「マダム楊」って好きでしたね。中華三昧に負けて消えたと言われてますね。あとビールはサッポロが好きなんですけど、あの会社、宣伝下手で、美味しい新商品もあっという間に消えて、ずっと飲めるのって黒ラベルぐらいです。

本は、廃刊とかもあるけど、他の商品に比べれば寿命が長いんじゃないでしょうか。ずっと前に出たベストセラー、それもそのときだけ流行ったと思っていた本でも、版元に問い合わせるとちゃんとあったりする。印刷した残りですかね?

で、そういう本は、当然本屋にはないけど、取り寄せできる。が、そういう本は、取り寄せてから手元に届くまでに、10日も2週間もかかる。ひどいときは1ヶ月。出版始める前は、私もマジで怒ってた。

さて、大きい出版社や昔から良い本を出している老舗だと、毎日「なんらかの」取り寄せがいくつか来て、それをまとめて納品に行く。3年前に出した「なんとか大全」と2年前に出した何とかと…という感じか。

つまり、月に1回日本全国のどこかから取り寄せ注文がある本が、あれこれ30冊あれば、全部合わせると月に30冊。仮に注文納品を週1回してる出版社なら、1回7冊なわけだ。

で、うちは1冊だ。月に1回日本全国のどこかから取り寄せ注文があるとして、1冊。月に1冊・・・トホホ。さすがに新刊だからもっと多いが、少ないことに変わりはない。

上に書いたように取り寄せの遅さにむかついていた人間としては、なるべく早く納品してあげたい。とりあえずうちから取次まで持っていけば、あとはどうにかなる。大流通の流れに乗って、すぐに届けられるはず。

出版業は新人、まして本屋サイドのことは何も分からん。取次をはさんだ向こう側の世界だからね。
となると、一所懸命納品に行くわけですよ。1冊持って。

ちなみにトーハンは飯田橋と江戸川橋の間くらいにある。言ってみれば、東京の、まあ真ん中です。うちも真ん中のはずれ(変な言い方だが、辺鄙ではないという意味)にあるので、まあ、気にならない程度の距離。

日販! すごい遠い、これが。事務所は近いけど。そりゃ、土地代の高い東京で、倉庫や配送センターみたいなデーンとした施設ってあんまり都心にはないよ、どの業種も。けど、トーハンと比べて、エライ遠い!

そこに一所懸命納品に行くわけですよ。1冊持って。