出版屋の仕事

知識も経験もコネもないのに出版社になった。おまけに、すべての業務をたった一人でこなす私。汗と涙と苦笑いの細腕苦労記。

再版

2005年03月09日 | 出版の雑談
いつも勉強しに行ってる白取特急検車場で、再版の話がありました。

倉庫代とか売れる速度とか、うちとは規模やレベルが違う話だ。が、最近そのことを考えていたこともあって、議論に加わりたい気分。

出版を始めた頃、なんとなく「後世に残すのが出版の意義」「それが文化」みたいなことを聞きかじって、絶版にしないことに憧れを持ってた。当時は再版どころの騒ぎでなかったが、最近ようやく、ある本で初版が売り切れそうになった。

売り切れそうにはなったが、部数は少ない。出してすぐの話でもない。今後、ボチボチならどうにかなりそうだけど、印刷コストを考えると千部単位で刷らなきゃならない。

最初の頃の返本がトラウマになってて、本の束を見るのはあまり精神衛生上よくない。茶色の紙に包まれた新しい本でさえ、積んであるのを見るのは嫌だ。(うちは倉庫がないので、事務所のすみに積んである)

でもなにしろ絶版ゼロの「憧れ」があるので、すごく悩んだ。問題は、売れる速度もそうだけど、白鳥特急さんが言われるような良書じゃないってことだ。

うちは新刊点数が少ないので、私はどんな本でもめちゃくちゃ思い入れて作る。企画のときから他にない点で頭をいっぱいにして、思い込みの強さが逆に危ないくらいだと思う。

でもその本に限って言えば、ちょっと違った類書は多かった。3年経ったらただの類書が出そうなくらい、ジャンルとしてはありふれてた。

さあ、どうするか。印刷屋に見積もりをもらってからもしばらく悩んでた。そんな頃、どこかで古本の話を読んだ。

そうだ、出版初めてずっと新しい本ばかりに目が行ってたけど、世の中には古本屋ってもんがある。ブックオフはちとイメージと違うけど、神田とか。

年月が経っても手に入れたいと思ってくれる人は、古本屋に任そう。だって私は他に出したい本もあるけど資金の問題もあるし。いや、資金の問題っていうと、白鳥さんに怒られる版元と同じになっちゃうけど、優先順序ってものがある。(結局怒られるのは同じか・・・)

そうじゃなくて!

例えば、よく売れてるラーメンがあるとして、ラーメンは食べたらなくなる。「もっと食べたい」と言ってる消費者に、「コストがかかり過ぎるので、もう製造しません」と言ったらかわいそう。

でも、よく出版業界の難しさとかダメさの話に出てくる、「本はひとりで1冊しか必要ない」という話。あれを裏返せば、ラーメンじゃないんだから、版元の責任としてはある程度の数を世に出したらOKなんじゃないか。読んで、もう自分は要らないという人がいれば、どうにかなるんじゃないか。ここで資源ゴミに出すとか燃やしちゃうとかってのは、無視する。

そうだ、そうだ。

だから、最初に予想(期待)した読者の数に達するまでは、再版しようと決めた。うちの場合取次の条件がよくないので、「このくらいの読者はいる!」と自分でにらんでるほど、初回配本数は多くない。だから、それに達するまでは絶版しない。でも、きちんと行き渡ったはずと思ったら、後は古本屋に任す。

うん、そうしよう。

・・・と考えていたのでした。(もちろん、ワーッと売れたら勢いには乗りたいけど)