昨日いただいた「金子みす ゞの世界」にとっても素敵な詩とエッセイがありました。
みなさんに、一日遅れですがクリスマスプレゼントのお福わけしますね。
エッセイで旅する金子みす ゞの世界 より
露 金子みすゞ
誰にもいわずにおきましょう。
朝のお庭のすみっこで、
花がほろりと泣いたこと。
もしも噂がひろがって
蜂のお耳へはいったら、
わるいことでもしたように、
蜜をかえしに行くでしょう。
この詩に岸田今日子さんがエッセイを書かれています。私、このエッセイにハートをもっていかれました。皆さんももっていかれてください。(少し長いですけど、最後まで読んでくれると嬉しいです。)抜粋です。
つゆと涙と花と蜂 岸田今日子
みす ゞさんは、花がほろりとこぼした露のことを、だれにもいわずにおくという。
蜂が、蜜を取ったせいだと思って後悔して、返しに行くにちがいないという。
「だれにもいわずにおきましょう」とみすゞさんにいわれれば、わたしも「ええ」というしかない。
でも本当のことをいうと、蜂は、決して後悔なんかしやしないのだ。
あの人たちは働くことが好きで好きで、花がどんなに涙を流そうが、蜜を返す気なんか、これっぽちもありはしない。
わたしは蜂を飼っている人に聞いたのだけれど、蜂は集めた蜜が多過ぎると、そのためだけに新しく巣を造って、もっとたくさんの子どもをつくるのだそうだ。
みすゞさんはもちろん、そんなことは知らなかったにちがいない。
子どもを養うのに精一杯の蜂が、せっかく集めた蜜を返しに行くことになったらかわいそうだと思ってしまったのだ。
花が、蜜をあげるかわりに蜂にしてもらっていることだって、みすゞさんは知らないかも知れない。
みすゞさんの時代の生物の時間には、雌しべと雄しべの話だって、先生はしてくれなかったのかもしれない。
でも、みすゞさんが知らないように、蜂だって、もしかしたら自分が花にしてあげていることを知らないかもしれない。
ただ、蜜をもらっているだけだと思っているかもしれない。
そうだとしたら、働き者の蜂の中にも一匹くらいは、「悪いなあ」と思っている蜂だって、いないとは限らない。
朝のお庭のすみっこで、花がほろりとないた。
みすゞさんが、だれにもいわずにおきましょうといったから、みんなそのことは黙っていた。
うわさがひろがったわけではない。けれども、一匹の早起きの蜂が、それを見てしまった。
その蜂は、お返しもしないで蜜をもらって「悪いなあ」と思っている蜂だった。
蜂は、真直ぐに巣へ飛んで帰った。もちろん花に返す蜜を取りに。
けれども蜜はもう、巣の奥の方にしまってあったし、取り出すことはできなかった。
だからといって、他の花から取った蜜を返したのでは仕方がない。
蜂は悩んだ。どうしたらいいかわからなかった。
花の所に飛んで行って、小さな声であやまった。
「ごねんなさい。あなたの蜜を取ったのは僕です」。
花は黙っていた。
蜂の眼に涙が浮かんだけれど、みすゞさんは見たかしら。
最後までおつきあいくださって、どうもありがとうございました。
叶わないことだけど、金子みすゞさんと、岸田今日子さんの対談を聞いてみたいと思いました。
数行の詩を自分の感性で読む。そして文章に書ける。とってもあこがれますね。
花、虫など自然のものに日頃からあたたかい眼を向けていることが大切かも知れないと思いました。
今日の私の小さな幸せ
一日遅れだけれど村主選手の演技が見れたこと。
みすゞさんの詩と岸田今日子さんのエッセイを皆さんに紹介できたこと。