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MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『サンタ・クロース』

2015-07-21 00:11:40 | goo映画レビュー

原題:『Le Père Noël』
監督:アレクサンドル・コフレ
脚本:アレクサンドル・コフレ/レイチェル・パルミエリ/ファブリス・カラゾ/ローラン・ゼイトゥン
撮影:ピエール・コットロー
出演:タハール・ラムヒ/ビクトル・カバル/アネリーズ・エスム/マイケル・アビテブール
2014年/フランス
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2015)

サンタクロースの物語の奥深さについて

 6歳のアントワーヌがクリスマス・イブの夜に眠りにつこうとした矢先に、バルコニーへ落ちてきたサンタクロースとの出会いから始まる物語は、本気で男がサンタクロースだと信じて追いかけてくるアントワーヌと、彼の信頼度を上手く利用しながらギャングの命令で金品を盗もうと試みる「サンタクロース」との絶妙な掛け合いがテンポ良く最後まで飽きさせることはない。
 アントワーヌは馬のセブリトが親の言うことを聞かずに外へ出かけてワニに遭遇してしまう物語を父親にしてもらっていたが、彼の父親はその結末をアントワーヌに教えないまま亡くなっていた。もちろんここではアントワーヌがセブリトであり、ワニがサンタクロースに当たるが、てっきりセブリトがワニに食べられると思っていたアントワーヌに対して、サンタクロースはワニはセブリトを家まで送っていくが、ワニの方がハイエナたちに食べられてしまうと物語を変え、自らの不遇さをファンタジーにしてアントワーヌを喜ばすことで「本物」のサンタクロースになるのである。
 『レオン』(リュック・ベッソン監督 1994年)の「男の子版」といっても間違いない良作だと思う。もちろんコメディー作品である。


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『ゆずり葉の頃』

2015-07-20 00:48:55 | goo映画レビュー

原題:『ゆずり葉の頃』 英題:『Before The Leaves Fall』
監督:中みね子
脚本:中みね子
撮影:瀬川龍
出演:八千草薫/風間トオル/岸部一徳/仲代達矢/竹下景子
2013年/日本

「原題」と「英題」で理解が変わる作品について

 タイトルのゆずり葉とは「若い葉が芽吹いた後に、役割を終え、譲るように落葉することから、親が子を育てるたとえになぞらえてきた。縁起ものとされ、お正月のお飾りなどにも使われている」。実際に、作品冒頭で主人公の小河市子が公園でゆずり葉が落ちる様子を目撃しているのであるが、市子が「ゆずり葉」を象徴することは分かるが、「若い葉」が誰になるのかいまいちよく分からない。当然のことながらそれは息子の進であろうが、海外勤務で忙しく、舞踊をしている妻と離れて暮らしており子供もいない進が転職して日本に帰って来るというストーリーが「若い葉」を描く物語としては弱すぎると思う。
 戦争時、疎開先の軽井沢で市子が出会った宮謙一郎は今では有名な画伯になっていた。軽井沢で催されている展覧会を観に市子は一人で向かう。彼女は宮の初期の作品である『原風景』を実際に観たかったのである。それは近所の赤ん坊を背負っている自分の肖像が描かれていたのであるが、展覧会には展示されていなかった。それは「個人蔵」とされどこにあるのか所在がつかめないとされていたのであるが、実際は「作家蔵」であり、ここもよく分からない。
 幸運にも市子は宮と再会できるのであるが、宮は目が不自由になっていた。結局、『原風景』を自分で所有していた宮に対して市子は身元を明かすことなく、2人の思い出である「飴玉」を置き土産にして帰ってしまうのであるが、市子が何故身元を明かさなかったのか疑問が残る。フランス人の妻に気を使ったということだろうか。
 「飴玉」は市子を迎えに来た進によって食べられるのであるが、2度も地面に落としながら進が口に頬張る「飴玉」の象徴性も理解できなかった。山下洋輔のジャズピアノのBGMと演出の大人しさがマッチすることもなく、やはり岡本喜八監督の偉大さが確認できるだけだったのであるが、英題「Before The Leaves Fall」とは「(複数の)葉が落ちる前に」であり、そのような視点で本作を観るならば市子の「思い出の整理」が描かれた本作は理解しやすくなると思う。


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『悪党に粛清を』

2015-07-19 00:53:18 | goo映画レビュー

原題:『The Salvation』
監督:クリスチャン・レヴリング
脚本:クリスチャン・レヴリング/アナス・トーマス・イエンセン
撮影:イェンス・シュロッセル
出演:マッツ・ミケルセン/ジェフリー・ディーン・モーガン/エヴァ・グリーン
2014年/デンマーク・イギリス・南アフリカ

殺すという「救済」方法について

 『許されざる者』(クリント・イーストウッド監督 1992年)が「最後の西部劇」と呼ばれてから「最後の西部劇」が何作品撮られたのか定かではないが、要するにその後の西部劇は『許されざる者』をいかに洗練させるのかという部分で見せ場を作ることになっているのであり、本作はその高い「洗練度合い」において成功していると言えるだろう。
 原題の「Salvation」は「救済」を意味し、それはもちろんラストで主人公で元デンマークの兵士だったジョンが、デラルー大佐の弟のポールの妻にさせられていたネイティブアメリカンのマデリンを助けて共に生きていくという意味だけではなく、ジョンがデンマークから呼び寄せた妻のマリアと息子のクリステンがたまたま一緒に乗り合わせた馬車の中でポールたちに襲われた際に、馬車から落とされたジョンが走って追いかけていきクリステンの死体を見つけ、ポールたちを銃殺した後に、命だけは助かっていたマリアを、息子を殺され自身も凌辱されたことを不憫に思ったジョンが自ら殺すことで「救済」するという厳しさも描かれているのである。


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『靴職人と魔法のミシン』

2015-07-18 00:04:47 | goo映画レビュー

原題:『The Cobbler』
監督:トーマス・マッカーシー
脚本:トーマス・マッカーシー
撮影:W・モット・ハプフェル・Ⅲ
出演:アダム・サンドラー/ダスティン・ホフマン/スティーヴ・ブシェーミ/エレン・バーキン
2014年/アメリカ

マジック・リアリズムが活かされない作品について

 予告編で観た限りではヒューマンドラマかと思っていたのであるが、それは前半までの話で、後半になるとクライムサスペンスと化してしまった。結局本作は内気な主人公のマックス・シムキンの「成長物語」として展開することになるのであるが、何故か冒頭は1903年頃のシムキン家の様子が描かれており、それならば創業100年を超える靴修理店を営む靴職人が収納している靴の元の持ち主たちが精選されていないことが何とも奇妙である。
 マックスの父親であるアブラハムが自分の妻にさえ行方をくらます事情を説明していないことも奇妙で、それほどの命の危険にさらされているならば妻もマックスも何がしかのトラブルに巻き込まれていてもおかしくないと思うが、そのような様子は微塵もない。結果的に、予想がつくオチで終わってしまい、せめて長年行方をくらましていた父親に報復するためにマックスが無理してでも自分の母親の靴を履くくらいのことをして欲しい思うのは私だけではないと思う。興行的に大失敗したことが納得できる作品だと思う。


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『グローリー/明日(あす)への行進』

2015-07-17 00:03:35 | goo映画レビュー

原題:『Selma』
監督:エイヴァ・デュヴァーネイ
脚本:ポール・ウェブ
撮影:ブラッドフォード・ヤング
出演:デヴィッド・オイェロウォ/トム・ウィルキンソン/ティム・ロス/ディラン・ベイカー
2014年/アメリカ

「報道」に関心を持たない映画監督について

 正確を期すならば本作はマーティン・ルーサー・キングJr.牧師の半生を描いているのではなく、「セルマ」という原題通りにキング牧師が公民権運動の一環として起こしたアラバマ州セルマからモンゴメリーへの抗議デモを原因とする1965年の「血の日曜日事件」が描かれている。キング牧師の生涯は映画化の権利を有しているスティーヴン・スピルバーグが実行に移すまで待つしかないのである。
 だから本作における個人的な関心は、テレビで放送され、全米で大騒ぎになることが分かっているにも関わらず、州兵やダラス群保安官たちが暴力を行使してデモ隊を追い返した理由なのであるが、不思議なことに何故か本作にはテレビカメラが映っていないのである。その様子を写しているフォトグラファーや兵隊の中に撮影機を持っている者は見かけるが、公衆電話でその模様を伝えるアナウンサーはいるものの「血の日曜日事件」を映しているテレビカメラは一度たりとも映らないのである。最も肝心な報道に関心を持たない監督の作品をどのように捉えればいいのだろうか。


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『泣いてたまるか ある日曜日』

2015-07-16 00:03:30 | goo映画レビュー

原題:『泣いてたまるか ある日曜日』
監督:大槻義一
脚本:木下惠介
撮影:森隆吉
出演:渥美清/市原悦子/新克利/清水良英/中村美代子/野中マリ
1967年/日本

 木下惠介の「私小説」と「説話論的」な問題について

 主人公の田島は工場勤務の普通のサラリーマンで、結婚して10年になる康子と、健一ときみ子という2人の子供と一緒に暮らしていたのであるが、隣に住む坪井家や佐々木家と微妙な経済格差があり、田島家は休日に家族で横浜までデパートや動物園に行って楽しんだりしており、金融機関も郵便局ではなく銀行を利用している。
 しかしある日曜日、デパートで万引き犯に間違えられ、容疑は完全に晴れたのであるが、たまたま隣の家の佐々木家の五郎に目撃され、田島家に対する微妙な裕福さによる嫉妬も渦巻いていたためにすぐに万引きしたという噂が広がってしまう。健一やきみ子もいじめられるようになり、康子はそのたびに抗議しに行くのであるが、人が良い田島自身は大人しい性格のために黙ったままで、そんな夫の態度を康子は10年間我慢していたと今までたまっていた鬱憤が爆発してしまう。
 作家志望だった五郎はこの出来事を『日曜日の悲劇』として小説にし、新人文学賞に応募した結果、佳作に入選したのであるが、雑誌に掲載されたことが決定的となって追い詰められた康子はきみ子と共にガス自殺を試みた。
 康子もきみ子も命に別状はなかったものの、健一も連れて瀬戸内の在所に帰郷してしまい、田島は一人残って仕事を続けることになったが、一度切れた絆は元に戻ることはないのである。一方、五郎は小説が評価されたものの、恋人ののりちゃんは他人のプライバシーを暴露するような彼の冷酷な仕事に嫌気がさして彼と別れてしまう。
 ここには脚本を担った木下惠介の「私小説」に対する考え方と「説話論的」な問題が提示されており、その天才性が遺憾無く発揮されている。


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『ラブ&ピース』

2015-07-15 23:42:16 | goo映画レビュー

RCサクセションさん『スローバラード』の歌詞 スローバラード
words by イマワノキヨシロウミカン
music by イマワノキヨシロウミカン
Performed by アールシーサクセション

原題:『ラブ&ピース』
監督:園子温
脚本:園子温
撮影:木村信也
出演:長谷川博己/麻生久美子/渋川清彦/西田敏行/星野源/中川翔子/犬山イヌコ/大谷育江
2015年/日本

「スローバラード」の頃について

 夢というものは誰もが見て生きる支えとなるものだが、そこに邪念が入り込んでくると得てして夢は歪んでしまう。かつてロックミュージシャンになる夢を持っていたが今は楽器の部品(Piece)会社で働いている主人公の鈴木良一は、たまたま出会った反体制のバンド「Revolution Q」に加入したことをきっかけにロックミュージシャンになるという夢がどんどん膨らみ、ソロで世界制覇も視野にいれるようになる。鈴木の夢は順調に実現していき、2015年12月25日のクリスマス・ソロコンサートも満杯の中で開催されるのであるが、そこにかつて「ピカドン」、今は「ラブ」と鈴木が呼んで飼っていたミドリガメが巨大化して現れる。ところがカメが発した言葉はくすぶっていた頃の鈴木の仄かな夢と会社の同僚の寺島裕子に対する密かな想いだったのである。
 そこで鈴木は気がつく。自分の夢はこんな大きなものではなかったと。身の丈に合った夢だからこそ良かったのであり、人々は持っている夢をついつい大きくしてしまい、それまで持っていた夢は捨てられ、仲間を裏切り強引に巨大な夢を実現させようとしてしまうのである。それは「ピカドン」の頃を忘れてしまい、東京オリンピックに対する「夢」を肥大化させて無理な計画がまかり通ってしまうこととリンクする。極めてタイムリーなテーマなのであるが、「ウルトラQ」的な演出がふざけているように受け取られているのが残念に思う。


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『ウルトラQ あけてくれ!』

2015-07-14 00:14:31 | goo映画レビュー

原題:『ウルトラQ あけてくれ!』
監督:円谷一
脚本:小山内美江子
撮影:内海正治
出演:佐原健二/江川宇礼雄/桜井浩子/西條康彦/柳谷寛/天本英世
1967年/日本

自分の居場所が分からなくなる恐怖について

 主人公の万城目淳と江戸川由利子がドライブ中に道路の真ん中で倒れていたのは会社員の沢村正吉で、「あけてくれ!降してくれ!」と叫びながら走ってくる列車に飛び込もうとする沢村を心配して2人は一の谷博士の研究室に連れていく。
 催眠術療法によると沢村は空飛ぶ列車に乗っており、そこには車掌を初め、主婦、政治家、受験生と共に著名な推理作家の友野健二がいて、列車は自分たちが行きたいところに向かっていると言う。窓の外を見ると沢村は妻のトミ子や幼い娘の恵子がおり、一緒に連れてってくれと懇願していた。思わず沢村は「あけてくれ!降してくれ!」と叫んだのだった。
 しかし現実に戻って自分を迎えに来てくれたトミ子は体裁の悪さを難詰し、既に大人になっている恵子は喧嘩する2人を非難する。退社時間になってから会社に戻ると自分を心配してくれる様子もない上司にも怒られ、ビタミン剤を渡され帰りたまえとつれなくされる。会社でさえもはや入社した当時の居場所ではなくなっており、「お世話になりました」と言って出て行ってしまう。
 ラストで空飛ぶ列車を見つけた沢村は「連れてってくれ!」と叫ぶのであるが、このストーリーの秀逸さは一度は列車に乗っていながら、自分の「正しい」居場所は今の居場所だと思い込んで戸惑ってしまい降りてしまうところで、実は多くの人々は昔の善き日々を重ねながら今を見て知らず知らず我慢して生きているのである。そのことに気がついた時の恐怖は並々ならぬものがあるだろう。この人間心理の絶妙な描写に脚本を担った小山内美江子の才気を感じるのである。


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「Hey You」という言葉を巡る考察

2015-07-13 00:49:18 | 洋楽歌詞和訳

CAN - Vitamin C (Official Audio)

 最近になっても『インヒアレント・ヴァイス(Inherent Vice)』(ポール・トーマス・アンダーソン監督 2014年)で使用されているドイツのロックバンド「カン(Can)」の1972年リリースの「ビタミン C(Vitamin C)」を和訳してみる。

「Vitamin C」 Can 日本語訳

彼女の父親は大きなマリファナタバコの吸いさしを吸うためのクリップを手に入れた
彼女の母親が家計を握っている
美しいバラが一輪窮地に立たされている
彼女の人生は浮き沈みが激しい

ヘイ・ユー(Hey you)
君はコカイン(Vitamin C)が切れかけている

彼女の体の上には巨大なプレスマシーン
彼女は危険で油断のならない状況に足を踏み込もうとしている
美しいバラが一輪窮地に立たされている
彼女の人生は浮き沈みが激しい

ヘイ・ユー
君はコカインが切れかけている

 この当時、カンのヴォーカルは日本人のダモ鈴木で、おそらくこの曲を聴いたミッキー・カーチスがプロデュースしたのが翌年1973年にリリースされた左とん平の『とん平のヘイ・ユウ・ブルース』なのだと思う。
 その後、しばらく経ってからドイツのロックバンド「スコーピオンズ(Scorpions)」が1980年にアルバム『電獣〜アニマル・マグネティズム(Animal Magnetism』をリリースした際にシングルとして一緒にリリースされた「Hey You」もカンの「Vitamin C」にインスピレーションを受けたのだと思うが確証はない。


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『エレファント・ソング』

2015-07-12 00:03:51 | goo映画レビュー

原題:『Elephant Song』
監督:シャルル・ビナメ
脚本:ニコラス・ビヨン
撮影:ピエール・ギル
出演:グザヴィエ・ドラン/ブルース・グリーンウッド/キャサリン・キーナー
2014年/カナダ

 綿密な計画によって自殺する理由について

 主人公のマイケル・アリーンはオペラ歌手の母親に愛されないまま自殺され、一度会ったことがある父親との思い出は父親が象を射殺した場面だけだった。精神病棟に隔離されてしまい自由まで剥奪されたマイケルが自分の唯一の願望をどのように叶えることができるかということが本作の結末で分かるのである。
 マイケルは自分の担当医のローレンス医師の失踪に関する事情聴取を巡って院長のトビー・グリーンに細かい条件を提示する。その結果、マイケルは自殺してしまうのであるが、それはただの自殺ではなかった。マイケルは院長のグリーンを仮想の父親として、看護婦長のスーザン・ピーターソンを仮想の母親として2人に見守られながら死んでいくのである。実の両親を失っていたマイケルにとってそれでも両親の「温もり」を感じようとするならば、例え「代用」であったとしても命を賭けなければ得られないものだったのである。


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