原題:『Bardo, falsa cronica de unas cuantas verdades』 英題:『Bardo, False Chronicle of a Handful of Truths』
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ/ニコラス・ヒアコボーネ
撮影:ダリウス・コンジ
出演:ダニエル・ヒメネス・カチョ/グリセルダ・シチリアニ/ヒメナ・ラマドリッド
2022年/メキシコ
いまだに衰え知らずのデヴィッド・ボウイの影響力について
冒頭は大地に映る男の影が飛んでは着地しを繰り返しているのだが、最後にそれが主人公のシルベリオ・ガマの影だと分かる。「この世」と「あの世」をさまよっているのである。
場面は変わってシルベリオは病院にいる。妻のルチアが既にマテオと名づけられている男の子を出産したのであるが、マテオはこんな世の中に生まれ出たくないということでルチアの体内に押し戻されるのである。しかし現実は生まれ出てから30時間後に亡くなったのである。そんなシルベリオも飼っていた魚を留学先に持って行ったものの、袋が破れてしまっていて魚が死んでいたという話を息子のロレンゾから聞いて同じ種類の魚を買って列車に乗って帰宅していた際に、袋が破れて魚を捕まえようと水で溢れた列車の中を潜るのだが、実際はシルベリオは脳溢血で倒れて入院先で亡くなるのである。終始本作はこのような「中有(Bardo)」を行ったり来たりするような構成で、それまでのイニャリトゥ作品と比べるならば難解だと言えよう。
台詞においてもオクタビオ・パス(Octavio Paz)などが引用されており易しくはないのだが、シルベリオの「成功は吸って三回口の中で転がして吐け。何故ならばもし吐かないならば、それがお前を毒するから(With success, take a sip, and do [swish motion] three times and spit it [out] because, if not, it will poison you)」という台詞が本作のテーマに適っていると思う。
しかし最も興味深いのはシルベリオがデヴィッド・ボウイのヴォーカルだけの「レッツ・ダンス」を踊っている場面で、しばらくして聞こえているのが自分一人だけだとわかる。本作において恋愛、コメディ、SF、メタフィクションなど様々な映画ジャンルを縦横しながら、どうすればみんなで楽しく踊れるのかが映画監督としてのイニャリトゥの目標なのではないかと察する。
David Bowie - Let's Dance (Official Video)
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