MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『コンビニ人間』 村田沙耶香

2022-07-25 00:59:11 | Weblog

 今更ながら村田沙耶香が2016年に芥川賞を受賞した『コンビニ人間』を読んでみた。
 主人公の古倉恵子は大学生の頃からアルバイトとしてコンビニエンスストアの店員として働いており、正社員になることもなく同じコンビニで18年間働いている。コンビニ店員として振る舞うことが彼女にとって最も心地が良く、余計なことを詮索されることもないから楽なのである。アルバイトのままでいるのは体が弱いからという理由を考えてくれたのは既婚者で悠太郎という息子がいる彼女の妹の麻美である。とにかく「異物」や「不気味な生き物」として見られないように「ありふれた人間」でいたいのである。
 事態が変わったのは、かつて同じコンビニでバイトをしていた白羽という男と再会してからである。白羽は35歳になる男なのだが、「婚活」目的でコンビニで働いており、常連客の電話番号や住所を個人利用していたことがバレてクビになったのである。
 白羽が結婚したい理由は、いい歳をして独身でいることに文句を言われないためであることを知った恵子は自分と同じにおいを嗅ぎつけたはずで、そろそろ結婚している「体」でも装わなければならないと感じていた恵子は、住む場所が無い白羽を自分の部屋に住まわせることにしたのはよかったのだが、そのことを知った店長や同僚たちは仕事そっちのけでそのことしか話題にしなくなり、妹は心配する有様で恵子の思惑とは裏腹に大事なってしまうのである。
 ところで本作の肝はラストシーンにあるように思う。すっかり居心地が悪くなったコンビニのアルバイトを辞めた恵子は派遣の面接を受ける前にトイレを借りに見知らぬコンビニに入ったのであるが、入った瞬間にそのコンビニが抱える問題を瞬時に見抜き、次々と的確に処置していくのである。
 しかし36歳で恋愛経験もなくコンビニで働くために体調を整えていた恵子のコンビニに対する実力は低く見積もってもコンビニエンスストアを統括する本部のエリアチーフマネージャーレベルであろう。一言で言うならば天才なのである。
 例えば、スポーツや学術などで長年の鍛錬の末に一流になるということは分かりやすい「物語」であるが、人生を賭けてまで働くような場所とは思われていないコンビニ店員の中に「天才」がいるとは誰も思っておらず、恵子本人も自分が天才だと気がついていないのである。つまり本作は根強い偏見が優秀な人材を見逃している可能性を指摘しているように思うのである。
 芥川賞受賞作としては珍しく読みやすく傑作と言っておきたいのだが、本作はあくまでも小説であり、仮に恵子のような人が現実に存在するならば18年の間に関係者が気がつくとは思う。
gooニュース
https://news.goo.ne.jp/article/magazinesummit/trend/magazinesummit-https_editor.magazinesummit.jp_p_104106


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