クレイジーズ
2010年/アメリカ
本物の‘ホラー’
総合 90点
ストーリー 0点
キャスト 0点
演出 0点
ビジュアル 0点
音楽 0点
1973年のジョージ・A・ロメロ監督の『ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖(The Crazies/Code Name : TRIXI)』のリメイクである。オリジナルはベトナム戦争や学生運動などの当時の社会的な背景が取り入れられて、それなりによく出来てはいるのであるが、白無垢の兵士たちと主人公たちの銃撃戦のシーンやワクチンの製造過程など低予算ということもあって今見ると貧相にしか見えない。さすがに2010年に制作された本作は映像のレベルからして格段に向上している。
物語自体もホラーの要素が増している。オリジナルもリメイクもアメリカのある小さな街でアメリカ軍によって極秘裏に開発された軍事用の細菌が誤って飲料水に混じって住人たちに感染するのであるが、ある家族の崩壊から始まるオリジナルではその事実が早くから明かされて対策が取られるのに対して、野球の試合の中断から始まるリメイクではなかなかその事実が明かされないために観客も含めて住人たちには何が起こっているのかよく分らない。
オリジナルではワクチンの開発に成功した医師がワクチンを患者たちに投与しようとしたものの、混乱に巻き込まれてその医師は床に頭を打って死んでしまい、ワクチンも床に流れてしまうのに対して、リメイクでは最終的には核爆発で街もろとも消滅させてしまう。
いずれにしてもオリジナルでは兵士たちを統率している人間がはっきりとしており、健常者と感染者の対立の構図が明確であるのだが、リメイクでは兵士たちも自分たちが誰の命令で行動しているのかよく分かっていないために、健常者と感染者は比較的区別しやすいのに、誰が‘異常者’なのかは区別がつかない。ただ観客には、まるで『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督 1968年)の人工知能HAL‘ハル’のようなものに人類が与り知らないところで世界が支配されているように見える。
当たり前の話をしておきたい。通常はこのようにリメイクはオリジナルの良い点を温存させながら、新たな視点を加えてより良い作品になるはずなのであるが、何故日本では『死刑台のエレベーター』や『ゴースト もういちど抱きしめたい』のようにリメイクが失敗作になってしまうのか理解に苦しむ。これで同一の料金を取るのだから、この現実こそ本物の‘ホラー’である。
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