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MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『美術館を手玉にとった男』

2016-01-08 00:03:23 | goo映画レビュー

原題:『Art and Craft』
監督:サム・カルマン/ジェニファー・グラウスマン
撮影:サム・カルマン
出演:マーク・ランディス/マシュー・レイニンガー/アーロン・コーワン/ジョン・ギャッパー
2014年/アメリカ

贋作の背後に隠されている「贋作」について

 『完全なるチェックメイト』(エドワード・ズウィック監督 2015年)を観た後だったためか、「変わり者」という共通点も手伝ってのめり込むように贋作を描き続ける主人公のマーク・ランディスがボビー・フィッシャーに、そのランディスの贋作の調査にのめり込む余り、勤めていた美術館を辞めるはめになったマシュー・レイニンガーがボリス・スパスキーとダブって見える。
 贋作者に対して「自分独自の作品を描け」というお決まりの説教があり、マーク・ランディスも会う人毎に言われていたが、贋作こそが彼独特の「スタイル」なのであり、独自の作風を持っているならば他人に言われなくてもそのスタイルで描いているのである。
 ランディスの行動の奇妙さは、贋作を美術館に寄贈するという行為ではなく、例えば、ウォールマートで購入した額縁を使用したり、絵画の裏面をコーヒーで汚して古く見せかけたり、あるいは作品にコンピューターグラフィックを用いたりして、「完璧」な贋作にしようとしないところであろう。そこでヒントとなるものは絵画ではなく、作品内で使用されている映像の方であろう。テレビ好きのランディスが見ていたものとして映される映像は、『セイント 天国野郎(The Saint)』(1962年ー1969年)というイギリスのスパイもののテレビドラマ、『泥棒貴族(Gambit)』(ロナルド・ニーム監督 1966年)という犯罪コメディ映画、『鍵のない家(The House Without a Key)』(スペンサー・ゴードン・ベネット監督 1926年)というチャーリー・チャンという探偵が主演のミステリー作品である。
 ランディスが神父の格好をしていることも考え合わせるならば、ランディスの真の目的は良質の贋作制作にあるのではなく、ランディス自身の人生そのものの「贋作化」にあったように見えるのである。統合失調症と診断され、精神疾患を患った男が人生において一発逆転するチャンスは「この世にオリジナルなど存在しない」という強い信念にあったのだ。


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