原題:『The Shout』
監督:イエジー・スコリモフスキ
脚本:イエジー・スコリモフスキ/マイケル・オースティン
撮影:マイク・モロイ
出演:アラン・ベイツ/スザンナ・ヨーク/ジョン・ハート/ティム・カリー
1978年/イギリス
偶然の落雷が「超能力」とされることが作品を傑作にする可能性について
精神病院で開催されるクリケット大会にロバート・グレイブスは選手の一人からスコアラーを担当しているクロスリーを手伝うように頼まれる。クロスリーは「危険な奴」だと教えられるのであるが、クロスリーの方も奴らは同じ話を繰り返すだけだとロバートに語る通り、確かにクリケット大会に参加している選手たちは些細な物音に興奮したりしており、どちらが病院の患者なのかは謎とされる。
さらにクロスリーが語る実体験も奇妙な話で、彼は18年間もオーストラリア先住民と暮らし、そこで結婚し子供も儲けるのであるが殺してしまったと語る。教会でオルガンを弾いていた前衛音楽家のアンソニーとレイチェルのフィールディング夫妻と知り合うのであるが、それはクロスリーがアンソニーが乗っていた自転車をパンクさせたことをきっかけにした計画的なものだった。
上手く家に入り込んだクロスリーは叫ぶことで人を殺せることを砂丘に連れて行ったアンソニーに証明して見せて、やがてレイチェルと関係を持つようになるのであるが、クロスリーの能力を知っているアンソニーはクロスリーを追い出すことができない。
しかし砂丘で叫んだことで亡くなった羊飼いの少年の殺人容疑で逮捕しにきた警官たちに向かって叫ぶクロスリーと、クリケット大会を中止に追い込んだ雷雨の中で、クロスリーが入っていた「スコアラー小屋」を見舞った落雷のシーンが交錯し、レイチェルが家に戻って来た時には、既にクロスリーとアンソニーとロバート(?)は亡くなっており、クロスリーが「超能力者」だったのか、あるいは患者だったのか監視官だったのか全て不明なままなのである。
クロスリーの叫びを聞いたアンソニーが気を失って砂丘から転げ落ちるシーンは、『バリエラ』(1966年)の主人公がスキーのジャンプ台の頂からトランクで滑り落ちるシーンと類似し、冒頭でアンソニーとレイチェルが一緒に鏡を運び出すシーンは、『出発』(1967年)においてマルクとミシェルが質屋に鏡を運び入れるシーンと類似し、クロスリーが干してあるレイチェルのストッキングの匂いを嗅ぐシーンは、やがて『アンナと過ごした4日間』(2008年)のメインテーマにつながるのだから、ベースとなる素材となるものは意外と変わらないものである。
因みに、本作にインスパイアされてティアーズ・フォー・フィアーズ(Tears for Fears)か「シャウト(Shout)」(1984年)を作ったように見えるのは、ミュージックヴィデオのロケーションが本作と似ていることや、ティアーズ・フォー・フィアーズが男性のデュオだからだと思う。クロスリーを演じたアラン・ベイツとローランド・オーザバル(下写真手前の男性)の髪型が妙に似ている。