原題:『紙の月』
監督:吉田大八
脚本:早船歌江子
撮影:シグママコト
出演:宮沢りえ/池松壮亮/大島優子/田辺誠一/小林聡美/近藤芳正/石橋蓮司
2014年/日本
善意で得られる「快感」について
「わかば銀行」で契約社員として勤務する主人公の梅澤梨花が、自身の顧客の預り金に手をつけた原因は、皮肉なことに通っていたカトリック系の学校の教えだった。当時、梨花の学校では大洪水で被害を受けていたタイの子供たちのために募金を集めており、そのお礼の手紙を受け取ったりと交流があったものの、熱が冷めてしまって誰も募金をしなくなった頃に、これではいけないと思った梨花が父親の財布から抜き取った5万円を全部募金箱に入れてしまう。これを問題視したシスターは募金を中止してしまうのであるが、善意の寄付を中止してしまうことに梨花は納得できない。この善意で得られる「快感」を大人になって梨花は再び思い出すのである。
浮気相手の平林光太が大学の学費を払えないで困っていることを知った梨花は光太の祖父の平林孝三から預かった200万円をくすねて光太に渡す。梨花にはお金が有り余っている人がお金に困っている人に施すことが悪いことだと思えないのである。偽物でも本物に見えればいいと言ったり、何を買うのか忘れてしまうようなお金持ちが余計なお金を持っていても仕方がない。「ケチ」や「ボケ」がお金を貯め込んでいるよりも、必要としている人に回せばいいというのが梨花の考え方なのである。
おそらく5万円をくすねた際に、父親から叱られなかったことが不幸の始まりだったのかもしれないが、「悪銭身につかず」と言われるように、光太はいつの間にか大学を辞めており、かといって定職に就くこともなく2人は梨花の「善意の快楽」から抜け出せなくなる。
しかし話はここで終わらない。上手く日本から脱出した梨花がタイの市場を歩いていると、かつて手紙のやり取りをしていた顔に大きな傷を負った男性と遭遇する。立派な大人になって市場で働いていた彼を見た梨花は自分のしたことが間違っていなかったことを確信するのであるが、地元の警官を見つけると足早に去っていく。この善意で得られる「快感」に狂っている宮沢りえの演技が素晴らしい。
エンドロールを白地にしてヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコの「Femme Fatal」を流すB級感に監督のセンスの良さを感じる。