原題:『Saving Mr. Banks』
監督:ジョン・リー・ハンコック
脚本:ケリー・マーセル/スー・スミス
撮影:ジョン・シュワルツマン
出演:エマ・トンプソン/トム・ハンクス/ポール・ジアマッティ/ジェイソン・シュワルツマン
2013年/アメリカ・イギリス・オーストラリア
『メリー・ポピンズ』の続編が製作されなかった理由について
『メリー・ポピンズ』に関して原作者のP.L.トラヴァースと製作者のウォルト・ディズニーたちと認識がズレていたように思う。トラヴァースが「アニメ化」を頑なに拒む理由は、『メリー・ポピンズ』の作風とは大きく異なる原作者の過酷なバックグラウンドを抱えた真剣な思いである。だからトラヴァースは例えば、「Responsible(責任がある)」などの単語だけでフラッシュバックして昔を思い出し、ウォルトを初め、ドン・ダグラディやシャーマン兄弟たちが軽いノリでおどけてみせることが許せないのである。
その対立の「緩衝剤」として専属ドライバーのラルフの存在を見逃してはならない。車イスを必要とする娘の世話をしているラルフは、アルコール依存症の父親の世話をしていたトラヴァースと似たような境遇に甘んじ、お互いを理解するきっかけを作り、その後、ウォルトがイギリスまでトラヴァースを訪ねた際に、面会できた要因の一つなったことは間違いないであろう。
しかしトラヴァースの意に反して『メリー・ポピンズ』にはアニメーションが含まれていた。チャイニーズ・シアターの試写会で、ウォルトに泣いている理由を問われたトラヴァースは「アニメがあるから」と答える。最初、これは作品に感動したトラヴァースの照れ隠しかと思われたが、大ヒットした『メリー・ポピンズ』の続編が製作されなかったところをみると、トラヴァースは本気で怒っていたのである。