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「動的平衡 新版」福岡伸一

2020年09月26日 08時12分14秒 | 読書(科学)
「動的平衡 新版」福岡伸一

生命とは何か?
分かりやすく解説してくれる。
とても面白い。お薦め。

P36
脳細胞は一度完成すると増殖したり再生することはほとんどないが、それは一度建設された建造物がずっとそこに立ち続けているようなものではない。脳細胞を構成している内部の分子群は高速で変転している。その建造物は至る部分でリフォームが繰り返され、建設当時に使われていた建材など何一つ残ってはいないのである。

P37
人間の記憶とは、脳のどこかにビデオテープのようなものが古い順番に並んでいるのではなく、「想起した瞬間に作り出されている何ものか」なのである。

P46
つまりタンパク質の新陳代謝速度が、体内時計の秒針なのである。
そしてもう一つの厳然たる事実は、私たちの新陳代謝速度が加齢とともに確実に遅くなるということである。つまり体内時計は徐々にゆっくり回ることになる。 (中略)
つまり、歳をとると1年が早く過ぎるのは「分母が大きくなるから」ではない。実際の時間の経過に、自分の回転速度がついていけていない。そういうことなのである。

P117
タンパク質は貯蔵できない。なぜならタンパク質(正確に言えばその構成物質であるアミノ酸)の流れ、すなわち動的平衡こそが「生きている」ということと同義語だからである。

P201
森鴎外は、それでも脚気を病原体による病気だと信じて疑わず、「農学者が何を言うか。米糠で脚気が治るわけがない」と言った。そして、死ぬまで「脚気菌」を探していたという。(今では、脚気はビタミンB1欠乏、ってのが常識。ここで言う、農学者とは、世界初のビタミンの発見者・鈴木梅太郎のこと。北里柴三郎も「脚気は細菌が原因ではない」と言っていた。結果として、恩師や母校を批判したことになり、冷や飯を食わされたそうだ・・・学問の世界、って基本「徒弟制度」。今もそう? ところで、森鴎外は医師としても文学者としても立派な人物だが、「引く」と言うことを知らない。論争好きで、あちこちで喧嘩を売り、退かない。自分の非を認めない。ある意味、迷惑な人。偏差値は高かったかもしれないが、柔軟性はなかった。近づきたくない人物だ)

P296
確かに食物(主に炭水化物)はエネルギー源として燃やされる部分もあるが、タンパク質は違う。私たちが毎日、タンパク質を食物として摂取しなければならないのは、自分自身の身体を日々、作り直すためである。(中略)
生命にとって重要なのは、作ることよりも、壊すことである。(中略)
秩序あるものは必ず、秩序が乱れる方向に動く。宇宙の大原則、エントロピー増大の法則である。この世界において、最も秩序あるものは生命体だ。生命体にもエントロピー増大の法則が容赦なく襲いかかり、常に、酸化、変性、老廃物が発生する。これを絶え間なく排除しなければ、新しい秩序を作り出すことができない。そのために絶えず、自らを分解しつつ、同時に再構築するという危ういバランスと流れが必要なのだ。これが生きていること、つまり動的平衡である。

【ネット上の紹介】
「人間は考える『管』である」「私たちが見ている『事実』は脳によって『加工済み』」「歳をとると、一年が早く過ぎるのは、実際の時間の経過に、自分の生命の回転速度がついていけないから」などの身近なテーマから「生命とは何か」という本質的な命題を論じていく。発表当時、各界から絶賛されベストセラーになった話題作に、最新の知見に基づいて大幅加筆。さらに、画期的な論考を新章として書き下ろし、「命の不思議」の新たな深みに読者を誘う。
プロローグ 生命現象とは何か
第1章 脳にかけられた「バイアス」―人はなぜ「錯誤」するか
第2章 汝とは「汝の食べた物」である―「消化」とは情報の解体
第3章 ダイエットの科学―分子生物学が示す「太らない食べ方」
第4章 その食品を食べますか?―部分しか見ない者たちの危険
第5章 生命は時計仕掛けか?―ES細胞の不思議
第6章 ヒトと病原体の戦い―イタチごっこは終わらない
第7章 ミトコンドリア・ミステリー―母系だけで継承されるエネルギー産出の源
第8章 生命は分子の「淀み」―シェーンハイマーは何を示唆したか
第9章 動的平衡を可視化する―「ベルクソンの弧」モデルの提起
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