「辛夷の花」葉室麟
澤井家の志桜里は姑と折り合いが悪く、実家に帰される。
ところが、それが思わぬところでお家騒動と関係してくる。
隣家には「抜かずの半五郎」と呼ばれる藩士も引っ越してくる。
刀の鍔を縛って、抜けないようにしてるのだ。
これではいざという時戦えない。
P191
「ひとはおのれが正しいと思った道を歩むしかないのではありますまいか」
志桜里は自分に言い聞かせるよう言った。
「さて、そうであろうか。ひとは誰もが聖人君子となれるわけではない。時に迷い、誤った道を歩みつつも、おのれを見失わねば正道に立ち返ることができる。誤った道を歩むまいと心を縛って生きるばかりが道ではないと思うが――」
P190
時しあればこぶしの花もひらきけり
君がにぎれる手のかかれかし
【おまけの感想】
「螢草」、「さわらびの譜」ほど、すっきり爽快感はないが、一気読みで楽しめた。
【ネット上の紹介】
九州豊前、小竹藩の勘定奉行・澤井家の志桜里は近習の船曳栄之進に嫁いで三年、子供が出来ず、実家に戻されていた。現藩主の小竹頼近と家老三家の間に、藩政の主導権争いの暗闘が火を噴きつつある近頃、藩士の不審死が続いていた。ある日、隣家に大刀の鍔と栗形を浅黄の紐で結んで“抜かずの半五郎”と呼ばれている藩士が越してきた。庭の辛夷の花に託した歌の意味とは…。爽快、痛快、迫真の長篇時代小説!