読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

国銅

2013年06月28日 06時19分33秒 | ■読む
帚木蓬生著、新潮文庫刊
帚木蓬生さんの著作で最初に読んだのは「閉鎖病棟」でした。暖かさを持つ作品で気になる作家になりましたが、その後は「アフリカの蹄」を読んだきりで、「三たびの海峡」と「逃亡」が私の書棚で待機しています。
本作品は、745年に作り始められた奈良の大仏の建設に携わったある男が主人公です。そもそもあれだけの大きさを、当時どうやて作ったのかと思っていましたが、国の総力を挙げて銅や金の採掘、水銀の調達、巨木の伐採など、当時の最先端の技術を駆使し、すべて人力で行ったのですから、想像を絶します。その苦闘の一端を本書は明らかにしています。(作り方は下記URLの「URL 03」で大体分かります)
さて、本作の主人公は現在の山口県に当たる長門国の銅山に、兄と共に堀子として徴用され、やがてその掘り出した鉱石から銅が完成するまでの技術を習得しますが、選抜されて大仏を建立するために、平城京へ仲間達と旅立ちます。
余り詳しく書くとネタバレになってしまうので止めますが、様々な技術や当時の社会の風俗、地域の様子などが生き生きと描かれていて驚きます。本書の執筆に当たって、著者が粗筋を設定し、必要な取材を綿密に行った様子が想像されます。
しかし正直、最初は退屈に感じていました。それが上巻の中盤から次第に面白くなってきます。物語が描き出す世界が、最初は坑道の中での作業の様子が主で、非常に暗い陰鬱な場面が続いたためです。しかし、主人公の成長と共に、次第に物語の対象範囲が広がるにつれて、急速に面白さが増して行きます。例えば平城京への道すがら、瀬戸内に面する湊(みなと)の様子や人々の生活の様などが丁寧に描かれています。
また、主人公が関わる人々が類型的でなく、そこに実際に存在しているように感じられる程にリアルです。例えば、主人公に大きな影響を与える僧の景信は、俳優の夏八木勲さんの風貌が脳裏に浮かびました。著者の暖かな人間観と善悪を超えた人への敬意を感じさせます。同時に人が生きて行く事の意味が、この作品で主人公が辿る長大な旅の物語を通して語られているように思われます。それは著者が、常々思索していることの現れではないでしょうか。
静かで深い感動を覚える作品です。
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URL 01 => http://ja.wikipedia.org/wiki/帚木蓬生
URL 02 => http://ja.wikipedia.org/wiki/東大寺盧舎那仏像
URL 03 => http://miccast.jp/nara_d.html
URL 04 => http://ja.wikipedia.org/wiki/長登銅山
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評価は5です。

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