読書三昧

本は一冊一冊がワンダーランド。良い本との出会いは一期一会。そんな出会いを綴ります。

完本 天気待ち 監督・黒澤明とともに

2024年07月30日 10時01分41秒 | ■読む

野上照代著、草思社文庫刊
著者は、黒澤監督の代表作の多くでスクリプターを務めたとのことです。
スクリプターは良く聞く職種ですが、実際の仕事はどのようなものかを知りませんでした。
下記リンク3つ目に記されているように、作品を効率的に撮影する為に、例えば、特定の場所で撮影できるシーンを、時間軸に関係なくまとめて撮影するのだそうです。
また、何らかの事情で、一旦撮影を中断し、後日撮影を再開することもあるそうです。
更には、何度も取り直しすることもある。
そうしたことから、どのシーンを何時、何処で撮影し、どのテイクがOKか駄目なのかは無論のこと、演者の衣類や小道具の配置などを詳細に記録しておくことが必要になる。
最後の編集ではOKテイクを見付ける際に参照されるとのこと。
今時のデジタル撮影ではなく、フィルム撮影なので、簡単に確認することができないので、大変な仕事であったと思います。

つまり、撮影にまつわる全てのことを詳細に記録し、監督やスタッフの求めに応じて、対応することが求められるという、何とも大変な仕事のようです。
したがって、監督とは非常に密接で良好な関係を保たなければならないので、能力、気力、胆力など、広範で深い素養が求められそうです。

その為、著者は黒沢さんの人となりを知り尽くしているのでしょう。
また氏を敬愛していることが、本書から伝わってきます。
黒沢さんの代表作の製作過程に関する書籍を何冊か読みましたが、奇抜なアイディアと、突き抜けた発想で、脚本を実体化したようです。
昨今の手垢の付いたアクション映画のような見せ方ではなく、息を飲むような演出を作り出す能力は、誠に非凡なものと思います。
もっとも、監督は「~という感じで」と示唆するだけで、苦労してやり遂げるのはスタッフの仕事のようですが・・・。
妥協しない、斬新な発想こそが監督に必要な素質なのでしょう。

しかし、一方で、天才に有り勝ちな唯我独尊と目的志向の有り様が凄まじく、スティーブ・ジョブズに通じるメンタルを感じます。
もっとも、黒沢さんがスタッフに愛されたのは、暖かで開放的な資質であったようで、本書の随所に、それが描かれています。

本書では、黒沢作品に出演した多くの俳優が登場し、取り分け三船敏郎さんが多くを占めています。
黒沢作品の成功の最大の功労者なので当然でしょうか。

時代の証言として貴重な著作と思います。
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野上照代  ○黒澤明  ○スクリプター
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評価は5です。

※壁紙専用の別ブログを公開しています。
カメラまかせ 成り行きまかせ  〇カメラまかせ 成り行きまかせその2


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