道端鈴成

エッセイと書評など

アジア問答

2006年04月03日 | アジア論
道端「今日は、河端先輩のご説を拝聴にきました。」
河端「よく日本もアジアの一員としてとか、思いれたっぷりに言うのがいるが、アジアで何を指し示しているのか分かっているのかな。」
道端「ユーラシアの非キリスト教圏がアジアという、西欧からの一方的な視線オリエンタリズムをそのまま受けれてしまって、アジア各地域の文化を具体的に知ろうとしていないのかもしれませんね。人の口まねをして、創造性が大切だなんて言うタイプと近いんでしょうね。」
河端「道端君もなかなか手厳しいな。まあ、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、旧約聖書を聖典としている聖典の民だ。聖典の民とそれ以外という区分ならまだ分からないでもない。いくらなんでも、イスラム教地域も含んだ、アジアというくくりは異質なものを含みすぎだろう。」
道端「レヴィ・ストロースは、悲しき熱帯で、女性的な文化である仏教徒の元にいるときの安らぎと超男性的な文化であるイスラム教徒の元にいるときの居心地の悪さを対比させ、西欧人はイスラム教に自らの文明の誇張したものを見いだすからだろうとか書いていました。」
河端「たしかに旧約聖書とエホバは猛烈な文化ウィルスだからな。あれに感染するとしないでは違いは相当に大きいだろう。新約のキリストは、仏教徒というトンデモ説もありえるかーみたいな平和主義者だけど、マホメッドはまた違うから、ややこしいな。」
道端「ユーラシアの文明の区分でしたら、梅棹が指摘したような日本やイギリスのような海洋地域と中国、ロシアのような内陸ユーラシアの対比は重要ですね。日本は縄文、イギリスはケルトと狩猟採集文化の影響が強く残っている点もありますしね。」
河端「先進国、進昂国、後進国という産業化段階の分類もあるな。また自由主義国か共産主義国かの違いも忘れてはいけない。」
道端「なんです。進昂国というのは。」
河端「産業化がある程度進み、国民国家意識が高まった段階の国だな。保有している文化ウィルスによっては相乗作用でウルトラナショナリズムを発症することもある。」
道端「結局、文明の分類の基準は複数あって、各地域の文明は各基準に相当する複数の層が重なったものとしてとらえられるということでしょうか。」
河端「まあ。そうだろうな。西欧などは、キリスト教、ギリシア・ローマ文明の影響、産業化段階と複数の基準が合致するからまとまりとして扱う事も可能になる。もちろん、海洋か内陸か、基層文化の種類などで、バラエティーは出るが。これに対し、いわゆるアジア地域をひとまとめにするような複数の基準の合致は見られない。だから、アジアなどといった文化的なまとまりは存在しない。仏教文化圏、環太平洋自由主義諸国、など、個々の基準にしたがったくくりは可能だろう。しかし、これらはアジアといった名前で呼べるようなくくりではない。以上だ。」
道端「アジア的やさしさとか、なつかしさとか、人のつながりとか言う人もいますが。」
河端「人間社会には色んな面がある。こういうのは世界中どこでもある。センチメンタルなたわごとにすぎん。」
道端「いわゆる極東といわれる地域はどうなんですか。仏教、漢字、儒教など、共通の文化要素は多いのではないでしょうか。」
河端「中華文明圏とでも言いたいのかな。日本は大陸国家ではない海洋国家だし、文明の基盤には狩猟採集文化である縄文文化がある。仏教はインド伝来の真にインターナショナルな宗教だし、日本への儒教の影響は中華、小中華での宗族の儀礼とは全く異なる道徳的な教え程度で、日本の祖先崇拝はこれとは全く違うものだ。文字も漢字を借用はしたが、言語は全く異なり、全く独自の表音的な表記法を早い段階で開発し、その表記法が文明の基礎となっている。朝鮮半島は中華文明圏にはいるだろうし、そうさせておこう。しかし、日本は、梅棹が1960年代に文明の生態史観で言ったように、大陸の中華文化圏とは明らかに異なる原理での文明の歴史を形成してきた。最近では、ハンチントンの大づかみな文明の八分類のなかでも日本は独自の日本文明に分類されている。」
道端「そうですね。ハンチントンの分類では仏教文化圏のおさまりが悪いのが面白いですね。結局、各地域の文明は複数の層が重なったものですから、どの層とどの基準による区分を重視するかの、文明の分類は、文明の自己定位の問題にもなるんでしょうね。」
河端「そのとおりだ。日本文明の歴史的な基盤は今いったとおりだ。文明の自己定位としては、共産主義ではなく自由主義、権威と思惑に事実と論理を従属させるのではなく自由な言論と科学を大事にするといった方向性が基本だ。そして、日本文明の独自性を象徴する皇室とその正統性は大切に守っていかなければならない。結局、福沢の脱亜論は、日本文明の自己定位の論だった。福沢の時代と今では、どこが同じで、どこが違うのか、今後、どう定位すべきか。この辺の話しはまたにしよう。」
道端「はい。河端先輩の快刀、麻を断つようなお話、楽しみにしてます。」
河端「おいおい。普通に麻を断ったらいかんだろう。乱麻を断つだよ。」
道端「あっ!失礼いたしました。」