多くの方が危険視、問題視している秘密保護法案には、共謀を処罰する条文が存在します。
共謀罪については、2005年、2009年に廃案となっています。
この極めて問題のあると僕は思っている構成要件(これを「する」と、または「しない」と処罰されるという犯罪行為の類型)である共謀罪の危険性について、秘密保護法と絡めながら、少し触れたいと思います。
ただ、この秘密保護法案に規定される共謀が、どのようにイメージで条文化されているのか、まだ確認できていないので、厳密なことは言えませんが、基本的には、共謀共同正犯の「共謀」と同じ理解で話を進めていきます。
それは、過去廃案となった「共謀罪」の「共謀」について、「共謀共同正犯」のそれと一緒であるというのが、第一次安倍内閣時代の政府見解であったということで、ある程度合理性があるかと。
では、共謀共同正犯が成立するには、
1.共同の意思または正犯である意思、
2.共謀の事実、
3.共謀に基づく実行行為、
が必要であることが有力(判例も同様だと思われる)です。
ただ、実務上、謀議がない場合にも共謀が成立するように拡大解釈が進んでいるのが現状です。
平成15年5月1日最高裁の判決に対して、共謀の概念が広がり過ぎているという指摘が実務家からは強く指摘されている現状に鑑みても、実行行為が行われることが前提である共謀共同正犯ですら、この有様(良し悪しは別論)ですから、実行行為がない「共謀罪」においては、よりその危険性は高いと思います。(「共謀してた」と認定されたら、構成要件に該当する、つまり処罰に値する行為だと逮捕されるってことで)
つまり、そんな既遂である犯罪類型の「共謀共同正犯」の認定と同じように、既遂でない【実行行為が伴わない】という事実をもって「共謀をした」と認定して、構成する犯罪類型を作っても良いのか?という問題。
刑法の実行行為概念自体が大きく変わってきますから、その議論は、改めてじっくり行うべきです。
刑法の謙抑性(刑罰は個人の人権を大きく侵害するもので、できるかぎり抑制的な運用が重要)からも、それが必要です。
普通の生活をしていれば、逮捕されることはない、と信じている国民が多くいるかもしれませんが、そんな甘いことを考えていてはダメ。
だって、
◆ 実行行為がなくても、
◆ 実際には謀議をしなくても共謀とみなされる、
訳ですから、
今回の秘密保護法に関連して、公務員やジャーナリスト、市民活動や政治活動をしている知り合いが逮捕されると、その後逮捕される可能性があるということ。
逮捕されても、最終的に無実が証明されたら良いという意見もあるようですが、逮捕されたら、社会的に原状回復は困難で、ほぼ人生が狂ってしまうという我が国の現状では、そんな悠長なことは言っていられませんよ。
犯罪の早期防止(共謀段階において)のために、国民・市民の権利の犠牲として、自ら捜査の対象とされるリスクが高まることを甘受することを覚悟するしかないという権力者が泣いて喜ぶような国民が多いと、それはそれで仕方がないのかもしれませんが、果たしてそれが、国民・市民にとって、幸せなことなのか?ってことですよね。
秘密保護法案では、故意の秘密漏洩行為と特定取得行為について、共謀、独立教唆、及び煽動を処罰すると規定しています。
この部分が、いわゆる治安維持法的共犯規定です。
恣意的に運用されたら最後です。
恣意的な運用がなされたとしても、できるだけリスクマネジメントがなされる、つまりは何らかの担保があれば良いのですが、それがない。
当該法案の絡みでもう一つ、特定秘密に関して、何が秘密なのかが基本的には、それを知る一部の人物(基本的には官僚が多い)以外、誰も知らないし、知ることができない、ってこと。
何が秘密なのか判らないから、知らずに特定秘密にアプローチしてしまっている人が出てくる。
一番考えられるのが、やはり、マスコミがそうですよね。
オンブズマン活動なんかもそう。行政相手が多いから、オンブズは。
つまりは、特定秘密に近付きつつあるという意識がないマスコミやある問題を追及している国民・市民が、その情報にアプローチしようとすること自体、処罰される危険性があるってこと。
「共謀した」とか「教唆した」とか、「扇動した」とかで。
違法性の意識・認識がなくても、違法行為をすれば、逮捕されて処罰をされるのが、我が国の刑事法の運用です。
「違法だってこと、知りませんでした。」と言っても、仕方がない。
「人の物を盗ったらアカンて知らんかった。」と言っても、窃盗罪で逮捕されることは当然ですよね。
確かに、だいたい大まかなことについては、「これは犯罪だ」ってことを僕たちは知っています。
でも、この特定秘密については、それが判らない。
だから、「これは、特定秘密かもしれない」という危機意識が出てくるかもしれない。
となると、「これに触れたら、マズイかもしれない」と、活動それ自体を躊躇してしまうかもしれない。
いわゆる自由な言論・表現活動を萎縮させる危険性ってやつ。
落合弁護士が、『相談すらしなくても、共謀が認定される以上、「漠然と相談」したりすれば、「具体的・現実的な合意をした」と決めつけられる可能性が極めて高いでしょうし、飲酒の席で犯罪の実行について意気投合し怪気炎を上げたりすれば、正に自殺行為と言っても過言ではなく、「具体的・現実的な合意」が悠々、楽々と認定されてしまうことは必定だと思います。』と、共謀罪の危険性を指摘されています。
僕も、警察・公安、検察、そして共謀に関してユルユル認定の司法の強力な連携で、秘密にアプローチするマスコミや国民・市民をガンガ摘発して、処罰していくという蓋然性は、それなりに高いんじゃないかと思ってしまいます。
当然、逮捕以前に、公安や警察による国民・市民の監視は、より行われることになるでしょうしね。
これまで「原発関連情報が特定秘密となることは絶対にない」としていたものが一転、原発関連情報も「特定秘密」の対象となると内閣情報調査室の参事官が、先日述べました。
「テロ防止」のために、原発関係施設や核物質貯蔵施設の警備実施状況が、「特定秘密」の指定対象になるだろうと。
繰り返しになりますが、当該法案が立法化されたら、どのようなものが特定秘密になるのか、どのような名目で、特定秘密になるのか、全く判らないんですもんね。
何だか、共謀罪が、この秘密保護法によって、より危険性が強化されているように思えます。
「共謀罪」創設そのものをまた検討しているそうです。
『暴力団やテロリスト集団の犯罪対策 「共謀罪」創設法案 通常国会に再提出へ政府検討』
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130924/plc13092401370003-n1.htm
これらの立法化の目的は、よく解りますよ。
アメリカと上手く付き合っていくためってことが一番だとしても、犯罪を防止するため、重要な情報が漏えいしないために、これらの立法化が必要なんだってことはね。
でもね、目的を具現化するために、その手段が何でもあり、ってことはありえない訳です。
目的が正しければ、その手段は、あまり合理性を問わないってなら、そんなの高度な機能を有するヒトじゃないですよね。
犯罪を少しでも減らしたいのなら、刑罰をすべて死刑にすれば、犯罪はそれなりに減るでしょう。
言うことをきかないこどもに対して、暴力でもって躾ければ、大方なんでも言うことをきいてくれるでしょう。
簡単ですよ。
人を動かすなんて。
北朝鮮のようにすれば、多くの国民が従ってくれますもん(長期にそれが可能かはこれまた別論)。
この法案の立法化によって、権力者が、気に入らない人物を逮捕することがとても容易になるってことです。
謀議がなくても、共謀が認定されれば、実行行為である特定秘密の重要情報取得行為がなされなくても、または漏えい行為がなされなくても、逮捕できるんです。
「そんなことするはずがない」だなんて、一体誰が保障してくれるんでしょうか?
人の善良な意思や判断を期待しなくてはいけない刑法の犯罪類型は、刑事法の構成要件としては、不合格です。
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