ノブ君は、ハノンの楽譜を見ながら、ゆっくり弾いていきました。
この頃ノブ君は、
色を付けた音符ならば、初見でも弾けるくらいになっていたのです。
まず、最初の8小節を右手だけ、何度も弾かせました。
ゆっくりゆっくり時間をかけて。。。
何回か弾いた後、私はノブ君に
「この曲を好きな人!」と聞いてみました。
すると、ノブ君は右手を挙げて、
小さな声で「あい。」と答えたのです。
最初は、条件反射で「あい。」と言ったのかな~と、
半信半疑でした。
それからノブ君のレッスンの時は、
最初にハノン教則を弾くことがお決まりになりました。
ノブ君にハノンを弾かせる一番の目的は【左手の指の神経の分化】ですから、
レッスンの時は、左手をなるべく多く弾かせるようにしました。
そのようなレッスンが続き、
ノブ君の左手も、随分と動くようになってきました。
しかし相変わらず、ノブ君は両手で弾く分散和音が苦手です。
勿論、最初の頃に比べたら、随分と上手になってはいるのですが、
やはり、両手で分散和音を弾いていると、イライラしてくるみたいでした。
そんな時には、コチョコチョしたり、手遊びをしたり、
一旦意識を他の事にずらすように心がけました。
そんなある日、私はちょっとしたイタズラ心で、
「ノブ君、そんなにイライラするなら、ハノン弾いて。」と、
もう一度ハノン教則本を広げました。
すると、ノブ君は落ち着いたお顔で、ハノンを弾き始めたのです。
ノブ君は本当に、ハノンの練習曲を弾くのが好きなんだな~と
改めて思いました。
単純な音型の繰り返しが、自閉症のN君には心地よいのかもしれません。
お母様にうかがったら、お家でも、好んで弾いているとのことでした。
ノブ君の頭の中を垣間見たような、そんな貴重な体験でした。