※参考記録

日本百名山山頂宙返りを敢行中の【雪崩★マン】が綴る社会学的山岳エッセイ!

冬と春の狭間で(安達太良山へ)vol.2

2006年04月20日 | 山【mountain&climbing】
*強風吹きすさぶ安達太良山山頂

 4月6日、午前6時のくろがね小屋前の気温は-9℃
天気は「雪」。風は「猛烈」。
降雪量は少ないが、安達太良特有の強風が目を覚ましたようだ。

 この小屋には掛け布団が無く、その代わりに一組の寝具に毛布が2枚付く。
“付く”というか、敷布団、枕、毛布2枚が畳んで整然と置かれていた。
前夜、寝床を作ろうと思ったが、これらのセットをどう使ってよいか
合点がいかず、そっとテレカーマー氏の寝床を盗み見して
毛布2枚を掛け布団として使うことを理解した。
寒いと思われる方もおられるだろうが、
僕には強い味方モンベル社のU.L.ダウンインナージャケットがあった。
加えて強酸性の温泉、
そして出発前日からの極度の寝不足が
快適な睡眠を助けてくれた。

 僕は単独なので天気が悪ければ前日辿った道を引き返すつもりだったが、
朝食後(*僕は自炊)テレマーカー氏、佐藤さんと話し、
山頂を目指すことにした。
というのもテレマーカー氏は毎年安達太良に来ており、
この山域をよく理解している。そして

「“肩”まで一緒に行きましょう」

と言ってくれたからだ。

 のんびりコーヒーを飲みながら談笑後の7時半に出発した。
ここからはGRIVEL社の12本爪アイゼン、
エアーテック・ニューマチックの世話になる。
テレマーカー氏はスキーにシールを取り付けている。
もうここからいきなりスキーで登るらしい。
佐藤さんは

「フツーの人ならこの天気なら下山を勧めるけどね」

と言いながら僕らを見送った…。

 小屋前は吹き溜まりになっており、太ももくらいまでの深雪のラッセルに苦しんだ。
そこを過ぎると、今度は歩きやすいが、猛烈な風に襲われた。
3分に一度はピッケルを使った「耐風姿勢」を取らなければならないほどだ。
テレマーカー氏はスキー板のせいか、ときおりフワーッと風にあおられ
1~2mほど横に飛ばされながらも平然と歩を進める。
当然視界もよくない。20mほどか。
30分ほどで「峰の辻」にやってきた。
天気がよければ安達太良山頂を眼前に臨めるのだろうが
今は何も…。
テレマーカー氏は時々
あっちは山頂でこっちは篭山で…と何も見えないあちこちを指差して
教えてくれた。
さらに30分で山頂直下の肩に着いた。

「薬師岳に向かってはなだらかな稜線歩きです。
ゴンドラ手前で左の五葉松平へ向かって下りてください。
スキー場の上部に出ますので」

「ありがとうございました」

強風のなか握手を交わして別れる。
彼は何も見えない白闇へ向かって颯爽と滑っていった。
カ、カッコいい~!!

 あとは“目の前にあるはず”の山頂を踏むのだ!
風はより一層強くなった。耐風姿勢を取りながらの前進。
あれ?!着いちゃった。
肩から1分ほどで山頂だった。

 とてもじゃないが長居はできないし、早々に退散したいくらいの天気だが
“あれ”をやらねばならない。
ザックとピッケルを岩陰に置き、
風に飛ばされないようにグローブをくわえて外し、アイゼンを外す。
凍ったところを避け、ちょっと踏んで整地する。
少し腰をかがめて精神を集中させる。
強風とそれを受けるマウンテンジャケットのバタバタという音だけが聞こえた。

フンッ!*パッション屋良風の気合

『日本百名山山頂宙返り』見事に遂行!
気象条件的にはこれまで一番厳しい宙返りだった。
当然だが写真は無い。

 プロジェクトを遂行したら途端に指先の感覚がちょっと鈍っていることに気づいた。
ヤ、ヤバイ!これって凍傷になる一歩手前じゃ…。
まあそんな簡単に凍傷になることはないだろうが、
プロジェクト遂行のための準備をしているうちに結構時間が経ってしまったようだ。
今朝小屋を経つ前に作った紅茶をテルモスから注ぎ、
手と身体を暖め、身支度を整え、長い長い下りが始まった。

冬と春の狭間で(安達太良山へ)vol.1

2006年04月19日 | 山【mountain&climbing】
*雪の降る勢至平付近で

 4月5日、いつもの山行初日同様極度の寝不足だ。
6時前に自宅を出る。上野から東北新幹線で郡山へ。
在来線に乗り換え二本松へ。そこから路線バスで岳温泉へ。
この時期はここ岳温泉が登山口となる。
冬のスキーシーズン中はここから登山口のあだたら高原スキー場まで
シャトルバスが運行されているが、残念ながら4月2日で今シーズンの運行は
終了している。となるとここからあだたら高原スキー場までは
1時間ちょっとの車道歩き。結局は今回の山行で一番辛かったのが
この車道を1時間以上冬靴で歩いたことだった。
いつの間にか冷たい雨が容赦なく降り始めていた。
冬靴の車道歩きは僕の気持ちを萎えさせ、
雨は僕と眼前にそびえているはずの安達太良山を遮ったが
ほんのちょっと興奮する僕の心を冷ましてくれた。
そうそう、今回の目的地は会津の名峰、安達太良山である。

 スキー場のレストハウスで昼食。
シーズンの終了を惜しむように若いスノーボーダーが数名雨のなか
シュプールを描いたり、レストハウスで談笑している。
僕は独り、緊張感を高めながらボーダーたちは触ったこともないだろう
ピッケルを取り出した。
事前の情報の通り、くろがね小屋までは“つぼ足”で行けそうだ。
アイゼンは要らないだろう。
スキー場脇の樹林帯のなかの登山道へ入る。
途端にほとんど無人に近いスキー場内に流れるけたたましいJ-POPの音量が
優しくなった。
10分も歩くと雨が雪に変わった

 雪は降り続くが、噂の安達太良特有の「強風」は無く、
ただ深々と雪が降るのみ。不気味だ。
風は無いし、トレースはあるので安心して歩けたので
カメラを取り出し、数枚写真を撮る。

 15時過ぎにくろがね小屋に到着。
先行するトレースが薄かったし、登山者にも会わなかったので
宿泊者は僕独りだと思っていたが、
単独のテレマーカーがいた。聞けば毎年安達太良へ来ているらしく
小屋のご主人とも顔馴染み。
 くろがね小屋はめずらしい
「通年営業」「通年温泉に入れる」山小屋。
早速頂いた。
乳白色の酸性泉は身体も心も癒された。

 入浴後は夕食だが、テレマーカー氏は小屋の食事を頂くようだが
僕は自炊。今夜はタイカレー、韓国風スープ、ほうれん草の煮びたし、
そして小屋のご主人佐藤さんから頂いたきんぴらごぼう。
なかなか豪勢だ♪

 夕食後夜10時までテレカーカー氏と佐藤さんの3人で談笑した。

 夜中に風が強くなり、小屋を叩く音が大きくなった。
時折小屋が“揺れ”た。

 翌6日、安達太良山は本来の冬山の姿を取り戻していた…。

無事下山!

2006年04月06日 | 山【mountain&climbing】
 無事、安達太良山から下山しました
ひとまず報告のみで…。

 とにかく天候が悪く、5日は麓は雨。中腹からは雪。
この日はくろがね小屋まで行き一泊。
翌朝から猛吹雪!!山頂付近は強烈な突風と吹雪で
完全なホワイトアウト状態

 何度も「遭難」という言葉が頭をよぎったが、
地図とコンパスによる読図と方向感覚で無事下山できた。