※参考記録

日本百名山山頂宙返りを敢行中の【雪崩★マン】が綴る社会学的山岳エッセイ!

汚染列車

2002年12月21日 | 雑感【thoughts】
「ウワッ!」
という叫び声とともに、西武新宿線の車中で読書中の僕は二、三名の男に背中を押された。
振り返ると、僕の後方1mほど先がぽっかり空間になっている。
やった!
吊り革に掴まっていた若い大学生風の男がゲロを吐き、その重く温かい毒の雨が、座っていた若い男女の頭上に降り注がれた。
(この男女、カップルではないらしい。小説の冒頭としてはカップルのほうが面白い。
いや、この二人が仲良くなるという展開も面白い。)
ゲロ男はドアの近くで屈み込み、さらに床を汚染し始めていた。
瞬く間に男は見事な毒の海(生焼けお好み焼き状態。直径50cm。Lサイズ)
の創造者となり、海の周囲2mが汚染区域に指定された。
まもなく到着した鷺ノ宮でゲロ男は降り、
さらにホームにもお好み焼きを提供し続けた(Mサイズ)。
 やがてドアが閉まり(ゲロ男顔を上げず)、
同時にアンモニアガスに皆が苦しみ始めたとき、
汚くも美しい光景が展開された。
周りの数名の乗客が「どうぞ」と言いながら男女に
ティッシュペーパーを渡しているではないか。
「もうちょっと後ろ…そう耳の辺り」と被害箇所の指示を出す
偽善者魂旺盛な輩も現れ、車内は沈没する潜水艦の船内で助け合う乗組員のような
連帯感に包まれていた。
しかし、僕は気分が悪かった。ティッシュを手渡した連中の背中には
「面白いものを見たなぁ。早速彼女にメールで知らせよう」と書かれていたのだ。
そして、かつて似たような光景を目にしたような気がして、記憶を反芻していた。
やがてあの日を思い出すまでさほど時間はかからなかった…。

 以上、昨日の出来事を「すばる文学賞」受賞作風に報告してみました。