読書感想とロードバイク日記2

週末のお天気の日にロードで走っています。晴耕雨読ならぬ、晴れたらバイク、雨の日は読書の日々

「極夜行」

2019年05月30日 | 日記
角幡唯介(文芸春秋)

 面白かった!
 ノンフィクションの醍醐味を久しぶりに堪能した。

 内容紹介は
『光のない「極夜」の世界を冒険家とともに体感する。
極夜(きょくや)とは南極圏や北極圏で起こる太陽が昇らない現象で、三〜四ヶ月から六ヶ月間は闇に包まれる。極夜の反対は白夜だ。
探検家の角幡唯介氏は、グリーンランド北西部にある地球最北のイヌイット村、シオラパルクに拠点を置き、極夜の中、グリーンランドとカナダの国境付近を四ヶ月かけて探検した。
角幡氏を極夜へと駆り立てたのは、イヌイットの言い伝えで「お前は太陽から来たのか。月から来たのか」と、今から二百年前、初めて部族以外の人間に出会ったイヌイットが発した言葉だという。この一言が角幡氏の心の琴線に触れた。「極夜の世界に行けば、真の闇を経験し、本物の太陽を見られるのではないか」
四十年前、私は一ヶ月ほどシオラパルクで極夜を撮影したことがある。気温はマイナス四十度にも達し、吸い込んだ空気が肺の中で凍る思いがした。不覚にも滞在三日目、アザラシ猟の途中に犬ゾリで転倒し、右目を失明しかけた苦い経験がある。
こうして私は極夜の恐ろしさを思い知ったのだが、角幡氏は何も見えない闇の世界を、二台の橇(そり)に百五十キロもの荷物を乗せ、一頭の犬とともに標高差一千メートルの氷河を登高し、強烈なブリザードに足止めを食らいながら、ツンドラや湿地帯、ときには海氷をひたすら歩き続けた。平坦と思われる海氷も、乱氷群が立ちはだかり行く手を阻まれることも少なくない。
極夜行のため一年半前から食糧を設置しておいたが、保管庫が二箇所も白熊に食い荒らされていた。旅の半ばにして「完璧に終わった。すべて終わった」と吐露する。しかし、これが極夜だ、ノンフィクションだと自らを奮い立たせる。これが角幡氏の真骨頂だ。
食糧を失い窮地に立たされた氏は目的地を諦める。犬もガリガリに痩せてきた。人を寄せつけない闇の恐怖に怖れ、怒り、落胆する日々が続く。
ようやく現れた月光の輝きに心が癒されていく。壮絶なまでに美しく、地球上の風景のレベルを超えているとあるのは、いったいどんな光景なのだろうか。角幡氏の極夜行を追体験しているような臨場感にぐいぐいと引き込まれていった。
帰路の途中、テント内に日差しが差し込んでくる。戸惑い高揚する角幡氏。四ヶ月に及ぶ壮絶な極夜行で、優しい温もりがあることさえ忘れていたと述懐する。
極夜を歩き続けあれほど待ち望んでいた四ヶ月ぶりの太陽。空も雪原もオレンジ色に染める、丸く大きな太陽を見た角幡氏の頬を涙が伝う。イヌイットたちが見ていた本物の太陽だ。
評者:中村征夫
(週刊文春 2018年3月22日号掲載)

極夜行
地球上には太陽光が何カ月も届かない「極夜」というものがあるという。著者はそのまっくら闇を約4カ月間ひとり+犬1匹で探検し、現代人が忘れつつある、闇や太陽への原初の感覚を体験しようと試みる。探検家であり、数々の文学賞を受賞したノンフィクション作家でもある著者による、渾身の探検記録だ。
生死を懸けた単独行の過酷さに圧倒されるとともに、探検の描写のひとつひとつに宿る生々しさにも魅了された。ここぞというところで用いられる「ぶーん」「すげえ……」などの単純な語彙が圧倒的なリアルさを持っているのだ。著者自身も言及しているが、表現者としていかに感覚を表現しうるか、あるいはできないのか、という強い自覚のもとで選ばれたことばの力なのだろう。迷いのない文体に、著者の強靱な精神を感じた。
評者:石原さくら
(週刊朝日 掲載)

内容紹介
ノンフィクション界のトップランナーによる最高傑作が誕生!
探検家にとっていまや、世界中どこを探しても”未知の空間“を見つけることは難しい。大学時代から、様々な未知の空間を追い求めて旅をしてきた角幡唯介は、この数年冬になると北極に出かけていた。そこには、極夜という暗闇に閉ざされた未知の空間があるからだ。極夜――「それは太陽が地平線の下に沈んで姿を見せない、長い、長い漆黒の夜である。そして、その漆黒の夜は場所によっては3カ月から4カ月、極端な場所では半年も続くところもある」(本文より)。彼は、そこに行って、太陽を見ない数カ月を過ごした時、自分が何を思い、どのように変化するのかを知りたかった。その行為はまだ誰も成し遂げていない”未知“の探検といってよかった。 シオラパルクという世界最北の小さな村に暮らす人々と交流し、力を貸してもらい、氷が張るとひとりで数十キロの橇を引いて探検に出た。相棒となる犬を一匹連れて。本番の「極夜の探検」をするには周到な準備が必要だった。それに3年を費やした。この文明の時代に、GPSを持たないと決めた探検家は、六分儀という天測により自分の位置を計る道具を用いたため、その実験や犬と自分の食料をあらかじめ数カ所に運んでおくデポ作業など、一年ずつ準備を積み上げていく必要があった。そしていよいよ迎えた本番。2016年~2017年の冬。ひたすら暗闇の中、ブリザードと戦い、食料が不足し、迷子になり……、アクシデントは続いた。果たして4カ月後、極夜が明けた時、彼はひとり太陽を目にして何を感じたのか。足かけ4年にわたるプロジェクトはどういう結末を迎えたのか。 読む者も暗闇世界に引き込まれ、太陽を渇望するような不思議な体験ができるのは、ノンフィクション界のトップランナーである筆者だからこそのなせる業である。   』

・・・犬が可愛い。最後は食糧になったかもしれないけど、太古の時代?からの友達であり、心がつながることができる関係にあるのだなぁ。
・・・さすが新聞社で文章を鍛えられたか、と思わせる筆力。読んでも飽きさせない。
・・・太陽と月の関係の分析が面白い。月は女性なんだな。気まぐれだし、どう変化するか分からない。人間を幻惑する。
・・・最初に出産シーンが描かれるけど、それが最期とつながっている。極夜から出るのが「出産」と同じと言う発見が面白い。
・・・ノンフィクション好きには絶対おすすめです。作者は芦別の出身だよ。そのせいか寒いところが好きそうだ。
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「麒麟の翼」

2019年05月29日 | 日記
東野圭吾(講談社)

 謎を最後まで伏せつつ、展開していくので読者はそれに引っ張られて読んでしまう。作者の力量ですね。
 結末の意外性が持ち味です。

 内容紹介は
『「私たち、お父さんのこと何も知らない」。胸を刺された男性が日本橋の上で息絶えた。瀕死の状態でそこまで移動した理由を探る加賀恭一郎は、被害者が「七福神巡り」をしていたことを突き止める。家族はその目的に心当たりがない。だが刑事の一言で、ある人物の心に変化が生まれる。父の命懸けの決意とは。
この橋に架けた愛と償い
親子だからこそ起きた悲劇と奇跡。
この謎を解けるのは、加賀恭一郎しかいない。

 著者略歴
 東野/圭吾
1958年、大阪府生まれ。大阪府立大学電気工学科卒業後、生産技術エンジニアとして会社勤めの傍ら、ミステリーを執筆。1985年『放課後』(講談社文庫)で第31回江戸川乱歩賞を受賞、専業作家に。1999年『秘密』(文春文庫)で第52回日本推理作家協会賞、2006年『容疑者Xの献身』(文春文庫)で第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞、2013年『夢幻花』(PHP研究所)で第26回柴田錬三郎賞を受 』

・・・日本橋はたまに通るので、この麒麟はみたことがある。高速道路が上を走っているので景観は最悪だけど、そのうち空が直接見えたら良い。この像からこのミステリを構想したとしたら、すごいですね。読みやすくわかりやすい作品だが、結末はちょっと暗いかなぁ。
・・・刑事の活躍がちょっと都合がいいところがあるが、エンターテインメントだから許されるね。軽く読めるのでお勧めです。

 
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「炎の中の絵」

2019年05月23日 | 日記
 コリア(早川書房)
 この出版社はときどきポピュラーじゃないけど、特別な面白い本を出しますね。
 これも短編集だけど、拾い読みした。結構、ピタッと感じるものがあって、面白かった。
http://ecx.images-amazon.com/images/I/51cOM3pbOwL._SL160_.jpg

 内容紹介は
『目次
•夢判断
•記念日の贈り物
•ささやかな記念品
•ある湖の出来事
•旧友
•マドモアゼル・キキ
•スプリング熱
•クリスマスに帰る
•ロマンスはすたれない
•鋼鉄の猫
•カード占い
•雨の土曜日
•保険のかけ過ぎ
•ああ、大学
•死の天使
•ギャヴィン・オリアリー
•霧の季節
•死者の悪口を言うな
•炎の中の絵
•少女

あらすじ・感想(ネットで見つけた。ネタバレだけど、独自の味わいがあって。やはり実物を読むと良い)感想部分は「( 」で表記。

夢判断
3高層ビルの精神科医の診療室に、同じビルの最上階で働いている青年がやってきます。青年は38日前から、毎晩1階ずつ落ちている夢に悩まされています。
(妙に現実味のある夢を毎晩続けて見るのは恐ろしいですね。精神科医ならもっと夢から分析するんじゃないかなと思っていたので拍子抜けしましたが、怒涛の展開面白かったです。
・・・

記念日の贈り物
ペットに動物をとっかえひっかえする妻に嫌気がさした夫は、毒蛇を利用して妻を殺害しようとします。
毒蛇入手中のやりとりを見て夫応援するのやめました。
(いくら主人公だろうと殺人しようとしてる人を応援しながら読むのもどうかと思いますけども。

ささやかな記念品
青年は散歩中に、丘の上に住んでいる老人の家に招かれます。老人は自宅をちょっとした博物館にしていると言いますが、そこの展示品は普通の博物館のそれとは違っていました。
(老人の自慢は博物館以外にもう一つ、丘の下を見ることのできる望遠鏡があります。こういう人を唆す話は面白くていいですね。

ある湖の出来事
ジャングルに憧れる夫と、都会での生活を夢見る妻。ある日夫は多額の遺産を受け取ります。夫は遺産を半分に分けて妻と別行動をとろうと提案しますが、夫をいたぶってきた妻は彼の旅行に同行し、妨害ばかりします。怪物を見に行った湖でさえも。
何が彼女をこうまで駆り立てるのか…
(夫が鼠似で妻が猫似と最初に書かれているので、あの異常性に理由を求めるのは無駄かな。

旧友
20年連れ添ってきた夫婦、病に伏せた妻は最期に彼らの親友の名を口にします。それを聞いた夫は彼女が死んだ手続きを後回しにして、当時の彼らが三人で集まっていたカフェに出かけます。1杯飲んでいると死んだはずの妻が現れ、更に20年ぶりに親友と再会します。
(20年って長いです。それほど長い間溜め込んでいたものが破裂した結果でしょうか。

マドモアゼル・キキ
ブサ…可愛くはないけどある理由で毎日餌をもらえている野良猫の話。野良猫達の異様な習慣、他所からやって来た飼い猫。
(猫視点の話ってかわいい話しか読んだ事なかったので新鮮でした。キキって聞いてあの黒猫を連想したけどすぐにかき消されました。

スプリング熱
彫刻家はある日観に行った腹話術のショーを見て、自分の技術でリアルな人形を作り、それで同じ事をやれば儲かると考えます。題のスプリングは人形の関節の素材です。そうして作り上げた人形はまるで人間のようで…
(ホラー展開にならなくて良かった…あと最後の主人公の判断。そっちの方が可愛いし仕方ない。

クリスマスに帰る
手回しの良い奥さん、クリスマスはいくら忙しくてもちゃんと夫を連れて戻ってくるからねと言い引っ越します。

ロマンスはすたれない
悪事を企てるウォトキンズ氏と善良だが自殺を考えているゴスポート氏。彼らは新住宅開発地で暮らしていますが、ちょっと妙な事が起こりまして…

鋼鉄の猫
鋼鉄の猫という名のネズミ捕りを発明した男は、実演に使っている相棒の鼠をとても手なずけており気に入っていました。
(タイトルだけ見てマドモアゼル・キキみたいな話かな?と思っていたら違いました。微笑ましい気持ちになったところを突き落とし、傷ついたところを最後更になぶってくる話です。(なんだそれ)

カード占い
とにかくよく当たるトランプ占いを学び富を求める女性は、客の中に大金を手にする未来を持った男に出会います。彼女は金目当てに男と結婚しますが…
(金のことばかり考えるのはともかく、他人から奪おうとするのは駄目ですよね。そんなによく当たる占いなら賭けでもすればいいのに
・・・
(以下略)

 著者紹介
『コリア,ジョン
1901‐1980。ロンドン生まれ。独学で文学を学び、20歳で詩集を自費出版する。その後、雑誌編集に携わり、1930年には処女小説『モン生理的に無理というのはよくありますが、それが自分の家族ってしんどいだろうなあ。本編とあまり関係ないところですけども。
第二次大戦後はアメリカへ移住した。1951年の短篇集『夜と幻想』でアメリカ探偵作家クラブ賞を受賞

村上/啓夫
1899‐1969。東京外国語大学英米語科卒業。ダシール・ハメット、アガサ・クリスティー、ヘンリイ・スレッサーらの作品を翻訳』

・・・個人的には、「夢判断』『ああ、大学』『死者の悪口を言うな』が面白かった。
・・・ちょっと変わったショートショートが好きな方にお勧め。
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「やさしいフランスチーズの本」

2019年05月23日 | 日記
 レ・ヌーヴォー・フロマジェ(パイインターナショナル)

 半分が絵本でかわいい。それもそれぞれの絵にチーズが書かれていてイメージが鮮明になる。
 説明もしっかり本格的だが、絵本使用だから、ほんわかムードになる。手元に置いておきたい。

 内容紹介は
『フランスは「1つの村に1つのチーズがある」と言われるほどチーズづくりが盛んな国。本書は、このチーズ消費量世界第1位のフランスを中心に、世界のチーズの特徴をユーモアたっぷりのイラストで解説します。チーズの作り方や、上手な切り方、どんな種類のパンに合うか、などの情報も掲載。チーズ初心者にぴったりの入門書です。
 サン=ネクテール、ボーフォール、マンステール、モンドール、ロックフォール…。チーズ王国フランスを代表する絶品チーズ60種をセレクション。チーズの特徴をイラストで紹介する、絵本のようなチーズの入門書です。

 著者について
 レ・ヌーヴォー・フロマジェ:
 フランスのほか、イギリスなどで、インターネットによるチーズの通信販売を手掛けているチーズ専門店。月に1度、食べ頃のチーズや珍しいチーズをセレクトしたボックスを届けるサービスを提供している。本書は、同店の共同経営者であるオリヴィエ・ビラド、ジュリエット・デルクール、レミ・ショックメルによる共著。
 トマ・バース:
イラストレーター・絵本作家。ストラスブール国立装飾美術学校卒。児童向け絵本やポスター、雑誌など作品多数。

翻訳 河 清美:
東京外国語大学フランス語学科卒。翻訳家、ライター。主な翻訳書に『ワインは楽しい!』『コーヒーは楽しい!』『ウイスキーは楽しい!』『ワインの世界地図』『美しいフランス菓子の教科書』(パイ インターナショナル)など多数。

・・・そうなんだ。著者は「お店」。訳せば「新しいチーズやさん」でしょう?
・・・眺めていても楽しいよ。
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「平成猿蟹合戦図」

2019年05月20日 | 日記
 吉田修一(朝日新聞社)
 
 軽いノリで面白おかしく、荒唐無稽なお話が展開する。
 
 内容紹介は
『歌舞伎町で働くバーテンダーが、ニッポンの未来を変えていく!? 新宿で起きた轢き逃げ事件。平凡な暮らしを踏みにじった者たちへの復讐が、すべての始まりだった。長崎から上京した子連れのホステス、事件現場を目撃するバーテン、冴えないホスト、政治家の秘書を志す女、世界的なチェロ奏者、韓国クラブのママ、無実の罪をかぶる元教員の娘、秋田県大館に一人住む老婆……一人ひとりの力は弱くても心優しき8人の主人公たちが、少しの勇気と信じる力で、この国の将来を決める“戦い”に挑んでゆく! 思いもよらぬ結末と共に爽快な読後感がやってくる、著者の新たな代表作。

 著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
 吉田/修一
 1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。1997年「最後の息子」で第八四回文學界新人賞を受賞し、デビュー。2002年『パレード』で第一五回山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で第一二七回芥川賞、2007年『悪人』で第六一回毎日出版文化賞、第三四回大佛次郎賞、2010年『横道世之介』で第二三回柴田錬三郎賞を受賞  』

・・・作者が長崎出身だから、長崎弁はお手のものでしょうけど、秋田弁は(それも大館の方言はどうしたのか。奥さんが秋田美人なのか?)。ともかく、登場人物の個性がこれで光っている。
・・・気楽な読書にお勧め。




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