読書感想とロードバイク日記2

週末のお天気の日にロードで走っています。晴耕雨読ならぬ、晴れたらバイク、雨の日は読書の日々

「商う狼」

2024年03月19日 | 日記

永井彩也子(新潮社)

一種の経済小説で舞台は江戸。
今の感覚では当たり前だが、身分制度の昔はなかなかこのような商売なり経済制度を動かすことは難しかっただろう。
ところで、実在の人物だったのだろうか。
傑作・・・かどうかはさておき、楽しめた。

内容紹介は
『甲斐の農家から江戸の飛脚問屋の養子となった茂十郎は、名を揚げた矢先に永代橋の崩落事故で妻子を失う。その悲しみを糧に、茂十郎は三橋会所頭取となり橋の運営に要する莫大な費用を集め、十組問屋を再編し、菱垣廻船を立て直して流通を一新。江戸の金の流れを掌握し、「狼」と恐れられながらも商いの道理を貫いた実在の改革者に迫る傑作歴史小説。
  • 受賞第3回 細谷正充賞
  • 受賞第40回 新田次郎文学賞
  • 受賞第10回 本屋が選ぶ時代小説大賞
出版社の書評を引用・・・・ネタバレだから、これだけ読めば内容は分かってしまう。
「哀しみの獣・茂十郎
 縄田一男
 永井紗耶子といえば、これまで『大奥づとめ』など、地味で堅実な作風で“知る人ぞ知る”といった存在だったが、それも、昨日までのことだ。
 今回、刊行の運びとなった『商う狼―江戸商人 杉本茂十郎―』は、作者にとって正にモニュメンタルな逸品で、これで読者の見る目も変わることだろう。
 作品は、老中、水野忠邦が、かつて松平定信の寛政の改革の下、札差や大商人を相手に大鉈を揮った豪商、堤弥三郎から、ある商人の話を聞こうとするところで幕があく。
 その商人とは、大坂屋茂兵衛改め杉本茂十郎――口さがない輩は、彼をある妖怪にたとえて「毛充狼」と呼んだ。体は強くしなやかな狼。手足には、狐狸の如く人を蹴落とす鋭い爪を持つ。尾は蝮の姿で二枚の舌をちらつかせて毒牙を剥く。そして額には「老、寺、町、勘」の四字の護符を頂いている。その歪な化け物は、メウガメウガと鳴き声を上げながら、文化文政の江戸の町を駆け抜けていった。
 その毛充狼こと茂十郎は、彼の生涯のパートナーとなる前述の弥三郎に一言でいわせると“厄介な男”。山深い甲斐から江戸へ来て、奉公人として勤めていた飛脚問屋に婿入りした一商人で、それがいつしか、御店の主の枠を越えた。飛脚の運賃を上げるようお上と直談判して新たな法を整備。次は江戸二千人の商人を束ねる十組問屋の争い事の仲裁に成功した。次いで、その十組問屋の頭取となり、流通の要となる菱垣廻船の再建を行い、更に町の橋を立て直す三橋会所頭取として手腕を揮うと共に、町年寄次席として政にも携わるようになっていった。
 大した出世物語ではないか――本文をお読みになっていない方はそう思われるかもしれない。が、そこには出世物語のにぎやかな気配はなく、あるのは己の中の“孤”を飼い馴らすことのできない男の淋しさのみである。
 その淋しさはどこから湧いて出てきたのか。
 かの有名な永代橋の崩落である。
 女房のお八尾。息子の栄太郎。そして、奉公人の小僧と女中――。皆、逝ってしまった。
 何故、橋は落ちたのか。
 橋止めをした一橋民部卿への怒りを露わにした者もいるが、すべての町の政を司る樽屋への怒りも大きい。そもそもあれだけ老朽化するまで何故放っておいたのか。そして双方の責任のなすり合い。が、その中から、勇躍、己の中の“孤”を胸中に秘めて立ち上ったのが杉本茂十郎である。
 弥三郎は思う――「永代橋崩落から妻子を失った悲しみの中に沈んでいるのだと思っていた。追悼を行う寺々を回っているのも、その悲しみを癒すためであろうと思っていたが、江戸市中を巡り歩きながら、この男は人の流れ、金の流れを見ていたのか」と。
 そんな中、作者は「多くの商人、町人が暮らす江戸において、十組問屋の二千人が江戸の富を独占している。懐に蓄えられた金はいずれも大藩の江戸屋敷にも負けない。しかもその金が市中に出回らないことこそが、江戸の最も大きな問題でもあった」と書く。
 それを何とか掴み出して、老朽化した橋や町の整備に当てる――ここに弥三郎のいう茂十郎の“厄介さ”がある。すなわち、茂十郎は、理非曲直を正すのに手段を選ばないのである。
 金は刀よりも強い、だがその金はどこまで権力に通用するのか? 従って、物語の後半、行くところまで行ってしまった茂十郎の落日は哀しい。
 が、その茂十郎の知己は思わぬところから現われる。それが、前述の弥三郎から話を聞く水野忠邦である。
 彼はいう「改めて政を為すに当たり、江戸市中を見回せば、そこここにあの獣(茂十郎)の爪痕が残る。されど、何を為した者であったのかを尋ねるも、誰も答えることができぬ。あれは賄賂商人、山師、不届き者、金の亡者……次から次へと湧いて出るのは悪口雑言。果たしてそれは真であるのか。であるならば、何故にこの江戸の市中にはあの者の爪痕がかように残っているのか」と。
 ああ、誰が茂十郎の真のよろこびを知るだろうか。
 いわんや、哀しみをや――。
 心に立ち直れぬほどの深手を負いつつも、江戸の町を精一杯駆け抜けた、毛充狼こと、茂十郎。彼は生きた金を使うつもりで、その金に呑み込まれてしまったのか。いいや彼はそんなに弱くはない。私はそう信じたい。
(なわた・かずお 文芸評論家)
波 2020年7月号より
単行本刊行時掲載

著者紹介
永井紗耶子
ナガイ・サヤコ
1977年、神奈川県出身。慶應義塾大学文学部卒。新聞記者を経て、フリーランスライターとなり、新聞、雑誌などで幅広く活躍。2010年、「絡繰り心中」で小学館文庫小説賞を受賞し、デビュー。2020年に刊行した『商う狼 江戸商人 杉本茂十郎』は、細谷正充賞、本屋が選ぶ時代小説大賞、新田次郎文学賞を受賞した。2022年、『女人入眼』が第一六七回直木賞の候補作に。他の著書に『大奥づとめ よろずおつとめ申し候』『福を届けよ 日本橋紙問屋商い心得』『横濱王』などがある。  』

・・・永井さん。傑作は先日読んだ『木挽町の仇討ち』だと私は思うのです。😀 
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「テレビ局再編」

2024年03月04日 | 日記

根岸豊明(新潮新書)

内容紹介は
『203Q年、地方局の統廃合が始まり、その10年後にキー局は3つになる――。長きにわたってメディア界の覇者として君臨してきたテレビだが、広告収入はネットに追い抜かれ、「オワコン」と揶揄する声も。落日の巨人はどうすれば栄光を取り戻すことができるのか? その具体的な道筋とは? 我が国のテレビ70年の歴史を振り返りながら、キー局の元経営幹部がいま明かす、終わりなきテレビの未来とは。 

序章 テレビは若者に支持されているか
若者は未来からやってくる/プラットフォーマーの主役交代/オンデマンド・サービスの群雄割拠/大きく育ったTVer/リアルタイム配信も実現/BBCを見習ったNHK/デジタルネイティブの時代/本当にオワコンなのか?
第1章 成熟の汎テレビ時代 1980~90年代
パクス・テレビーナ/1953年が「テレビ」元年/ニューメディアの時代/都市型ケーブルテレビ/通信衛星/多メディア多チャンネル/BSデジタル放送/伸び悩んだ広告収入/通販番組への批判と「神風」/垂直統合と水平分離
第2章 デジタルの時代 2000~2010年代
地デジ化/総額1兆円超の投資/デジタル・マフィア/次世代技術満載だった日テレ汐留新社屋/ライブドア騒動と認定放送持株会社/在京キー局の反応/現在は地方局もホールディングス化/アメリカ・メディア調査
第3章 新たな覇者、インターネット 1990年代~
SNSの戦争/フェイク・ニュースの危険性/インターネットの誕生/新聞、テレビ局のネット戦略/iモードとITバブル/iPhoneとワンセグ/大損だったNOTTV/インターネットは脅威か/テレビを抜き去ったネット広告/恒産なければ、恒心なし
第4章 インターネットと、放送の自律
安倍元首相と「放送の政治的公平性」/放送法4条の「立法事実」/放送法改変論議への反発/メディア界重鎮の説得/求められる「自律」「倫理」
第5章 テレビ経営の現在位置
キー局と地方局の関係/ネットワーク戦略/中央集権型と幕藩体制型/親藩・譜代・雄藩/「危機的状況」ではないが……/「ゆでガエル」になっていないか?/地域力というパワー/シンクタンクによる経営シミュレーション/「黄信号」や「赤信号」の局も
第6章 ネットワークは誰が救うのか
テレビ局再編を視野に入れた有識者会議/テレ朝が提案した「ブロック統合」/フジは「持株会社の活用」を要望/危機的状況を救うのは……
第7章 「テレビ局再編」を考えるヒント
ブロック統合と垂直統合の留意点/1局2波あるいは3局体制/クロスネット局への再認識/ハード部門会社の可能性
第8章 テレビの価値再発見 2023
WBCの視聴者数9446万人/ビデオリサーチが証明したテレビの力/一般化した個人視聴率/報道分野での価値再発見/制作分野での自己変革/在京キー局のコンテンツ戦略/「テレビを超えろ」
第9章 203Qのテレビ局再編
203Q/動き出した「1局2波」/「ブロック化」で失われたもの/再編は東京でも/まだら模様に進む再編/地方局はエリアで協力する見方も/ 民放のビジネスモデルは維持できるか?/204Qの世界・日本・東京/3大メガネットワークの誕生
終章 テレビは終わらない
203Q再考/地域の総合プラットフォーム/政界も金融も再編された/水面下での大きな流れ/そして、テレビは終わらない
主要参考文献

著者
1957(昭和32)年、東京都生まれ。ジャーナリスト、メディア研究者。早稲田大学政経学部卒。日本テレビにて編成、報道、メディア戦略に従事。同社取締役執行役員、札幌テレビ社長を歴任。著書に『新天皇 若き日の肖像』『誰も知らない東京スカイツリー』などがある   』

・・・資料的価値あり。
・・・9章と10章を読めばいいのかな。最終章はテレビ関係者としての「希望」だろう。ネットの時代のテレビって何だろう。ちょっと考えさせられるものがある。😳 

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「王の綽名」

2024年03月04日 | 日記

佐藤賢一(日経新聞社)

面白い企画です。
著者の言うように、世界史でたくさん出てくる王様を覚えるのに「これは便利」というものだろう。知っていれば受験勉強に役立ったでしょうに。昔世界史で受験した私にとってはちょっと残念かも。

内容紹介は
『禿頭王、肥満帝、青歯王、合羽王、長脛王、金袋大公、ドラキュラ公、助平ジジイ……今も伝わる55人の王につけられた綽名から、近代ヨーロッパのなりたちがわかる。ゴシップとスキャンダルに彩られた、華麗で野蛮な中世・近世欧州史!

『小説フランス革命』や『ナポレオン』をはじめ、スケールの大きな歴史小説で多くのファンを持つ直木賞作家・佐藤賢一氏が、中世から近世にかけてのヨーロッパの王の「綽名」にまつわる逸話を在位の時代順にひもといていく歴史エッセイ。1話=4ページのエスプリの効いたコラム集という趣きで、寄席の謎解きのように軽妙な語りが時空をまたいで逸話と逸話をつないでく。読んでいるとはっと掌を打ったり、思わず吹き出したり。

本書に登場するのは、9世紀のフランス・ドイツ・イタリアの元となったフランク王国の王から19世紀の二月革命で廃位されるフランスの「市民王」まで55人。北欧のヴァイキングや戦乱やまぬイベリア半島の王も登場し、星雲状態だった中世ヨーロッパがほぼ現在の国々の勢力図になっていくまでの1000年が活写される。残虐非道な謀略、親子兄弟の骨肉の争い、結婚や世継ぎを巡る醜聞、そこにカトリック教会など宗教がからみ、時に100年も続く戦争に発展する。まさに血で血を洗う歴史である。

「赤髭帝」フリードリヒ1世、「獅子心王」リチャード1世、「雷帝」イヴァン4世、「太陽王」ルイ14世……それぞれの綽名は在位当時の国情や世相を表している。それも華麗なゴシップと野蛮なスキャンダルに彩られた俗っぽさとともに。

そして、王の綽名にまつわるうんちくも随所にちりばめられていて楽しい。たとえば――
現在のウクライナの原型となるキーウ大公国の最盛期をなした「聖大公」の名「ウォロディーミル」は、ウクライナのゼレンスキー大統領のファーストネームだが、これをロシア語読みすると「ウラジーミル」、プーチン大統領のファーストネームになる。今もウクライナの首都キーウにそびえ立つ「聖大公」の銅像は、モスクワにも……

【目次】
小王      フランク王 ピピン1世
敬虔帝     フランク皇帝 ルートヴィッヒ1世
禿頭王     西フランク王 シャルル2世
肥満帝     フランク皇帝 カール3世
単純王     西フランク王 シャルル3世
美髪王     ノルウェー王 ハーラル1世
青歯王     デンマーク王 ハーラル1世
捕鳥王     東フランク王 ハインリヒ1世
合羽王     フランス王 ユーグ・カペー
殉教王     イングランド王 エドワード
聖大公     キーウ大公 ウォロディーミル1世
征服王     イングランド王 ウィリアム1世
文人王     ハンガリー王 カールマーン
勇敢王     カスティーリャ王 アルフォンソ6世
戦士王     アラゴン王 アリフォンソ1世
修道士王    アラゴン王 レミーロ2世
赤髭帝     神聖ローマ皇帝 フリードリヒ1世
尊厳王     フランス王 フィリップ2世
獅子心王    イングランド王 リチャード1世
欠地王     イングランド王 ジョン1世
入植王     ポルトガル王 サンシュ1世
熊侯      ブランデンブルク侯 アルブレヒト1世
詩人王     ナバラ王 テオバルド1世
黒女伯     フランドル女伯 マルグリット2世
長脛王     イングランド王 エドワード1世
美男王     フランス王 フィリップ4世
フランスの雌狼 イングランド王妃 イザベラ
金袋大公    モスクワ大公 イヴァン1世
大口女伯    チロル女伯 マルガレーテ
残酷王     ポルトガル王 ペドロ1世
黒太子     イングランド王太子 エドワード
良王      フランス王 ジャン2世
悪王      ナバラ王 カルロス2世
賢王      フランス王 シャルル5世
狂王      フランス王 シャルル6世
勝利王     フランス王 シャルル7世
突進公     ブールゴーニュ公 シャルル
平和公     サヴォイア公 アメデオ8世
豪華王     ロレンツォ・デ・メディチ
ドラキュラ公  ワラキア公 ヴラド3世
航海王子    ポルトガル王子 エンリケ
不能王     カスティーリャ王 エンリケ4世
カトリック両王 カスティーリャ女王 イザベル1世&アラゴン王 フェランド2世
狂女王     スペイン女王 フワナ1世
血塗れ女王   イングランド女王 メアリー1世
処女王     イングランド女王 エリザベス1世
慎重王     スペイン王 フェリペ2世
待望王     ポルトガル王 セバスティアン1世
雷帝      ロシア皇帝 イヴァン4世
助平ジジイ   フランス王 アンリ4世
殉教王     イギリス王 チャールズ1世
太陽王     フランス王 ルイ14世
最愛王     フランス王 ルイ15世
解放皇帝    ブラジル皇帝 ペドロ1世
市民王     フランス王 ルイ・フィリップ 

著者紹介
1968年山形県鶴岡市生まれ。93年『ジャガーになった男』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。99年『王妃の離婚』で直木賞受賞、2014年『小説フランス革命』で毎日出版文化賞特別賞受賞、20年『ナポレオン』(全3巻)で司馬遼太郎賞受賞、23年『チャンバラ』で中央公論文芸賞受賞。著作は多数。』

・・・拾い読みした。
・・・有名な「ブラディ・メリー」は知っていましたよ。😉 

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