goo

うたのイラスト(「ソーラン渡り鳥」とこまどり姉妹)

 私の父母の世代の日本人庶民の心情というものは、徐々に忘れ去られているような気がしている。昔の歌を聴くと、特にそう感じる。

 こまどり姉妹と言えば、相当の年配となっても若いころと同じ振り袖姿で三味線を抱え歌う、不思議な双子の歌手といった印象を持つ人もいるかと思うが、彼女たちの歌った歌は、昭和の中頃、まだ貧しかった日本人たちの、人生における苦労を象徴的な形で歌ってその心を癒した、まさに「昭和の歌」だった。

 代表作「ソーラン渡り鳥」は、貧しく幼い姉妹が、東京に出て場末の酒場などで三味線を弾きながら歌って生きる姿を描いている。今とは比較にならないほど差別的言動の露骨だった昭和の時代に、そのような場所でうら若き乙女二人が、どれほど好奇の目にさらされ辛い目に遭うのかは想像を超える気がする。瞼の裏に浮かぶ故郷のハマナスの花を思い、江差の町を、鰊場(にしんば)を恋う姿、稀に巡り合う人の情けに涙して、今日も健気に唄を歌う姉妹の姿。その歌詞の姉妹と、こまどり姉妹の姿がオーバーラップし、庶民は戦後の苦しい時代の自らの苦労とも重ね合わせて涙を流したのであろう。

 これは私が幼い頃見ていた大人の姿にも重なるものだ。その心情が今は伝わりにくくなっているのである。時は残酷なものだ。せめて彼女たちの若き頃の姿とその歌声がYoutubeなどで見られるようになったのは喜ばしいことである。文学などが掬いきれなかった、こういう庶民の心情を記録した貴重な音声と映像であると思う。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )