大林宣彦監督が亡くなった。
私は若いころ、大林監督の「さびしんぼう」を見た時の感動を思い出す。
一番好きなシーンは、主人公の男の子(尾美としのり)が、商店街でふとしたきっかけで起きた大騒ぎの中、初恋の女子学生(富田靖子)がそこを自転車で通り過ぎるのに気付くシーンだ。
周囲の喧騒が突如消えて、突如清絶なきらめきのような姿が視界を横切る。
その場面展開の見事さ。その後に流れるショパンの「別れの曲」の切なさ。
恋する少年の心を通してしか見ることの出来ない、その一瞬の輝きを、大林監督は見事に描いて見せた。凄い監督だと思ったのである。
そのシーンを思い出して下手なイラストを描いた。似顔絵ではないので富田さんとは違うかもしれないが、大林監督のご冥福を祈りつつ捧げたいと思う。
ラフスケッチ。
絵は自分のために描いている。
意気阻喪した時にも、自分の絵で自分を励ましている。
絵そのものを冷評された時ですら、自分の絵で自分に慰めを与える。
他人の絵では駄目なのだ。自分の絵でないと。
そういう時に描く人の顔は、特別優しいものになる気がする。
仏像を彫ったりするのに似ているかもしれない。
だからきっと、描けるうちは描き続けるのだろうと思う。