原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

本証・反証・間接反証

2011-07-04 | 民訴法的内容
意外とあっさり流されている部分かな,と思うので,ちょっと書きます。

民事訴訟においては,いわゆる法律要件分類説に従って,当事者に証明責任が分配されます。その結果,当事者は自己の主張を認めてもらうために,特定のいくつかの事実について証明責任を負うことになります。その「特定のいくつかの事実」が何であるのかを勉強するのが,いわゆる要件事実論です。

証明責任を負う当事者がなすのが,本証です。相手方が争わなければ(擬制自白を含む自白が成立すれば)立証の必要はありませんが(主張だけでよい。主張がないのに認定するのは弁論主義違反),相手方が争ってきたならば,立証(本証)が必要になります。そして,この立証には,直接証拠によって直接的に認定させる方法と,間接事実からの推認を経て主要事実の存在を推認させる方法とがあります。

直接証拠の例としては,契約書です。売買契約書は,売買契約の存在を直接導きます。また,契約の立会人も直接証拠になります。立会人が証人として「原告と被告は売買契約をし,私はそれに立会いました」といえば,推認を経るまでもなく売買契約の存在が導けるからです。

間接事実は,多種多様に考えられます。例えば,売買があって代金を支払った場合の領収証の存在。領収証は直接証拠かな,とも思えますが,領収証が示すのはまさに「金銭が領収されたこと」であって,売買契約が直接に導けるわけではありません。とはいえ,領収証が存在すれば,それに対応する売買契約があったのだろうと推認されるので,これは強い間接事実となります。これよりも弱い間接事実としては,買主が当該売買契約の代金額に対応する金額のお金を銀行から引き出した事実なんかがあるでしょうか。だから売買契約があったのだ,ということは導けますが,領収証と比べると弱いでしょう。

証明責任を負う当事者がその立証に失敗すればそれまでですが(主要事実の存在は認められないわけですが),成功した場合には,相手方はそれをひっくり返さねばなりません。それが反証です。反証は,「ひっくり返す」までは必要なく,証明責任を負う者が主張する事実を真偽不明に追い込めばそれで足ります。これが,証明責任の分配の妙味なわけです。グレーならば真偽不明とすることによって,真偽不明(≒裁判不能)という事態を回避するわけです。

最後に,間接反証の話をするわけですが,これは,証明責任を負う者が間接事実からの推認による立証を試みた場合の話です。主要事実Aを立証するために,間接事実として,a,b,cの存在を証明した。結果,裁判官は,特にa事実が強い間接事実であって,主要事実の存在が肯定できるという心証に達した。こんな例で考えます。

この場合,相手方の対応としては,まずは,a事実の存在を真偽不明に追い込む反証活動をすることです。a事実の存在が真偽不明となり,b事実,c事実だけでは主要事実の存在を推認することができない,ということになれば反証成功です。

では,間接反証とは何かといえば,上の例でいうと,既に証明されたa,b,cの各事実はそのままにしておいて,当該間接事実と両立し,かつ,主要事実の存在を妨げる別個の間接事実dを立証することです。a,b,cの各事実に加えて,d事実も加味すると,主要事実の存在が真偽不明になる,という状況を作るわけです。

ここでのポイントは,d事実は完全に証明されなくてはならない,ということです。グレーではだめです。d事実の存在が不明では(確定できなくては),主要事実の存在を妨げなくてはならないのです。

通常の反証であれば,aという間接事実を真偽不明に追い込めばいいわけですが,間接反証の場面では,d事実を完全に立証せねばならない。このあたりが,間接反証として,別立てに論じられる理由なんですね。

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