原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

違法な剰余金の配当がされた場合の責任

2011-07-03 | 商法的内容
会社法の記事が1つもないので,会社法について書きます。

違法な剰余金配当,要は,分配可能額を超えて剰余金を配当してしまった場合の話です。

まず,剰余金の配当についての規制ですが,これは,いかなる趣旨か?「会社債権者保護」です。考えてみれば明らかなのですが,剰余金の配当によって株主は直接に利益を得るわけで,その反面において,債権者にとっては,回収の拠り所である会社財産が出ていくという事態を生ずるわけです。迷ったら,基本的にこの視点に立ち戻ると正解を導きやすくなります。

違法な剰余金の配当が行われた場合,関係者の責任については,債権者代位権的なイメージで考えていくとわりと理解しやすいかと思います。会社債権者が債権者,会社が債務者,株主が第三債務者,といったイメージです。同じ規律が妥当するといった意味ではなく,それぞれの立場のイメージです。

まず,株主は,自分が交付を受けた金銭等の「帳簿価額」に相当する金額を「会社に」対して支払う義務があります(462Ⅰ柱書)。(*争いはあるのですが)違法な剰余金の配当(決議)は無効であり,株主は不当利得返還義務を負うので,まずは返還してもらうのが筋なわけです(*違法な剰余金配当も有効であり,返還義務は方が定めた特別の義務と解する論理構成もある)。会社に利益を返還すれば,それで一応,債権者保護の趣旨は達成されるのですが,会社法はさらに強力な手段として,会社債権者が,株主に対して,直接自身に支払わせることを認めます(463Ⅱ)。会社債権者保護の趣旨が強く反映された制度です。

ただ,上場会社では,個々の株主に「返してもらう」というのは,現実的な方法ではありません。株主の数は多く,その1人あたりが受けた配当は数百円~数万円場合も多いでしょう。

そこで,①会社の業務執行者(462Ⅰ柱書),②議案を提案した取締役等(同項各号)にも責任を負わせます。これらの者は,株主と連帯して,違法に配当された剰余金の帳簿価額に相当する金銭の支払義務を負います。

もっとも,これら①②の者は,その職務を行うについて注意を怠らなかったこと(無過失)を証明すれば義務を免れます(462Ⅱ)。①②の者には,利得がないわけですから。本来,得るべきではない利益を得ている株主とは立場が違います。株主は,得るべきではない利益をしっかり返すべきで,過失の有無で責任が変わることは考えられません。そもそも,株主に過失も何も観念できませんから。「株主は,分配可能額を超える剰余金の配当を受けた時は返還義務を負うが,無過失を証明すればその義務を免れる」なんて肢に引っ掛かってはいけません。

さらに,①②の者は,行為時の「分配可能額」を限度として,総株主の同意によって責任を免除されることがあります(462Ⅲ)。責任が免除されうるのは,「分配可能額」までです。なぜなら,剰余金の配当規制の趣旨は,会社債権者保護だからです。分配可能額までは分配されるべき(分配してよい)ものなので,この部分については,債権者を保護する必要はないのですね。

そして,①②の者が支払義務を履行すれば,株主に対して,求償をすることができます。利益(配当)の返還義務を負うのは株主ですので。ただ,求償がされる株主は,違法な剰余金配当であったことにつき,悪意であった株主に限られます(463Ⅰ)。会社(それは,要するに①②の者)が配当しておいて,善意の株主にまで返還を求めるというのはさすがに,ということなのでしょう。

ここらあたりが,違法な剰余金配当の固有の規律・責任になるのですが,もちろん,423や429で責任を追及していくことも可能です。違法な計算書類について無限定適正意見を述べた会計監査報告を提出した会計監査人の責任追及なんかはこれで行くわけです。

以上のように,あくまで債権者保護のための制度,一時的に利益(配当)の返還義務を負うのは株主,といったあたりがポイントになります。

<参考文献>

「リーガルクエスト会社法<初版>」(有斐閣)267頁以下

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