原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

経済的自由について~平成18年・公法・第1問ヒアリングなどを参考に

2011-02-24 | 憲法的内容
今日は,久しぶりに裁判所で傍聴をしてきました。公判部の事件で,証拠分けをし,冒頭陳述の検討をした事件の公判期日だったものですから。刑事裁判修習中の修習生は,法廷の奥の方(書記官の脇)にパイプ椅子を置いて傍聴するのですが,今日は検察修習中の修習生ということで,検察官の席で傍聴(傍聴人に検察官と勘違いされ,「検事さん」と声を掛けられました:笑)。弁護人・被告人と対面するので,結構な緊張感があります。

さて,表題の話を。経済的自由の問題,まだ真正面からは問われていないですね。そういう事情があって,ここ数年,毎年「ヤマだ」と言われ続けているテーマです。まぁ,「ヤマ」と言われているテーマほどなかなか出題されないものなのですが,受験生としては絶対に準備が必要なテーマであることには間違いないので,少し。

平成18年(第1回司法試験)・公法・第1問の問題(タバコのパッケージへの警告表示の問題)をまず少し引用。

<製造たばこの警告表示に関する法律>

第1条 この法律は,…(略)…,①たばこによる疾病及び死亡を低減し,受動喫煙がもたらす害を排除若しくは減少し,②未成年者の喫煙を防止し,並びに③喫煙によって生じる社会的費用を抑制することを目的とする。

注:①~③は,私が付けました。

平成18年の問題では,営業の自由につき,規制目的を考察させる意図はなかった(明示的ではないが,誘導で検討除外すべきと示されている)のですが,今日は少しこれで考えてみたいと思います。

まず,経済的自由(営業の自由)といえば,受験生的には規制目的二分論を発想すると思います。そして,規制目的二分論が,単純に適用できないことは,今日的には前提として良いでしょう。「消極目的だから厳格に,積極目的だから緩やかに」と抽象的に展開するだけの答案は,試験委員が最も嫌う問題です。

そもそも,法1条をよく考えてみると,目的は「複眼的」です。①たばこによる疾病及び死亡を低減し,受動喫煙がもたらす害を排除若しくは減少し,という部分は「消極目的」,②未成年者の喫煙を防止し,というのは「パターナリスティックな制約」,③喫煙によって生じる社会的費用を抑制すること,というのは「積極目的」と読めるでしょうか。

要は,社会が複雑化した今日において,法令が一義的な目的を明確に定める,というのは稀なのだと思います。様々な目的・利益を実現しようとする法令が多いはず。だから,仮に司法試験で出題されるとなれば,一義的な目的の規制ではなく,複眼的な目的の規制になります。そして,ヒアリングは以下のように述べます。

「問題となった法律の立法目的は複眼的目的であることを依頼者も認めているにもかかわらず,また,目的の問題性は問わないと述べているにもかかわらず,単純に消極目的・積極目的二分論で書く傾向が見られた。具体的判断に関しても,手段の合憲性を論じる際に関係する資料を出していたが,それらが十分に活かされていない印象がある」

公式資料が,「複眼的目的」と表現している点,注目してください。出題者はそういう視点を持っている,ということです。

では,どうしたらいいのか。単純な二分論が通用しないのはあまり多言する必要はないかと思いますが,さりとて筋の通る理屈ですので,二分論の考え方を参考にしつつ論ずる,というのが最も穏当な判断方法であると思います。

しかし,だからといって,複眼的目的が定められているにもかかわらず,原告からは自己に有利な部分のみを抜き出して消極目的→厳格,被告はこれまた自己に有利な部分のみに着目し「積極→緩やか」,裁判所は両方あることを認めて中間的な審査,というのはいけません。あまりにも短絡的です。そういった「自己に有利な部分のみ着目,不利な部分は無視」の姿勢は,過去の出題趣旨等で警告されています。

そこで,一つの考え方として提案したいのが,「目的のウエイトを考える」とでもいいましょうか,例えば,本試験ならば国会でのやりとりなどの資料が付くでしょうから,そうした資料から「真の目的」を考察することです。色々な目的があるなかで,原告からは「消極:積極=8:2」と捉えられるからやっぱり厳しく審査するべきだ,被告からは「消極:積極=5:5」くらいだろうから原告が言うよりは緩やかに判断すべきだ,二分論の考え方に乗って「はずさない」答案を書くなら,この程度まで具体的に目的を考察していく姿勢を示していく必要があるでしょう。これなら,「規制目的は相対的であって…」という二分論への批判をクリアすることになり,評価に値すると思われます。

また,自己決定権の問題にも引き付けて検討する,という着眼点も有益であると思われます。高橋「立憲主義と日本国憲法<第2版>」(有斐閣)229頁には,居住移転の自由,職業選択の自由,財産権につき,「確かに歴史的には経済的自由としての性格が中心であったが,今日ではむしろ自己決定権的な性格を強めており」という記述があります。確かにそうなんですよね。これは,営業の自由にも妥当する話で,どういう営業活動を展開していくか,平成18年の問題でいうなら,タバコのパッケージをどういういデザインにするか,自社の製品であるタバコの有害性をどのように伝えていくかは,タバコ会社の自己決定権の範疇とも言えなくない。他方で,被告(国)からすれば,タバコの有害性の警告は国の責務であってタバコ会社の自由に委ねられるものではない,という言い方ができるでしょう。

この辺まで考察できると,評価は上がるかな,と思います。いずれにせよ,単純な二分論のレベルで思考が停止してしまっては沈んでしまうのは確実で,それを回避してプラスαの評価を得るために,①「目的のウエイトの考察(目的の具体的探求)」,②「自己決定権的要素の考察」は頭のどこかに置いておくとよいと思います。

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