原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

話題の例の件について

2012-01-21 | 憲法的内容
久しぶりの更新になってしまい。申し訳ありません。体調を崩していたり,講義があったり,例の採点実感の分析等があったりと,立て込んでいました。まだ立て込みの最中で,コメントへの返信が遅くなっております点,ご容赦ください。

まず,お知らせです。

本日(21日)の「スタ短・第2クール・民事1」の解説講義を,私が担当させていただきます。有意義な120分にしますので,どうぞよろしくお願い致します。

また,26日(木)の17:00より,現役の受験生のための「残り3カ月学習アドバイス」ガイダンスを行います。

加えて,直前の追い込み講座を2講座開講する運びになりそうです。一つは,「趣旨・規範ハンドブック」を使って7科目全体を総合的に補完する講座,もう一つは短答対策で,マイナー分野や実務的理解が要求される問題を正解できるようにしてプラス20点を目指す講座です。詳細は,追ってお知らせします。

さて,例の件です。「原告の主張で違憲審査基準を展開する答案があった」の件です。

これにつきまして,辰巳の見解が出ておりますので,こちらをご覧ください。

その中に書いてある,専任講師(弁護士)の合同会議に私も参加しまして,複数の憲法学者の先生の御意見に触れ,また,私自身も意見を述べて参りました。その集約が見解として発表されているものであり,また,西口先生がストリーミングで説明されていることに私も同意見であります。

以下,私なりの視点を加えて,ちょっと補充します。

採点実感で「違憲審査基準の実際の機能」と述べられている点ですが,確かに,訴状で違憲審査基準を展開するかというと,そうではないでしょう。「汝,事実を語れ,されば,我,法を語らん」ではありませんが,原告としては,訴状では,権利制限根拠の不合理性なり,それ自体は合理的であっても権利制限根拠と法の採用する権利制限の仕組みの実質的関連性の不存在を,具体的事実を基に指摘していきます。被告は,答弁書以下でそれに対して反論するわけですね。権利制限根拠は合理的だし,関連性もある,と。その上で,裁判所が,じゃあどうやって判断しようか,という時に違憲審査基準が出てくるわけです。その意味では,「実際の機能」として,原告が定立すべきかというと,必ずしもそうではないわけです。

ただ,実務上の攻撃防御の世界と,法律答案・法律論文は違うわけで,原告から「フルスケールで書け」と言うならば,原告としても何らかの判断(評価)基準を設定することは必要なわけです。そうでないと,単なる事実の羅列になりかねない。

だとすると,今回の例の言及は,どのように捉えればいいか。西口先生も説明されているように,「原告で違憲審査基準を書いてはいかん」という安直な捉え方は誤りであると思います。文脈を無視して,そんなに単純に読むべきものではない。私は,例の指摘の真意は,後に紹介することにあると思います。その前提として,例の部分以外の採点実感の指摘事項を紹介します。

「3 憲法上の権利の制約」

・実質的な,本件での表現の自由とプライバシーの権利の相克を書かない薄い答案も目立った。

・情報提供の自由とプライバシーの権利との調整について,…綿密に論じる答案もあった。

「8 合憲性の検討」

・表現の自由とプライバシーとの実体的な関係について論じないで,審査密度の濃淡だけで優劣を論じているものがあった。

・目的手段審査にとらわれず,両者の人権価値が本問においてどのように衝突しているのかを具体的に分析し,解決を見い出そうとする優れた答案も少なからずあった。

このあたりの書き方との関連で考えると,例の部分は,次のように読むべきであると思います。

本件は,表現の自由とプライバシーの衝突の場面である。憲法上,重要な価値が拮抗している場面である。公共の福祉によって,1つの権利・自由が制限されている場面ではないのである。だから,本来は目的手段審査よりも,(等価値的な)利益較量を行って,仔細な調整のもと結論を導くべきであるのに,そういう視点を持たずに,安直な目的手段審査をした答案が多かった。本件の利益状況を考えれば,原告が目的手段審査としての違憲審査基準を提示すべき場合では凡そないはずなのに,原告からそれをする答案が実に多かった(ことに試験委員は辟易したのでしょう)。

これを,一言で表現してしまえば,例のフレーズになります。私は,これが真意ではなかろうかと思います。例によって,異なるご意見があるのは承知で,私の考え方を出しましたので,そういうものだと思って読んでください。ネット検索なんかで引っかからないように,タイトルを工夫しました(笑)

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (Unknown)
2012-01-21 13:26:24
先生!ブログが更新されるのを楽しみにしていたので、とても嬉しいです。でも、体調を崩されたとのこと、お大事にしてください。
講座は参加させていただくつもりです。
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Unknown (UNknown)
2012-01-21 16:51:24
いつもお世話になっています。
体調大丈夫ですか?
来週から寒くなるそうなのでお気を付け下さい。

さて、とある予備校の先生が、憲法の講義で違憲審査基準を導く際には①権利の重要性と②侵害態様だけを考慮して、反対利益は考慮すべきではないというようなことをおっしゃていました。
しかし、上記の原先生の指摘にもあるように、23年の問題ではまさに反対利益がプライバシーであることが重要な意味をもっているように思います。

そこで、違憲審査基準を定立する際に反対利益を考慮してはダメなのでしょうか?
先生のご意見を教えていただけると幸いです。
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お大事にどうぞ (匿名@横浜)
2012-01-22 02:05:34
検討の際にあがったと思われますが・・・木村草太先生のブログでも同じようなことが述べられていたし、すっきりいたしました。いわく、先生すら悩ます問題が多いみたいで、長々と解説されています。

今年、憲法がきわめて優秀な人2人がブログを書いていて、似たようなことを言っています。ただ、芦辺教科書には、表現とプライバシーが衝突したら比較考量って書いてあったから、私見で比較考量にしたと生々しいことを言っています。その方は経済的自由権と表現の自由で悩んだといっております。

では、どういう場合に比較考量の視点をもつべきなのか?「憲法上,重要な価値が拮抗している場面」というのはほとんどの事例ではないのか?H20年で違憲審査基準を熱く語ったヒアリングがありますが、あの事例も青少年保護・健全育成というきわめて重要な価値が拮抗しているのではないのか?そもそも、違憲審査基準自体が比較考量の視点を定式化したものではないのか?

疑問はいまだにつきません・・・
他の科目もありますので、疑問は疑問でおいておくしかありませんが・・・






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Unknown (はら)
2012-01-28 22:58:29
>とある予備校の先生が、憲法の講義で違憲審査基準を導く際には①権利の重要性と②侵害態様だけを考慮して、反対利益は考慮すべきではないというようなことをおっしゃていました。
>そこで、違憲審査基準を定立する際に反対利益を考慮してはダメなのでしょうか?

基準として,利益較量論などを採用するなら,当然ながら反対利益の重要性を強調する必要があります。公共の福祉を制約原理として例えば目的手段審査をする場合,公共の福祉を通説と言われる一元的内在制約説に立つならば,論理的には,制約される権利の制約に着目して基準を導きます。その意味では,その先生のおっしゃる通り,反対利益は基準設定の際には考慮しないことになります。

匿名@横浜さん

木村先生のブログは,私も拝読いたしました。私が言うのもおこがましいのですが,先生の概ね先生のおっしゃる通りであると思います。巷では,採点実感を曲解する意見もあるようですが,現実的に試験を見据えた場合,得策ではありません。芦部憲法学は,今の憲法学のベースであって,試験委員の先生方も,芦部憲法学を学んで来られたはずです。それを真っ向から否定するような論調は,少なくとも公的な試験においては受け入れられないはずです。その意味で,ブログを書かれている2人の方の態度は,正しいものであると思います。「違憲審査基準自体が比較考量の視点を定式化したものではないのか?」という点,その通りです。問題は,どういう利益状況であれば,既存の定式化ができるか,ということです。出題趣旨等に散々書かれているように,引きつけて考えるべき判例は何か,ということは事案解決にあたってはやはり重要なのだろうと思います。

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