原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

【平成22年本試験】採点実感公表

2011-02-21 | 新司法試験制度・情報など
検察修習4週目。今日は,公判部の事件検討。証拠分け(数ある証拠の中から,公判に提出するものとそうでないものを分け,さらに甲号証と乙号証に分類する。証拠の順序も整理する),冒頭陳述要旨の作成,など。実に骨の折れる作業です。

さて,ついに出ました,採点実感。今年は遅かったですね(その理由はわかりません)。まだ,公法系を斜め読みしただけですが,憲法の部分を中心に,気付いた点を少し。平成22年は,生存権・選挙権が問題となる,受験生としては論じにくい問題でした。

・裁量を論ずる場合は,抽象的に裁量があるとするだけでは不十分であり,なぜ,どこに,どれだけの裁量が認められるのか,事案に即して具体的に検討する必要がある。

・比例原則による判断も,何と何を比較対照させるのか,事案に即して具体的に検討する必要がある。

・試験用六法に掲載されている法令については,自ら検索する必要がある。問題に引用・掲載されている条文だけで足りるとは言えない(ただ,平成22年の場合,全くゼロから条文を検索させるのではなく,問題文にて条数は指摘されていた)。

・法令違憲と適用違憲があるうるという点は,全体的にずいぶん意識できるようになってきた。ただ,法令違憲を論じるべきではない場面で論じるなど,なお理解が不十分な点も見られる。

・「生活保護法の適用を問題とする答案の中にも,『最低生活の認定』についての裁量を問題にするものが多かった」

(コメント)
どのレベルの生活が「最低限度」かどうかは,時勢に即して客観的な判断が可能なものであり,この点は裁量事項とは言えないはず。裁量事項かどうかは,問題となる行為等の性質をよく吟味せねばならず,裁量論の濫用的使用はいけない。

・「法科大学院では,審査基準(三段階審査とか比例原則という言葉)の定型的・観念的使用を戒めるとともに…」

(コメント)
特に,「三段階審査」について注目したい。公式資料で「三段階審査」が言及されるのは初めてである。無論,これは小山教授の「『憲法上の権利』の作法」が受験生に浸透したことを受けてのものである。答練の採点・添削をしていても,「保護領域」などの項目を作って,いわゆる三段階審査に乗せて(?)検討している答案が一定数見られたが,よく考えてほしい。私見であるが,こと司法試験において,三段階審査論を持ち出すのは不適切である。司法試験は,我が国の実務家登用試験であるのだから,我が国の実務で採用される考え方・判断方法を示す必要がある。三段階審査は,ドイツ(等)で採用される考え方ではあっても,我が国の判例・実務が依って立つものではない。それゆえ,司法試験においては,三段階審査での判断・論述は不適切である。無論,「『憲法上の権利』の作法」に示される観点が秀逸であり,大いに学ぶべき点がある点は否定しない。しかし,その観点は,我が国の違憲審査の方法の中で,例えば,違憲審査基準を導く論述の中で「なぜ厳格な審査が必要なのか」といった文脈で活かされるべきものである。

・答案の形式面への言及も多い。特に,①判読不能な文字(これは行政法の採点実感において「閉口」という強い表現で警告されている),②文章作成能力,の点である。限られた時間の中で,文章表現にまで注意を払うのは難しいが,あくまでも,書面審査であることを忘れてはいけない。これまで,試験委員がかなり善解してくれていたためか,文字の判読不能のために「採点不能」とされた答案はないように思う(そのような話は聞いたことがない)が,これだけのメッセージが発せられたことからすると,今後はありうるのではないかと思う。文章表現力(要するに,「何を言っているのかわからない」記述も多く見られた旨,述べられている)についても,大きく減点することがあるかもしれない。「文章作成能力は法曹としての基本的な素養」というのは,これまで出題趣旨・採点実感等で繰り返し述べられてきたことである。

ぱっと見た,所見の段階で思ったところはこんなところでしょうか。形式面の点については,「そこまで言うなら,今年の受験生が対応可能な時期,もっと早い時期に言ってくれ」とも思いました。今年(平成23年)受験する方が,これから文章作成能力を云々するのは適切ではないでしょう。試験直前期にやるべきことかは,疑問です。しかし,来年(平成24年)以降に受験する方は,早いうちからトレーニングをするべきです。こう言ってしまうと失礼なのですが,答練の採点をしていても,確かに,他人に読んでもらう文章とは言えない水準のものが散見されました。「では,どうすればわかりやすい文章が書けるのか」と思う方は,「新司論文・文章力改善合格法」を聴いてみてください。合格者講義のため講師名が出ていませんが,私が平成21年秋に実施したものです。大学受験予備校で小論文の講師をやって,司法試験をやって,という経験を踏まえての,「司法試験版・文章の書き方講座」となっています。わかりやすい文章にするためのポイントを,実例(≒悪文)を用いながら紹介しています。科目別の答案構成のポイントもお話しております。

採点実感,当然ながら,目を通してください!

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3 コメント

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Unknown (はら)
2011-02-22 20:41:53
長くなるので,記事にしました~。そちらをご覧ください。
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Unknown (はら)
2011-02-22 08:56:41
ロー生さん

当然、その指摘が出てくると思い、お待ちしておりました!夕方以降、回答します。

ちなみに、私が合格したのは、平成21年(第4回)ですので、一つ前の試験です(憲法は遺伝子研究の問題)。その時の点数は、120点弱でした。
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Unknown (ロー生)
2011-02-22 01:35:41
今年の公法系1位の実況の講座を聞いた者です。
その方は三段階審査で書かれてましたし、すすめられてもいました。
先生とは見解を異にするようですが、どちらが正しいですか?
一応その講座の講師は、先生と同じ年度に司法試験を受験して、全受験者のうち最も公法の答案が優れているとされたようですが。。。
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