原孝至の法学徒然草

司法試験予備校講師(弁護士)のブログです。

短答肢の考え方

2011-02-20 | 勉強法全般
短答,特に過去問(本試験)を解いていると,時に「ん??」と立ち止まってしまう問題に出くわします。極めて本質的なことが問われたり,あまりにも常識的すぎる問いだったりと,「ん??」の要因は様々ですが,今日はその時の考え方について。次のような肢があったとします。

<肢>

権利の発生根拠は法律であり,契約の拘束力の根拠も法律であるから,権利は当事者の合意に基づいて発生すると考えることはできない。

どうでしょう??肢として書いたのは,権利の発生根拠に関する法規説(前者)と合意説(後者)です。

この点につき,我妻教授は「法律の規定なしに法律効果が生ずるという自然法原理のようなものを認めることはできない」として,合意説を否定する立場を述べます(我妻「新訂 民法総則」(岩波書店)242頁)。

とすると,肢は「○」なのでしょうか?

結論からいうと,「○とまではいえない」が正解であるといえます。「法律の規定なしに法律効果が生ずるという自然法原理のようなものを認めることはできない」というのはごもっともで,制定法が存在する我が国において,そのように考える「べき」です。しかし,この「べき」こそがポイントで,要するに,「法律の規定なしに法律効果が生ずるという自然法原理のようなものを認めることはできない」というのは,「価値判断」として「○(妥当である)」にすぎないのです。論理必然的に○(正しい)というものではありません。

仮に,民法典に,「私権はこの法律によってのみ発生する」なんていう条文があれば,これは制定法上明らかに「○」です。

この,「(条文上)論理必然的に○である」のか,「価値判断として○にすぎない」のか,短答の問題にあたる時には,しっかりと区別をしなくてはいけません。「スタ短特訓」だったと思うのですが,

短答肢は「○」か「×」かのどらかという硬直的なイメージを持つのではなく,「○(明らかに正しい」「△」「×(明らかに誤り)」の3類型で捉えるべし

というようなことを述べたと思います。これは,今日話していることも含む意味です。

「価値判断として○」というのは,扱いがやっかいです。「明らかに誤っているか」と言われるとそうではないし,「もっとも適当か」と言われると,他との比較において結論が異なる(他にもっと適切なものがあればそれが正解になるし,他にもっと適切なものがなければこれが正解になりうる,というのが純論理的な帰結でしょう)。

短答の肢は3類型で捉えると,迷った問題で正解しやすくなるので,参考にしてみてください!

<参考文献>

「要件事実論30講<第2版>」(弘文堂)93頁以下

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4 コメント

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択一について (ユエ)
2011-02-22 14:49:19
こんにちは。
初めてコメントさせていただきます。
原先生の、スタ短特訓を受講していた者です。

修了2年目の今の段階になっても、択一の点数が伸び悩み、とても焦っています。

壊滅的なのです。

肢別本を解いているときは、そんなにひどい間違いをしたりはしなのですが、
試験形式で、5択、4択になってくいると、本当にダメです。
カンで解いたほうが、いい点が取れるのではないか、と思う程ひどいです。

択一の勉強の仕方は、人それぞれといいますが、どうしたものか、今本当に悩んでいます。

今、択一の点が安定するまで、択一オンリーで勉強するかどうか…。
論文の勉強との兼ね合い等、アドバイスがあれば、よろしくお願いします。
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Unknown (はら)
2011-02-22 20:40:09
ユエさん,ご相談の点,私が思うところを述べます。個別の肢なら,しかし問題形式になると…,という状況とのことですが,だとすると,以下のような要因があるのではないかと思います。

①知識が断片的である(肢別形式の知識が入っている)。それゆえ,問われたことがあれば対応できるが,そうではない部分に対応できない。肢別ばかりで勉強していないでしょうか?肢別で知識を確認するのは大事ですが,必要十分ではありません。条文の素読をして「法の体系」を理解し,知識に穴がないようにせねばなりません。また,未知の問題に遭遇した時に,制度の趣旨に遡って考える癖をつけなくてはいけません。

②断片的ではなく万遍なく勉強しているものの,全体的に不十分な知識が多い。知識レベルには,長期記憶として絶対に忘れない知識(○),あやふやな知識(△),知らない(×)の三段階があります。△が多い場合,迷った時に切りきれず,点数が伸びない原因となります。答練や肢別本で△を「あぶり出す」作業をして,それを○に変えていく作業をしてください。それでぐっと点数は上がるはずです。

③分野(単元)によって得手・不得手の差が激しい。個別の肢ならば,例えば,債権者代理権なら債権者代理権の点のみが問題になりますが,問題形式になると,その他の分野(単元)の知識もないと解けない,という問題は多いものです。ですから,分野(単元)ごとに得手・不得手の差が激しいと,実力以下の点数しか出ません。この対処法は簡単で,苦手と思われる分野(単元)を潰すことです。

③テクニカルな問題として,まさにこの記事で書いたように問題の捉え方に問題がある。

心当たりはありませんか?あれば,それに応じた対処をすべきと思います。

これからの勉強のバランスですが,短答と論文をあまりにも区別して捉えない方が良いでしょう。スタ短特訓でやりましたように,論文を意識しながら短答の勉強をしていくのが最も効率的です。ただ,合格のためには,やはり,一定程度,答案を書いていくことをせねばなりません。最低でも,2日に1問(2時間)は書きたいところです。そして,それ以外は,短答に重きを置く,ご相談の状況であればこんな勉強が良いのではないかと思います。合格者の話を聞いてみると,かなり多くの方が,直前期も含めて短答を重視した勉強をしていたようです。

まだまだ点数は伸びる時期です。頑張って!
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Unknown (ユエ)
2011-02-22 22:44:14
親身なアドバイス、ありがとうございます。
言われてみれば、②、③の点、思いあたる節が大いにあります。

やはり確実かつ幅広い知識が求められていますね。
先生のアドバイスを、これからの勉強に生かしていきたいと思います。

論文の勉強も手薄になりがちですが、
しっかり書いていきたいと思います。

本当にありがとうございました。
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Unknown (はら)
2011-02-24 18:24:49
参考になったなら,幸いです。

頑張ってください!
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