コンスタンチヌス帝はどうしてカトリック教団だけを公認したのでしょうか。
教団の公式見解は「神が働いたから」です。
だがそれはあまりに宗教的な見解でして、ここではもう少し経験科学的で現世的な要因を
考えておかねばなりません。
そしてそのためには前段階としてまず、国家も含めて社会集団というのは
強い自己保存本能をもっていることを知ることが必要です。
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前の章で筆者は、人間が群れて社会を構成する主動機は安全と食の確保だといいました。
既成の社会集団はその欲求充足を一定レベル達成した集団です。
そしてその社会システムを一旦確立すると集団は、
これを維持しようという自己保存欲求を予想外に強大にもつようになります。
哲学者ベルグソンはそのことについて、とても意味深い認識を提供しています。
彼は「人間と社会」の本質的な関係を学究生活の最後のテーマとして問い、
絶筆本『道徳と宗教の二源泉』にそれを書き残しました。
その要旨を筆者流に示しますとこうなります。
~人間社会には様々な取り決め、秩序、ルールが存在する。
それが故に社会は人間に特有な知性活動を基盤にして動いているように見える。
だが事実はそうではない。秩序ある社会は、動物も形成している。
蟻をみよ。
彼らは自分たちの住居である穴の中に食物を蓄積すべく、
ラインを形成して連携しながら獲物を整然と運搬し、貯蔵している。
人間が運搬ラインを手で遮ると全員が一斉にその手に上って噛みつく。
ミツバチもそうだ。巣を作るにも、食料を蓄積するにも、子供を増やすにも、
あらかじめ定まった秩序に沿っておこなっている。
外敵を偵察するにも、それに立ち向かうにも整然と機能分担し連携して行動している。
人間の社会保存行動もそれと同列なものだ。
動物と同列な心理に発しているのであって、知的というよりむしろ動物的本能の一つなのだ
~と彼は言います。
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これは的確な洞察だと筆者は思います。
後に欲求五段階説で有名になるマズローという心理学者は、
人の欲求を低次から高次に向かって五つあげています。
生理的欲求、安全欲求、愛の欲求、尊敬欲求、自己実現欲求がそれです。
そしてはじめの二つが動物と同列な肉体発の欲求で、後の三つは精神的欲求だとみています。
これに照らし合わせますと、人間の社会保存欲求は精神的欲求のようなそんなに高次な欲求でなく、
むしろ低次の肉体発的な欲求なのだとベルグソンは洞察していることになります。
どうもこれは正しそうです。
その証拠に人間集団は現システムを不安定化する動きがでると
ほとんど理屈抜きで反射的に激しく押さえ込もうとします。
「ここで改革しておけばひととき不安定になっても次にはもっと社会は安定化するよ」といっても
そんな知的な論理は許容しません。
改革の間に生じるちょっとした不安定化にも反射的に抵抗する。
ひたすら安定化をすすめることだけしか知らない観です。
社会保全意識が動物的本能の一つであるが故でしょう。
私たちが住む現代社会も同じです。
よく言われるところの「社会の保守性・現状維持欲求」はかくのごとくに
非理知的で根深いものなのです。
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