【享吾視点】
二人で一緒にドアを開け、
「ただいまー」
「ただいま」
誰もいない部屋に向かって声をかけた。そして、見つめ合い、微笑み合い、どちらからともなく軽く唇を合わせる。
「おかえり」
「おかえり」
コツンとオデコを合わせる。
ああ……これからは、ここがオレ達の帰る家になるんだ。
初めての新居での夜。終電で帰ってきたので、相当に遅い時間になってはいたけれど、もったいなくてすぐ寝る気にはなれない。
「風呂、一緒に入ろーぜ?」
と、いう哲成の誘いに乗って、初めて風呂に一緒に入った。哲成のマンションはユニットバスだったので、一緒に入ることはなかったのだ。
「体洗ってやるー」
「じゃあ、オレも」
なんてお互いの体の洗い合いを始めたら、当然、そのまま扱き合いに突入して……
「あー!もー!」
ほぼ同時に達した数秒後、哲成がいきなり怒りだした。
「そんなつもりで一緒に入ろうって言ったんじゃないのに!」
口を尖らせてる哲成が可愛くて笑ってしまう。
「そんなつもりじゃなかったら、どんなつもりだよ」
お前から仕掛けたくせに、と言ってやると、哲成は口を尖らせたまま、こっちにシャワーをかけてきた。
「…………色々話そうと思ってたんだよっ」
「話?」
泡を流し合ってから、狭い湯船に向かい合って一緒に入る。
と、哲成が表情を改めた。
「……歌子さんから聞いた」
「何を?」
「歌子さんの、その……」
「ああ……」
言いにくそうに水面をパシャパシャするので、おそらく歌子の性的指向の話だろうと察する。
「大きな愛ってそういう意味だったんだな」
「まあ…………うん」
「でも……正直、よく分かんねえ」
哲成は、うーん、と言いながら、首を傾げた。
「本当に、お前のこと何とも思ってねえの? お前、本当に出ていって大丈夫だったのか?」
「大丈夫……というか」
恋愛感情はないけれど、友情とか家族愛とかはある。だから、オレが家を出ていくことは、正直寂しい、とは言っていた。でも、夫婦生活がないことに対する負い目から解放されてホッとしている、とも言っていた。……なんてことは哲成には言いたくないので、言えることだけ、言う。
「『娘を嫁にやる気分』とは言ってた」
「娘? お前、娘なのか?」
あはは、と哲成は笑って……、ふっと、何か思い出したように真顔になった。
「あの……それもちゃんと話したいと思ってた」
「それ?」
って、何?
聞くと、哲成は言いにくそうに口ごもってから、オレの手を掴んで、思いきったように、言った。
「オレ達、このままでいいのか?」
「このまま?」
って、何?
と、さっきと同じように聞いてしまう。でも、本当に分からない。こうして一緒に住めるようになること以上に、何かあるのか?
聞くと、哲成は、むー……という顔をして、むーむーむーと言い続けて……それから、「あのな」と、口調を改めた。
「オレ達…………凹凸の凸同士だろ?」
「…………ああ」
凹凸の凸。そういえは大学の時、そんなこと言ってたな……
「でも、本来は凹凸の凹じゃないところを代用して、凸をはめる手段があることは……知ってるか?」
「…………」
哲成……大学の時は知らなかったのに、いつの間に知ったんだ?調べたのか?……という問いは止めておく。哲成は真剣そのものだ。
「知ってるけど……」
何とかコクリとうなずくと、哲成が掴んでいる手に力を込めてきて、言った。
「知ってるなら、なんで進まない?」
「………っ」
進むって……!
ジッと見つめられ、さっき抜いたばかりだというのに、体の中心が疼いてしまう。
それは…………
「…………進んで、いいのか?」
自分の乾いた声が風呂の中に響く。哲成がそんなことを考えていたなんて……
掴まれていた手を掴み返して、問いかける。
「哲成……お前にそのつもりがあるならオレ……」
「…………」
「…………」
「…………」
見つめ返してくれる沈黙を肯定ととって、頬に手を添えて、そっと………
と、思いきや、
「そのつもりって、どのつもりだ?」
「え」
哲成のクルクルした瞳が不思議そうにこちらを見ている。
「やっぱオレが『娘』?」
「……っ」
う、と詰まってしまう。そうだよな……決めつけるのはマズイよな……
「いや、それは……」
「やっぱ、それって、オレが背低いから?」
「いや、その……」
「やっぱ、そうなるのかなあ……」
「…………」
「…………」
う………
今までこの件から目を避けてきたのは、これ以上望むことなんてない。と思っていたからだ。
実際、哲成と素肌を合わせるようになってから、薬を飲む回数が激減していた。このままいけば、薬を卒業できるかもしれない。
このまま、気持ちの良いことだけでいい。未知の部分に触れて、せっかくのこの癒しがなくなってしまうのは嫌だ。
……と、思いつつも、でも、いつかは……と心のどこかで思っている自分もいて……
答えられず、ただ見つめ返すと、哲成の真剣な瞳とぶつかった。
「キョウ……お前、やっぱり……したい?」
「それは……」
「なんか……痛そうだよな……」
「…………」
「それは……」
「なんか……痛そうだよな……」
「…………」
「…………」
「…………」
再び訪れる沈黙……
再び訪れる沈黙……
何て答えるのが正解だ? 何て……何て……
と、哲成がふっと笑った。
「そんなのわかんねーか」
「…………」
と、哲成がふっと笑った。
「そんなのわかんねーか」
「…………」
「だよなっ」
オレから手を離し、パシャパシャと、水面を叩きだした哲成。緊迫した雰囲気が消えて少しホッとする。
哲成は水面を叩きながら、「なーなー」と、首を傾げた。
「渋谷達ってさあ、やっぱり渋谷が『娘』なのかなあ? 背低いし」
「……どうだろうな」
「でも、桜井が家事全般してて、奥さんって感じだったし、元々、渋谷は凶暴だし、桜井は大人しい感じだし、桜井が『娘』なのかな」
「渋谷達ってさあ、やっぱり渋谷が『娘』なのかなあ? 背低いし」
「……どうだろうな」
「でも、桜井が家事全般してて、奥さんって感じだったし、元々、渋谷は凶暴だし、桜井は大人しい感じだし、桜井が『娘』なのかな」
「うーん……」
それは……どうなんだろう。全然分からないし、正直、中学からの友人のそんなこと、想像したくない……
と思っていたら、突然「決めた!」と、哲成が叫んだ。
「よし。明日、渋谷達に聞いてみよう」
「え」
「よし。聞いてみよう聞いてみよう」
「それは……」
そんなこと、教えてくれるのか? と言うと、哲成は二ッと笑った。
「飲ませて吐かせる。渋谷って酔っぱらうとわりとペラペラ喋るぞ?」
「よし。明日、渋谷達に聞いてみよう」
「え」
「よし。聞いてみよう聞いてみよう」
「それは……」
そんなこと、教えてくれるのか? と言うと、哲成は二ッと笑った。
「飲ませて吐かせる。渋谷って酔っぱらうとわりとペラペラ喋るぞ?」
「…………」
哲成と渋谷は小学生の時からの友人だ。その絆の深さにちょっと嫉妬してしまう。オレにはそんな友人は一人もいない。オレには、哲成しか、いない。
「……哲成」
「なんだ?」
きょとん、とした哲成の頬にそっと口づける。
哲成と渋谷は小学生の時からの友人だ。その絆の深さにちょっと嫉妬してしまう。オレにはそんな友人は一人もいない。オレには、哲成しか、いない。
「……哲成」
「なんだ?」
きょとん、とした哲成の頬にそっと口づける。
「哲成…………好きだよ」
「? おお」
額に口づける。瞳に口づける。それから……
「わ、お前……」
「うん……」
お湯の中の哲成のものにそっと触れる。すでに兆していることに嬉しさと安心と征服欲が沸き上がる。
「さっきしたばっか……」
「うん」
文句を言う唇に唇を合わせる。
もっと合わさりたい、とも思う。でも……
(渋谷と桜井……)
あいつらもこんな思いをしているんだろうか……
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お読みくださりありがとうございました!
か、書き終われなかった……ので、ここまでで。
一応、さすがに次回最終回になる予定です。
そして、今後のことですが……
か、書き終われなかった……ので、ここまでで。
一応、さすがに次回最終回になる予定です。
そして、今後のことですが……
次に一つ、短編を上げてから、活動休止、とさせていただこうと思っております。
細く長く、ずっと書き続けるつもりでいたのですが、家庭の事情でそうもいかなくなってしまいました。
現在の私はパート勤めのため、休職中で復帰のめどのたたない夫に対して、歌子さんのように「会社やめちゃえば?」と言うことはできず……それを言えるようになるために、就職することにしました(運良くパート先で正社員募集がありまして……)。苦渋の決断ではありますが、一度、ここから離れたいと思います。
書きたいことはまだまだありますが、とりあえず次回金曜日に。
どうぞよろしくお願いいたします。
ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございました。
