【哲成視点】
3年2ヶ月ぶりに聴く亨吾のピアノの音は、やっぱり、包み込まれるみたいな優しい音がした。
のは、いいんだけど………
「テックン、下手! 下手過ぎー!」
「そんなこと言われても……」
妹・梨華の娘である花梨は、梨華同様に容赦がない。
梨華の代わりにピアノの発表会の親子合奏に出ることになったオレ。今日はリハーサルがあるそうで、その前に全員で合わせる練習をしているのだけれども、現在、幼稚園児にタンバリンのダメだしをされている……
「ずれてるー」
「そんなはずは……」
「哲成」
すいっと、亨吾が横にやってきて、こそこそっとオレに耳打ちをした。
「お前は、合ってる」
「え?」
振り仰ぐと、亨吾は苦笑気味に、再びオレの耳元でささやくように言った。
「鍵盤ハーモニカの子達が走ってるのに、みんなつられてるんだよ。ヒカルちゃんの手拍子にちゃんと合わせられてるのは、お前と数人の親だけだ」
「あ……そういうことか」
あはは、と笑って見返すと、亨吾は眩しそうな目をしてオレを見てから、またピアノに戻っていった。その横顔を見ていたら、ドッと体の力が抜けてしまった。
(ったく…………)
本当に、全然、変わってない……
(お前、本当に、オレのこと好きだよな……)
その目。バレバレ過ぎだよ……
(って、待て待て)
条件反射的に「嬉しい」と思ってしまう自分にストップをかける。冷静になれ、冷静に。
ふうっと息を吐いて、あらためて亨吾をみる。
整った横顔。あいかわらずのイケメンっぷり。
こちらをチラリと見て、目元を和らげるところも、全然、変わってない……
(3年も離れてたのに……)
無理して離れた3年間なんか、亨吾にとっては何も関係ないみたいだ。以前と変わらず、オレのことが好き、という視線を隠そうともしない。隠すことができない、のか。
(3年、意味なかったかな……)
いや、でも、オレには必要な3年だった、と思う。3年で少しは頭が冷えた。
(オレがしっかりしてればいい)
前みたいに、亨吾と歌子さんを見守っていければいい。それで、亨吾と亨吾のお母さんが上手く付き合っていけるよう支えればいい。みんなが幸せでいるために、変な幻想は、見ない。
***
「哲成君?!」
リハーサル本番、とのことで、練習していたリハーサル室から舞台下手に移動したところ、そこにいた歌子さんにビックリしたように声をかけられた。
「え、哲成君って、花梨ちゃんの……」
「伯父、です」
「わ、そうなんだ。亨吾君、知ってた?」
「いや……」
亨吾が小さく首を振ってる後ろの方で、保護者の人達がコソコソ話している声が聞こえてくる。
「あの人、もしかして歌子先生の……」
「旦那さんらしいよ!」
「うわ。すっごいイケメン」
「ピアノも上手だったよねー」
そうだろうそうだろう。オレの亨吾は、イケメンでピアノが上手。
(…………ってな)
これまた条件反射的に自慢に思ってしまう。オレにとって亨吾は、もう、自分の一部みたいなものだ。でも……
『一生一緒にいるために……』
オレ達は友達でいることを選んだ。だから、オレは3年も享吾から離れていたんだ。
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お読みくださりありがとうございました!
家族が体調不良で今週ずっと家にいるため、全然書けませんでした。更新しないのも悔しいので、とりあえず書いてあったところまで更新します💦
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