goo blog サービス終了のお知らせ 

創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

風のゆくえには~ あいじょうのかたち15(浩介視点)

2015年07月06日 10時28分17秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち
 眠れない。眠りたくない。眠ると嫌な夢をみる。

 魔女が慶に鎌を振り下ろす夢。
 止めようとしても止められない。
 そして、振り下ろされる瞬間、おれは気がつく。
 その魔女は、おれ自身だということに。

**

「おれ……慶のこと殺しちゃうかもしれない」
「………」

 顔を見られたくなくて、テーブルに額をつけた状態で話し続けるおれに、あかねが心配そうな声をかけてくれる。

「慶君としばらく離れて暮らすことは……」
「考えられない。そんなこと耐えられない」
「……厄介ね」

 ふむ、とあかねは肯くと、

「一番危険なのは、慶君が寝てる時、よね? だったらあんたが先に寝るしかないわね」
「た……確かに」

 あかねの答えはいつでも的確だ。感情論を挟まず具体的にできることを言ってくれる。

「今日、病院行くんでしょ? 睡眠導入剤もらえないか聞いてみたら?」
「うん………」

 病院も憂鬱だ。日本を離れる前に自分の中を占めていた<醜い独占欲ゆえの殺意>が復活してしまったのは、病院で話をしているせいだと思えてならない……。

「まあ、こういう治療は時間かかるっていうし……焦らないで、ね」
「うん………」
 あかねの言葉になんとか肯く。


 この数日、なるべく慶と接しないように暮らしてきた。だから土日は困ってしまう。

(今日の夜は何を言い訳に出かけようか……)

と、朝から考えていたけれど、仕事に行っている慶から電話があって、状況が変わった。
 慶、具合が悪いらしい。慌てて車で迎えにいき、帰宅後、すぐにソファに座らせた。

「何か食べる? もう寝る? お風呂入る?」
「………」
 車の中でもずっと黙っていた慶。つらいのか、ずっと眉間にしわが寄っていた。今もムッとした顔をしている。

「寒くない? 大丈夫? 何か欲しい物ある?」
「……ある」

 慶がぼそっという。

「なに? ひざ掛け? あ、何か飲み物?」
「…………」
「ん? なに? ちょ……っ」

 いきなり、腕を掴まれ引っ張られ、悲鳴じみた声をあげてしまった。

「慶……っ」
「お前が、欲しい」
「………っ」

 両手を掴まれソファーに押し倒される。
 いつもながら、なんでこの人、この容姿のくせにこんなに力強いんだっ。タッパはおれの方があるのに、押さえつけられると身動きが取れなくなる。

「慶、ちょっと待ってって」
「待たねーよ。あと10日でセックスレス確定になっちまう」
「セックスレスってっ」

 何の話!?

「慶、具合悪いんじゃなかったの?!」
「悪い。浩介欠乏症」
「なにそれ……っ」

 慶はいたって真面目な顔をしている。けど、言ってることもやってることもおかしい!

「ちょっと、慶、ふざけないで……」
「ふざけてねえよ」

 首元に下りてくる唇に、ビクッと反応してしまう。

「ふざけてんのはお前の方だろ。なんでおれのこと避けてんだよ?」
「避けてなんか……っ」

 いや、避けてるんだけど、でもそれは……っ

「やらせろよ。たまってんだよ」
「だから……っ」

 押しのけようと、慶の白い腕をぐっと押し返した……が。

「あ………」
 息を飲んだ。まただ……また……

「なんだよ?」
「だって、また……」

 おれの触れた部分が黒くなっていく。ほら、まただ。おれは慶を穢してしまう……。

「黒い染みってやつか? 気になるんだったら目つぶっとけ」
「そういう問題じゃなくてっ」

 泣きたくなってくる。

「おれのせいで慶が穢れる……っ」
「どうでもいい。そんなこと」

 おそろしく魅惑的な瞳。慶を受け入れてしまいたい気持ちと、それはだめだという気持ちがせめぎあう。

「浩介……」
「…………っ」

 優しい優しいキス……。
 一瞬我を忘れた。けれど、すぐに思いだす。

 ダメだ。ダメだ。おれは慶を傷つけてしまう。

「慶、やめて。本当に」
「やめない」
「慶……っ」

 カチャカチャとベルトを外す音……。ああ、ダメだ。理性が飛んだら、おれは……おれはっ。

「やめてってばっ」
 渾身の力で慶を引き剥がす。

「だからなんなんだよお前はっ」
 慶、本気で怒ってる。でも、引き下がれない。

「おれ、何するか分かんないからっ」
「はあ?」

 おれの叫びに慶があきれたように言う。

「お前何言って……」
「おれ、慶を傷つけてしまう」
「だからそれは」
「だって………っ」

 言いたくない。でも言わないといけない。

「おれ慶を……慶を、殺しちゃうかもしれないから……っ」
「……………」

 ふっと慶の力が抜けた。その隙に慶の腕の中から抜け出す。

「殺す……?」
 眉を寄せた慶。呆れられただろうか。嫌われただろうか……。
 でも、慶を納得させるためにはもうウソはつけない。

「ごめん。慶。おれ、頭おかしいんだよ。慶が欲しくて殺してしまいたくなるときがある……っ」
「…………」
「だから、近づかないで。おれ、慶を殺したくない」
「…………」

 ふっと立ち上がった慶……。静かに、本当に静かにおれを見下ろしている……。

 慶、慶………

 もうそばにはいられない……。大好きなのに。離れたくないのに……っ。

「……浩介」
「…………」

 長い長い沈黙のあと、慶が静かに口をひらいた。

「いいぞ?」
「…………え?」

 慶の穏やかな瞳……。
 口元には笑みが浮かんでいる。

「いいぞって……?」
「だから、いいって言ってんだよ」
「え?」

「おれ、お前になら殺されてもいいぞ?」
「……………」

 慶………静かな慈愛にみちた微笑み………。
 天使だ……本物の天使だ……

 でも、そんな………慶、そんなこと……

「慶……」

 立っている慶に向かって手を伸ばしかけた、その時。

「なんてな」
「え」

 慶が腕組みをして首をコキコキと鳴らした。……え?

「んなこと、おれが言うわけねえだろ」
「え」

 慶の目がいつもの戦闘モードに切り替わった。……慶?

「誰が殺されんだよ。ばーか。殺せるもんなら殺してみろってんだ。ぜったい負けねえぞ、おれ」
「け、慶? ちょ……っ痛っ」

 胸のあたりを思いっきり蹴られ、倒れこんでしまう。

「おれは殺されねえ。お前を殺人犯にもしねえ」
「慶、だって」
「だってもくそもねえよ」

 慶が馬乗りになってくる。

「おれはお前のもんだって何回言わせれば気がすむんだよ。忘れちまうのか? お前偏差値高いくせにホントバカだよな」
「慶」
「欲しくて殺したくなるって言ったな? だったら求めろよ。おれを」
「だって」
「求めろ。いくらでもこたえてやる」

 ポツポツとおれのシャツのボタンが外されていく。

「だいたいお前、冷静に考えてみろよ。お前がおれにかなうわけねえだろ。休みの日いっつもうちでゴロゴロ本読んでばっかいるくせによ」
「………でも」
「でもじゃねーよ。おれを倒したかったら、ちったあ鍛えろ」
「…………」

 別に倒したいわけじゃないんだけど……。

「やっぱり、おれと同じスポーツジム入れよ。あそこプールもでかくていいぞ」
「おれ泳ぐのは……」
「じゃあ、ジジババと一緒に水の中歩くか」
「なにそれ」

 思わず笑ってしまう。さっきまでのシリアスな話の流れはどこに行ったんだ。

「健康にいいんだよ。水中ウォーキング。おれは常々お前の運動不足が気になってる」

 慶は真面目な顔をしておれのシャツの前をはだけさせた。

「おれはお前に殺されはしないけど、お前が死んだらおれも死ぬ自信はある」
「なにを……」

 何を言って……。
 
「だって、お前いなかったらおれの食生活とんでもねえことになるぞ?」
「…………」

 そっちの話ですか……。

「だからお前も長生きしてくれ」
「長生きって……」
「で、おれに尽くせ」

 ゆっくりと慶の唇がおりてくる。

「おれのために生きろ」
「け………」

 柔らかい感触。泣きたくなるほど愛おしい……

「おれ……いいの?」
「何が?」

 下から見上げる慶の完璧な顔。美しい。天使のように美しい……。

「慶のそばにいて、本当にいいの?」

 声が震える。ふさわしくないおれがそばにいて、本当にいいの?

 でも心底呆れたように慶が言う。

「あほか」

 慶がおれの腹の上にのったまま、自分のシャツのボタンを外しはじめる。

「おれがそばにいろって言ってんだよ。お前、今度おれから逃げ出したらどうなるかわかってんだろうな」
「え」
「12年前、お前勝手にいなくなっただろ」
「…………」

 勝手、ではない。一応前日に言った。

 なんて口答えができる雰囲気ではない。慶、眉間にしわがよっている。

「12年前は3年も待ってやったけど、今度はそんなことしねえからな」
「…………」
「地の底までだって追いかけてつかまえてやる」

 シャツを脱いだ慶。完璧に整ったしなやかな肢体……。

「離れるなんて許さない。お前は一生おれのそばにいろ」
「…………っ」

 息を飲む。

「慶………」
「あ?」
「………………羽が」

 バサリ、と慶の背中から大きな大きな包み込むような羽が……

「白い………羽が」
「…………」

 前みたいな黒い羽ではなく、明るく美しく輝く白い大きな羽が……。
 慶の優しい手がおれの頬を包み込む。

「天使、なんだろ?」
「え………」

 慶の瞳におれの姿が写りこむ。それは醜悪なものではなく、ただの普通の、一人の男。

「天使だったら羽生えてるなんて当然だろ?」
「慶……」

 恐る恐るその白皙に触れてみる。

「………白い」

 さっきみたいに黒くなったりしない。白く美しい肌のまま……。

「白い白い言うな。日焼けできねえ体質なんだからしょうがねえだろ。焼いても赤くなってすぐ白く戻っちまうんだから」

 慶がムッとしている。ふと思い出す。

「そうだね………前に海に行って大変だったことあるよね」
「あったあった。あれは痛かった。全身赤くなって」
「うん。シャワーの水でずっと冷やしたよね」
「あれ、大学の時か?」
「うん。伊豆に旅行に行った時だよ」
「あーそうだそうだ。あそこの露天風呂、蚊がすっげえいて大変だったよなー」
「そうだよ! せっかく貸し切りでいい感じだったのにさー」

 二人で笑いだしてしまう。

 慶。おれの天使。ずっと一緒にいた。

「また行こうな。旅行」
「うん」

 これからも、一緒にいる。

「じゃ、とりあえずやるか」
「もー慶はホントにムードってものを知らないんだから……」
「ムード? んなもんあっても、やることは同じだろ」
「そうだけど………、ん」

 重ねる唇。重なる体。一つになる。

 気がつくと、慶の羽は消えていて……
 おれがどんなに慶の体中に口づけても、もう黒い染みができたりすることはなくて……

「ずっとおれのそばにいろ」

 耳元で繰り返された慶の呪文みたいな言葉が頭の中で回っている。

「ずっと……」

 ずっと、そばにいる。何があっても、一緒にいる。



--------------------------





……って感じですけど、何も終わってません^^;
まだ続きます。はい。

(この翌日、浩介はスポーツクラブに入会させられます。その話書きました。→「風のゆくえには~愛のしるし」です。砂はいてるだけですが)

魔女の鎌の話は、「風のゆくえには~自由への道5-6」からきています。
魔女っていうのはお母さんのことです。
お母さんと和解……できるのかなあ。なんか心配になってきました。

慶とのギクシャク解消は次回に持ち越すくらい時間かかると思ってたのに、あっさりしちゃうし。
この人達、書きはじめると勝手に動きだしてしまうので、楽といえば楽だし困るといえば困ります。
慶はやっぱり男らしかった。うん。そうなのよね。あの慶が、このギクシャクを放置しているわけないものね……。



-----------


クリックしてくださった方!!本当にありがとうございます!!
あなた様のクリックにどれだけ励まされていることか……本当にありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風のゆくえには~ あいじょうのかたち14(慶視点)

2015年07月04日 11時25分27秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち
『病気など特別な事情がないのに、1か月以上性交渉がないカップル』

と、いうのがセックスレスの定義らしい。

「最後にしたのは……16日の夜」

 そう考えると、まだ20日しか経っていないのだから、セックスレスとはいえない。でもあと10日したら定義に当てはまることになる。

「でも最後の時は、3回して4回目までやろうとしてたくらいだから、その分期間延長でも……」
「渋谷先生?」
「わわわっ」

 いきなり後ろから声をかけられ、持っていた卓上カレンダーをあたふたと取り落してしまった。

「大丈夫ですか?」
 冷静にカレンダーを拾ってくれたのは、看護師の谷口さん。この子にはなんだかいつもみっともないところを見られているような……。

「ありがとう……。何かあった?」
「先生にお客様です。ちょっと騒ぎになってます」
「……へ?」

 なんだろう? と廊下に出ると……オーラ出まくりの長身の女性が立っていた。看護師や職員さんたちが遠巻きに見ている……。

「あ、慶くーん」
 おれをみとめると、ひらひらと手を振ってきたあかねさん。浩介の友達。元舞台女優。現在中学校教師。

「あかねさん……」
「近くまできたから寄ってみたの。休み時間とかってあるの?」
「いや………」

 もう終わった……と言いかけたけれど、

「渋谷先生、お昼休み結局全然休んでなかったじゃないですかっ」
「どうぞ、せっかくなので行ってらしてください!」

 看護師さんたちが口々に言ってくれたので、お言葉に甘えることにする。
 奥さんだと思われているようで、お似合いね~という声があちこちから聞こえてきて、思わずムッとする。どこがお似合いだ。あかねさんの方が背も10cm高いし、芸能人オーラもあるし、とてもじゃないけど釣り合わない、と思う。

 そんな外野の声など全く気にならない様子のあかねさんは、「結構大きい病院ね~」と感心しながら歩いている。あかねさんは風邪を引かない体質らしく(そんな感じがする……)、病院もめったに行かないからもの珍しいのだそうだ。

 缶コーヒーを買って、中庭の見えるテラス席に出る。天気が良くないこともあってちょうど誰もいない。
 たぶん、まわりには聞かせられない話をされる、気がする……。

 あかねさんはコーヒーを一口飲むと、真面目な顔をしてこちらを向いた。

「午前中、浩介に呼び出されたの」
「…………」

 やっぱり……。

「そうとう参ってたわよ。話してる間、ほとんどテーブルに突っ伏してたくらいに」
「……………」

 何をやってるんだあいつは。

「おれは普通にしてる……つもりなんですけど」
「どうしても距離ができる、んですって」
「……………」

 そう言われても……。

「距離を作ってるのは浩介だけどね」
「え」

 あかねさん、人差し指でこめかみのあたりを押さえると、んー……と迷ってから、

「これから話すこと、浩介には内緒にしてくれる?」
「え、あ、はい!」

 思わずがっついて肯くと、あかねさんはまだ、んー……といいながら、

「12年前、浩介が日本を離れた本当の理由って、慶君知ってる?」
「本当の理由……」

 おれには「自分の可能性を試したい」とかカッコいいこと言ってたけど……

「親と距離を取りたかったってことなのかな、と……」
「そうね……まあ突き詰めるとそうなるんだけど」

 あかねさんは、またまた、んーーーと唸りながら、

「一番の理由は、慶君のため、だったのよ」
「おれの……ため?」

 どういうことだ?

 あかねさんは、まだ話すことを躊躇しているようで、うんうん唸っていたけれど、観念したように言葉を継いだ。

「あのころ浩介、このまま日本にいたら、慶君をどうにかしちゃうかもしれないって悩んでて」
「え?」

 どうにか? 何の話だ??

「んー……健全な精神の持ち主の慶君には理解しがたいかもしれないんだけど……」
「…………」
「浩介、ご両親との確執で追い詰められてて……。その影響で、慶君に対する独占欲もえげつないものになっていってて」
「…………」

 えげつない? そんなこと感じたことなかったけど……。

「今、浩介、カウンセリング、通い始めたのよね?」
「は、はい」

 毎週土曜日の午後に行くことになった。今日もちょうど今頃終わったころだろうか。今日で3回目だ。

「なんかその影響で、昔のこととか色々思いだしちゃってるみたいね」
「…………」
「こわいんですって」

 こわい?

「慶君に触れるのがこわいって。傷つけてしまいそうで」 
「………何をいまさら」

 なんなんだ。なんなんだ一体……。
 無性に腹が立ってきた。触れるのがこわい、だと? 
 そういえば、おれに触れると黒い染みができるだのなんだのいってたな。
 だからずっと触れてこなかったっていうのか? それは大丈夫っていったじゃねーかよ。腹立つな。

 でも一番腹が立ってる理由はそこじゃなくて……

「『ムカつく。浩介、なんであかねさんには話してるんだ』って思ってるでしょ」
「!」

 心の中を読まれて、飛び上がる。あかねさん、超能力?!

「いや、その……」
「浩介にとって私は鏡なのよ。私達すごく似てるから、気持ちを理解することができる」

 慶には分からない、と言われたことを思い出し、ギクリとする。
 そう。おれは、浩介の気持ちを分かってやれない……。

「でも、慶君も鏡なの」

 あかねさんの真剣な声。

「慶君は自分の理想を映し出してくれる鏡。慶君に写る自分だけは好きになれるって、昔から言ってた」
「……………」

 それはおれも昔言われたことがある……。

「浩介は、自分の醜い部分を慶君に見せたくないのよ」
「それは……」
「きっと慶君だったら、浩介のそういう部分も受け入れられると思うわよ? でもそういう問題じゃないのよね」
「……………」

 あかねさんが、ふうっと大きくため息をついた。

「相手のすべてを理解して受け止めるのが本当の愛情、自分のすべてをさらけ出せるのが本当の愛情、……みたいな話、よく聞くけど、それって人それぞれだと思うの」
「本当の……愛情」
「まあ、私は、綾さんにぜーんぶさらけ出してめちゃめちゃ楽になったけどね。でも、浩介は違う」

 はっきりと言いきるあかねさん。

「今の浩介は、自分の中の黒い部分を慶君に知られたら、生きていけないわよ。慶君に写る自分の姿に救いを求めてるんだもの」
「………………」

 浩介……。
 おれは……おれはどうすれば……。

「あかねさん……。おれは何をすれば……」
「何もしなくていいと思う」

 あっさりとあかねさんが言う。

「慶君は慶君でいてくれればいいのよ」
「でも」
「私が今日きたのは、浩介、今ビビっちゃってるけど、慶君はいつも通りでいてあげてってこと言いたかったからなの」

 いつも通り……いつも通りって……。

「じゃ。そういうことで。私がきたことは内緒にしてねー」
「は、はい……」

 会った時と同様にひらひらと手を振っていってしまったあかねさん……。

 その後ろ姿を見つめながら、うーん……と唸ってしまう。

 最近の浩介は、年度末年度初めで忙しい、といって帰ってくるのも遅いし、帰ってきてからも何かしらしていて、ゆっくりと話をする時間もない。それが本当に忙しいからなのか、おれと話したくないから忙しそうにしているのかは分からない。でも、今の話を聞くと、後者である可能性は高い……。

「いつも通り……」

 そうだな。いつも通り……いつも通り、やってやろうじゃねえか。

 即座に電話をかける。数回のコールのあと、浩介が出た。

「慶?」

 ちょっと怯えたような泣きそうな声……。

「お前、今から暇?」
「え……えーと」

 何か用事を作ろうとしている雰囲気満載だ。そんなことは許さない。

「暇だよな? 暇だろ? 車で迎えにきてくんねえか?」
「え?! 慶、具合でも悪いの?!」

 途端に心配そうな声に変わる。ほら、おれは愛されている。

「ちょっとな。電車で帰るのしんどい感じ」
「わかった。今、マンションに戻ってるところだから、ちょっと時間かかるけど、大丈夫?」
「ん。どのみち定時まではいるから、それに合わせてきてくれるか?」
「うん。終わったら連絡ちょうだい。……本当に大丈夫?」

 本気で心配してくれている浩介に申し訳ないような、心配されて嬉しくてくすぐったいような、そんな複雑な気持ち。

「悪いな。頼んだ」
「うん。おれがいくまで頑張ってね」
「さんきゅ。あとでな」

 電話を切ってから、頭上の今にも雨が降りそうな厚い雲をみあげ、一人ごちる。

「おれがお前のためにできること」

 それは、お前を愛すること。愛されること。求めること。求められること。
 ただ、それだけだ。


-----------------------------------------


ああ、やっぱり慶は慶だ。前向きでホッとします。

愛情の形、について考えることがあります。
少し前にやってた、<ケンカできるカップル賛美>なドラマに、私はものすごく違和感を覚えたのです。 
言いたいこと言い合えるからいいのか? 本当の自分をさらけ出せる人が相手としてふさわしいのか?
まあ……人それぞれなんでしょうけど、私は決してそんなことはないと思う派でして……。

昔から、浩介&慶は、そんな感じのカップルでした。
案外とこの2人、2人してうちに秘めちゃってて、思ってること言ってない。
慶は浩介の、ご両親との確執の話とか不登校だった中学時代の話とか、本当はものすごく聞きたいけど、聞かない。聞けない。
浩介は、自分の醜い部分を絶対に絶対に慶に知られないようにしてる。
それでいいんです。ただ、一緒にいたいんです。二人はそういう愛の形なんです。

次回は浩介視点で。ああ、またこいつ、ウジウジしてるんだろうな……って感じですが、慶君に救ってもらいましょう。


---

またまたクリックしてくださった方!本当にありがとうございます!
しかも、昨日、更新してないのにー。
嬉しいやら申し訳ないやら……本当にありがとうございます。

パソコンの画面に向かって拝んでおります。
どなたか存じ上げませんが、ありがとうございます。ありがとうございます。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風のゆくえには~ あいじょうのかたち13(樹理亜視点)

2015年07月02日 10時18分45秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち
今回、BL要素ないです。ごめんなさい。GL寄りです。

----

 小さいころから、あたしの何もかもはママちゃんに決められていた。髪の毛の色も洋服も持ち物も学校もエッチをする相手も。
 だから、陶子さんに「自分の好きにしなさいな」って言われるたびに、途方にくれてしまう。

 陶子さんはクレオパトラみたいな感じの、いつでもテンション低めの大人の人。バーのママをしているけど、誰もママとは呼ばず、陶子さん、と呼ぶ。

 あたしのお店での仕事は、開店前と閉店後の掃除と、お皿洗いと、簡単な買い物、だけだった。お料理やお酒は陶子さんが全部作る。お客さんは女性だけ。今まで働いていたお店と違って、お客さんの相手をすることがまったくないから楽。

 お店は地下一階にあって、そのビルの6階に陶子さんのおうちがある。
 あたし以外にもう1人、ララって呼ばれてる女の子が一緒に住んでいる。ララはたぶん私と同じ歳くらいで、背の高さも私と同じくらいに低くて、なんだか暗い子。無口で話しているのをほとんど聞いたことがない。ものすごい綺麗好きで、毎日毎日おうちの中をピカピカにしている。出かけることも滅多にない。いつもどこかしらの掃除をしてる。

 あともう1人……1人というか一匹。白地にオレンジと黒の三毛猫がいる。この子はミミ。ララはミミが怖いらしい。それなので、このうちでのあたしの仕事は、ミミのお世話をすること。それだけ。

 ママちゃんと本格的に離れて暮らすのは初めてのことだけど、予想に反して全然寂しくなかった。ずっと着てたお気に入りだけどすごく重いコートを、ようやく脱いだような、そんな身軽ささえ感じていた。


**

「陶子さーん、その子誰? 小さくてかわいー。一緒に飲もうよー」
「え」

 お皿を拭いていたら、カウンターの向こうから声をかけられた。かわいい、だって。背の高い男の人みたいな女の人。結構カッコいい。

「ああ、ダメダメ」

 でも、陶子さんが毎度同じく手を振る。

「この子まだ19」
「じゃあ、ノンアルコールでも」 
「それに」

 ちっちっちって感じに陶子さんが指を揺らす。

「この子、姫からの預かりものだから」
「え、何それ」

 途端に、カッコいい彼女の顔がこわばる。

「姫のお手つき?」
「そういうわけじゃないみたいだけどね。でも手を出すなってさ」
「えー……それじゃあしょうがないなあ」

 肩をすくめ、彼女は行ってしまった。
 また言われた「姫からの預かりもの」。それを言われた人はみんな、納得したり、嫉妬の目で睨んできたり、色々だけどそれ以上何か言ってくる人は皆無だった。
 姫っていうのは、どうやら、浩介先生のお友達で、ここを紹介してくれた人らしいんだけど、あたしはまだ会ったことがない。
 みんなに一目置かれているらしい『姫』。会ってみたい。どんな人なんだろう。

**

 働きはじめて2週間くらいたった月曜日の夜。

 入口あたりがわらわらわらっといつもと違う雰囲気にざわめいた。なんなんだろう、と思ったら、女の子たちに囲まれながら、長身の女性がこちらに向かって歩いてきた。スポットライトでも浴びてるかのように、彼女だけ光輝いている。人目を惹きつけるものすごいオーラ。

 そのオーラにも驚いたけど、それよりも何よりも、見たことある顔なことに驚いた。

「渋谷先生の……奥さん」

 思わずつぶやく。この顔見間違えるはずがない。以前渋谷先生の後を付けていった時に、牛乳が入った買い物袋を渋谷先生に渡した女だ。

「こんばんは」
 あたしの心の中のぐるぐるなんかお構いなしに、その女は、おそろしく魅力的な顔でニッコリと笑いかけてきた。

「どう? 仕事大変じゃない?」
「………ぜんぜん。ぜんぜんぜんぜん」

 この人が姫! そうか。浩介先生の友達の渋谷先生の奥さんだから、浩介先生とも友達なわけだ。

「ねー姫様ー、その子、姫様のなんなのー?」
 まわりにいる可愛い女の子の一人が、ぷうっとした顔をして『姫』に詰め寄ると、『姫』はまたあのみんなを魅了する微笑みを浮かべて、

「私の友達の教え子なの。今日も様子見てきてって頼まれたから来たんだけど……」
「え、そうなの!」

 女の子達がきゃあっと言う。

「じゃあ、この子のおかげで姫様きてくれたってこと?!」
「そうなんだ! わー彼女、絶対バイト続けてね!」
「最近、全然姫様きてくれないんだもんねー」

 あたしをおいて、みんなで盛り上がっている。

(…………)

 ふっと、きた。いつものあれだ。スクリーンが現れて、まわりの声が遠くになっていく。
 あたし、今、どこにいるんだろう。地面に足がついてない感じ……。

「姫、何飲む?」
「んー、おまかせー」

 ひらひら手を振りながら、ボックス席の方に向かう『姫』。
 なんなんだろう。この人。磁石みたいに、みんなを引き寄せる。これをカリスマ性っていうのかな。

 この日は平日だというのに『姫』を中心にして店中大賑わいだった。『姫』は別に何か面白い話をするわけでもなく、ニコニコと肯いていることの方が多いのに、なぜかまわりの人みんながみんな笑顔になっている。他の店にいた人にも情報が回ったらしく、お客さんの数もいつもよりもずいぶん多かった。

 映画を見ているような感覚のまま、閉店時間になった。『姫』は閉店の少し前に「頑張ってね」と言って帰って行った。旦那さんいるのにこんなに遅くまで飲んでるなんて、なんて嫁だ。

 何だかふわふわした気持ちのまま掃除もたいしてやらずに、早々に6階の部屋に戻ったのだけれど、

「…………あれ」
 珍しく、食べ終わった食器がテーブルに出しっぱなしになっていることに気がついて、首を傾げた。

「ララ……?」
 ララの部屋をのぞいたけれど、いない。珍しい。

 そういえば、先に帰った陶子さんはどうしたんだろう? いつもなら帰宅後はリビングで本を読んだりしているのに……

 不思議に思って、一番奥の奥にある陶子さんの部屋の前まで行き、

「!」

 ノックをする手を寸前でとめた。息を飲む。この声。この声は……。

 そおっと回れ右をする。足音を立てずになんとか台所までもどり、ようやくホーッと息をついた。

「び、びっくりした……」

 あの声。ララの声だった。ララの……喘ぎ声、だ。

 そうなのかな……とは思っていたけれど……。陶子さんとララはそういう関係だったんだ。

 そうか。本当はまだあたし、店のそうじしてるはずだもんね……。

「あたし……お邪魔虫じゃん」
 なんで私を住み込みで働かせてくれてるんだろう? あたしがいなければやりたいときにやれるのに。

「………関係ないか」
 考えてみたら、うちのママちゃんだって、あたしの小さい頃から男の人つれこんで、よくやってた。あたしがいてもいなくても関係なく。
 あたしもママちゃんが連れてきた人と、ママちゃんが目の前にいたってママちゃんにいわれればしてた。

 こんなの慣れっこだ。陶子さんたちもあたしなんか気にせずいつでもやればいいのに。あとでそう言ってあげよう。


「………まだ直んないなあ」

 目の前のスクリーンを叩いてみる。まだある。しつこいこのスクリーン。
 台所の包丁が目に入る。よく切れそう……。
 あれで手首切ったら、いつものカッターと違ってスパッといけそう。手も取れそう。ポロッと取れたらスッキリしそう……。

「…………」
 冷たくキラキラ光った包丁を手首につけてみる。……気持ちいい。

 切ってみようかな、と包丁を持ち直した時だった。
 ふと、渋谷先生の声が脳内によみがえってきた。

『切りたくなったりしたら絶対に連絡して』

 ……自分はあんな美人嫁がいるくせに。幸せなくせに。

 もう一度、包丁を持ち直す。そして、手首にあてる。ちょっとだけ引くと、すうっと薄く赤い線ができた。……綺麗。

『浩介にとって大切な生徒なら、おれにとっても大切な生徒になるから』
「…………」

 渋谷先生の声が頭から離れない。
 もう……うるさいなあ。

 でも、渋谷先生に電話するのはなんだか癪にさわるから、浩介先生に電話してみた。
 今、夜中の2時半。寝てるかな……。と思ったのに、3コールめで、

『はい』

 出た! 宵っ張りだなー。明日仕事なのに。

「こーすけせんせー?」
『ああ、ごめんね』

 あれ? この声……

『渋谷です。浩介、今寝てて……』
「うそ!」

 な、なんで渋谷先生が!!

『おれじゃまずい? 浩介じゃなくちゃダメなら起こすよ?』
「ううん!」

 っていうか、渋谷先生の方が嬉しいし!

「渋谷先生、なんで浩介先生と一緒にいるのー? あ、そうか。今日、奥さん飲みに行っちゃったから、浩介先生のとこお泊りにきたのー?」
『あー……』

 あーとかうーとか渋谷先生は言うと、

『で、どうしたの? 目黒さん』
「んー渋谷先生の奥さんがお店にきてー」
『うん』
「でースクリーンがずっとなくならなくてー」
『うん』
「でー切っちゃいたくなったんだけどー」
『うん』
「先生が切る前に電話してって言ってたの思い出して、電話したの」
『そっか』

 ほっと渋谷先生が息をついた。

『良かった』
「良かった?」
『うん。良かった』
「ふーん……」

 なんだかよくわからない。わからないけどなんだか嬉しい。

『で、スクリーンは? まだある?』
「んー、あれ?」

 ニャーと足元に寄ってきたミミ。……ちゃんといる。触れる。温かい。

「なくなったー」
『そっか』

 渋谷先生がまたホッとしたように息をついてから、

『猫がいるの?』
「うん。ミミっていうのー。かわいいよー」

 ニャーニャー言い続けるミミ。お腹空いたのかな。

「ミミがお腹空いたっていうから切るねー」
『うん。おやすみ』

 おやすみ、だって。うふふ。恋人みたい。

「おやすみなさーい」

 電話を切ってからよいしょっと、ミミを抱いて立ち上がる。
 と、そこへ……

 玄関がガチャガチャガチャと開く音がしてきた。

「……え。誰?」

 陶子さんとララは陶子さんの部屋でよろしくやってるはず。他に鍵を持ってる人なんて……。

 ミミをぎゅーっと抱きしめて、玄関をにらんでいたら……

「と、陶子さん?!」

 黒髪おかっぱの陶子さんがふらりと入ってきた。

 え、なんでなんで?! ララと一緒に部屋にいるはずなのにっ。

「ミミのキャットフード、ストック切れてたから」
「え」
「とりあえず一回分だけ買ってきたわ」

 コンビニの袋をあげてみせてくれる陶子さん。

「起きたらいつものスーパーで買ってきてくれる? コンビニは高すぎて」
「は、はい……」

 頭の中「?」しかない。陶子さんコンビニ行ってたってこと? そしたら、陶子さんの部屋にいるのは………。
 げっ。ララが男だか女だか連れ込んで陶子さんの部屋でやってるってこと?!

 そ、それはマズイ。今、陶子さん、部屋に行ったら鉢合わせだ!

「と、陶子さんっ。ちょっと、待って待ってー!」
「なに?」

 頭を回転させて用事を思いつく。

「ミミお腹空いてるみたいでー先にご飯を」
「あげておいて」

 ぽいっとコンビニの袋を渡される。そのまま陶子さんは部屋に着替えにいってしまった。

 ………知ーらないっと。

 ミミにご飯をあげながら、これからおきるであろう修羅場をドキドキしながら待っていたけれど、いつまでたっても怒鳴り声も泣き声も聞こえてこず……

 普通の顔をして部屋着を着た陶子さんがリビングに戻ってきた。

「あの……ララは」
「私の部屋で寝てるわよ。自分の部屋掃除してる最中にベッドの上にバケツひっくり返しちゃって、まだ乾いてないんですって。私、ここのソファーで寝るから」
「あ……はい」

 なんだ。……ってことは、ララの奴、自分でしてたってこと? 人騒がせなー!!

「樹理」
「え」

 やれやれと思って出て行こうとしたところ、いきなり腕を掴まれた。黒目がちな陶子さんの目がジッとこちらをみている。

「なに……?」
「これ」
「あ」

 しまった。手首切ったこと忘れてた。でもちょっとしか切ってないから血がたれてるとかそういうことはないんだけど……。

「切ったの?」
「………うん」

 怒られる? 陶子さんもママちゃんみたいに怒る? 出てけっていう?
 ジッと固まって、陶子さんの言葉を待っていたら……

「ふーん」
 陶子さん、ふーん、って言った。

「えらいじゃない」
「え?」

 えらい? 何が?

「よく我慢したわね。このくらいならすぐにふさがるわよ」
「え」
「テープで止めようかしらね。今は消毒ってしないんですってね。昔は赤チン塗ってたんだけど」
「赤チン?」
「今の若い子は知らないでしょ」

 ちょっと笑いながら陶子さん、引き出しから傷がふさがるテープってやつを取り出した。

「一回洗うわよ」
「は、はい……」

 台所の水でジャブジャブ手首を洗ってくれる陶子さん。

 深く切らないで良かったわ。我慢できてえらかったわね。洗いながらまた褒めてくれた。

 水は冷たいけど、心の中がポカポカしてきた。

『良かった』

 そう言ってくれた渋谷先生の声も思い出すと、さらに温かくなってきた。
 今日はゆっくり眠れそうだなって思った。


---------------


BLカテゴリーのくせに、BLじゃなくてすみません……。

陶子さんは、「(GL小説)風のゆくえには~光彩6-5」で出てきたお方です。
樹理亜のことを考えた時に、真っ先に樹理亜は陶子さんに預けよう、と思いました。

「あいじょうのかたち」という副題は言葉の通り、愛情には色々な形があるという……

慶と浩介はお互いの愛にまったく揺るぎはないのですが、
今回の件で、ちょっとギクシャクしはじめてしまいそうな予感が……
そんな話を次回、慶視点で。


---

またまたクリックしてくださった方!本当にありがとうございます!
パソコンの画面に向かって拝んでしまいました。
どなたか存じ上げませんが、ありがとうございますありがとうございます……と。

本当に!ありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風のゆくえには~ あいじょうのかたち12(浩介視点)

2015年06月29日 14時51分41秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち
 結局、夜明けまでセックスをしていた。

 一回目は限界がくるまでのしつこい前戯の後にバックから。
 二回目は騎上位から最後は正常位で。
 三回目は風呂に入りつつ手で。

 その後、さすがにもう寝よう、とベットに入った。慶はすぐに寝息をたてはじめたけれど、おれは少しも眠れなかった。

 よみがえる悪夢……おれが触れると慶が黒く染まっていくという……。

 慶はおれに考える時間を与えないために、性欲で頭を満たそうとしてくれたのだろう。実際にやっている間は忘れられたし、愛されている充実感でいっぱいになった。

 慶が一晩に3回も誘ってくれるなんて、この長い付き合いの中で初めてのことだ。だいたい、一晩3回なんてこと自体が珍しい……というか、20代までは時々あったけれど、ここ10年以上立て続けに3回なんてしたことがない。よく出るものも出たもんだ、と自分で感心してしまう。

 風呂もほぼ暗闇で入ったので、慶の黒い染みがどうなったのかは分からなかった。
 でも、ベットに戻ってから次第に外が明るくなり……

「………よかった」

 慶の白皙が照らし出され、思わず呟いた。染みがなくなっている。
 まあ……現実にそんなことがあるわけがないということは分かっている。幻覚というやつだ。

 やっぱりおれは頭がおかしいのだろう。
 それでも、そんなおれとでも慶は一緒にいてくれるという。
 愛おしくて、愛おしすぎて苦しい。

「浩介?」

 あまりにもジッと見つめていたせいか、慶が起きてしまった。まだ一時間も経っていないのに。綺麗な瞳がこちらを見つめ返している。
 恐る恐るその白い肌に触れてみたが、昨晩のように黒くなることはなく、ホッとして慶の背中に手を回した。背中にあった羽もなくなっている。ないとは思ったけれど一応確認してみたかった。当たり前だけど、もうない。

 慶は優しい。優しい言葉をかけてくれて、優しく優しく頭をなでてくれる。
 おれは気が遠くなる。この人がいなくなってしまったら、おれはどうなってしまうんだろう。

「慶……いなくならないでね」

 思わずつぶやく。いなくならないで。ずっとそばにいて。そう思ってしまうのはおれのエゴだろうか。
 本当は慶にはもっとふさわしい人がいるだろう。だけど、どうしても、譲れない。

 慶はしばらくの沈黙の後、
「いなくなんねーよ。ばーか」
 いつものように明るく返してくれた。そして、

「あんまアホみてーなこと言ってると襲うぞ?」

 え、本気?
 さすがに4回目は……

 と、思ったけれども、パジャマの上からまさぐられて、固くなっていく。スゴイなおれ……。

「いけないこともなさそうだな」

 ちょっと笑いながら慶が言う。
 でも、結局、本勃ちするまではいかず、ふにゃったり固くなったりを繰り返し……。で、慶がそれを「おもしれー」とかいってずっといじってきて……。

 そうこうされているうちに、いつの間にか眠ってしまった。なんだか、ものすごく愛されている感じがして、ものすごく幸せな気持ちでいっぱいになりながら。


***


 目黒樹理亜は面接の結果、あかねの知り合いの店での本採用が決まった。

 樹理亜の母親には圭子先生が連絡してくれた。圭子先生もおれと同様、樹理亜はあの母親と離れて暮らした方がいいと考えていたそうで、上手いこと言いくるめて樹理亜が住み込みで働くことを認めさせたそうだ。

 樹理亜の母親とおれの母親は、見た目や生育環境は大きく違うけれども、根っこの部分は似ていると思う。
 子供を自分の思い通りにしようとするところ、スイッチが入ると別人のようにヒステリックになるところ、でも普段は良い母親ぶるところ、そっくりだ。

 おれも慶に出会わなければ、樹理亜のようにリストカットに走っていたかもしれない。
 樹理亜にも、慶のような人が現れればいいのに。……慶は絶対に譲れないけど。



 夜遅くに帰宅すると、慶がいきなり、

「いちご食うか?」

と、きれいな赤で形も整った高そうないちごを洗って出してくれた。もらいものらしい。時々慶は、患者さんからの差し入れのお菓子とかを持って帰ってくる。

 いちごを食べながら、今日の樹理亜の面接のことを報告した。あいにく女性専用のバーのため樹理亜の働いている姿を見ることはできないので、そのうちあかねに様子を見に行ってもらおうと思っている。

「このいちご、かなり高級品だよね? すごいおいしかったー」

 ごちそうさま、と手を合わせると、慶が何か気まずそうな表情をした。なんだろう?

「どうかした?」
「あのな………」

 慶がすっと姿勢を正した。真面目な話をする前兆……。嫌な予感がする。

「お前のご両親のことなんだけど」
「…………」

 やっぱり………

「慶、その話は……」
「おれ、今日、お前のうちに行ってきた」
「……………え?」

 え?

「お二人と話をさせてもらってな。とりあえず、しばらくは会わないでほしいとお願いしてきた」
「……………」

 話………?

「それで、お母さんには心療内科クリニックを紹介した。ここまできたら専門家の手を借りることも視野に入れた方がいいと思う」
「……………」

 慶の声が遠くから聞こえてくる。

「お前もカウンセリングを受けてみないか? お前もこないだ会った戸田先生なんだけど……」
「…………いちご」
「え?」

 そうだ……いちご。
 なんで気がつかなかったんだ? 今日、慶は休みで家にいたはずだ。患者さんからの差し入れを持って帰ってくるはずがない。
 このいちごは……このいちごは。

「…………!!」
 一気に胃液が上がってきて、慌てて口を手で押さえる。まずい。吐く。

「浩介?!」

 叫んだ慶の横を大股ですり抜け、トイレに駆け込む。
 慌てて便座をあげ……たのと同時に、腹の中のものが一気に便器の中に吐き出た。しゃがむ前で高さがあったせいか、水に跳ね返り、あちこちに赤い吐瀉物が飛び散ってしまった。
 でもまだ出る。まだまだ出る。今食べてしまった、あの女が触れたであろう赤い物を全部吐き出したい。

「浩介」
「……………」

 しゃがみこんで吐き続けるおれの背中を慶がゆっくりとさすってくれる。
 でも、吐き気は止まらない。全部全部吐かなくては。全部、全部………。

 固形物が出おわっても、吐き気はとまらない。吐きたいのに出なくて苦しい。でもまだだ。まだ。全部出さないと。喉に手を突っ込む。途端に上がってきた胃液を便器に吐き出す。まだだ。まだ。全部吐かないと……全部……全部っ。

「浩介、もういいから」
「離して」

 慶に便器から引き剥がされそうになり、大きくかぶりを振る。

「慶、汚れちゃうよ。あっち行ってて……」
「浩介」
「だからあっち行ってって……っ」

 ぎゅうっと後ろから抱きしめられた。
 だめだ。嘔吐の跳ね返りが慶の腕についてしまう。

「慶、離して。汚れちゃうって」
「いい」
「だめだって。慶…………、慶?」

 慶………?
 
 何か違和感を感じて振り返った。
 おれの肩口に額をぐりぐり押しつけている慶……。何の音? ……歯ぎしり?

「慶?」
「………ごめん」 

 慶がボソリと言った。

「勝手なことしてごめん。苦しめてごめん。日本に帰ってきてごめん。ホント……ごめんな」
「………慶」

 便器から手を離すと、即座に慶の胸の中に引っ張りこまれた。そのままずりずりとトイレから引きずり出される。
 そしてあぐらをかいた慶の膝に顔を埋めさせられた。

「慶……汚れちゃうよ」
「いい」

 狭い廊下で、トイレの扉も開けっ放しで、膝枕。変な光景だ。

「ごめんな。浩介……」

 慶が優しく頭をなでてくれる。気持ちいい。
 あれだけ上がってきていた胃液が一気に落ちついてきた。慶の魔法の手。

「おれ……なんも分かってねえな」
「………慶」

 静かな慶の声に胸がしめつけられる。
 慶が良かれと思ってやってくれたことは分かっている。分かっているけれど……。

「………慶には分からないと思う」
「…………」

 慶の手が止まる。しばらくの間の後、

「………そうだな」

 ぽつんとつぶやくように肯いた慶。
 傷つけてしまっただろうか? でも、そうだけど……そうなんだけど。

「慶には、分かってほしくない、と思う」
「…………」

 そう。こんな感情、理解する必要ない。慶は分からなくていいんだ。

「………ごめんな」
「慶……」

 慶の手が再びおれの頭をなでてくれる。切ないほど心地が良い慶の膝……。

「慶……?」
 また、変な音が聞こえてきた。この音、歯ぎしり……?

「慶……歯ぎしりしてる」
 慶の頬に手を伸ばすと、その手をぎゅうっと握られた。

「おれ……」
 慶がつらそうに口を引き結んだ。

「お前のために何もしてやれねえんだな」
「え………」

 慶……

 慶の大きな瞳が揺れ……透明なものがあふれだしてきた。
 ぽた、ぽた、とおれの頬に落ちてくる、慶の涙……

「慶……」
「ごめんな……」

 慶の涙………なんて綺麗な……。

「ごめん……」
「慶………」

 慶が泣くなんて。静かに涙を流し続けている慶……。

「ごめんな……」
「………慶」

 おれは………おれは。

「慶」
 身を起こして、慶の頭を引き寄せる。抱きしめる。それから……それから。

 おれは、何ができる? この愛おしい人のために、何ができるんだろう?

 慶の好物を作ること、家事の分担を多く受け持つこと、洋服を選んであげること、髪の毛を乾かしてあげること、映画のDVDを借りてくること、仕事の資料の整理を手伝うこと……出来る限りのことをしてきた。ずっと尽くしてきたつもりだ。

 でも、でも……、本当に慶のためにしなけらばならないことはそんな上辺だけのことじゃなくて。本当にしなけらばならないことは……ならないことは。

 慶の涙……綺麗な光……。
 すとん……と体の中の何かが抜け落ちた気がした。

「慶、おれ……」

 慶の流れ続ける涙をぬぐい、おれは決意をその瞳に告げる。

「おれ………カウンセリング、受けるよ」

 おれは……変わらなけらばならない。



--------


く……暗い。暗かった……。

前半の、慶視点のお話は「あいじょうのかたち11」、
限界がくるまでのしつこい前戯の後にバックから、の話は「R18・黒い翼」(具体的性描写あり)でした。


ランキングに参加させていただくようになって、一週間くらい?が経ちました。
アクセス数が一気に増えて戸惑う日々でございました。とってもとっても嬉しいです。
こんな拙いお話を読みにきてくださって本当にありがとうございます。


そして。
先日、クリックしてくださった方!! 本当に本当にありがとうございます!!
今まで私、他の方のを読んで、普通にあまり何も考えずクリックしていたのですが……
された方はこんなに嬉しいものなのか、と、されて初めて分かりました^^;
本当にありがとうございました!!今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風のゆくえには~ あいじょうのかたち11(慶視点)

2015年06月26日 18時09分30秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち
(具体的性描写大丈夫な方→10の続きは「R18・黒い翼」になります)


-----


 結局、夜明けまでセックスをしていた。途中で風呂に入ったりしたものの、この歳で朝までやり続けるってのはちょっと異常だと思う。
 でも、正常な状態でない浩介を救う方法を、これ以外に思いつかなかった。

 浩介は明らかにおかしかった。
 触れるとおれに黒い染みができる、と怯えはじめ……、挙げ句のはてに、おれの背中に黒い羽が生えているとまで言いはじめたときには、さすがに血の気が引いた。
 何でもないことのように、浩介の言うことを受け入れたように振る舞ったつもりだが、上手くできていただろうか……。

 ここまで浩介を追いつめたのはおれだ。おれが浩介の母親に連絡しよう、と言ったことで、こんな幻覚まで見えるようになってしまったのだろう。
 おれはどうしたら浩介を救えるのだろうか……。


 視線を感じて目を開けると、浩介の顔がいつもより少し離れたところにあった。
 いつもは額が触れ合うくらい近くにいるのに……

「浩介? お前、まさかあれから寝てないのか?」
「………。慶もまだ一時間くらいしか寝てないよ?今日休みなんだからゆっくり寝てたら?」

 ひそやかな声。まるで話すのが怖いかのような……。

「お前……大丈夫か?」
「何が?」
「何がって……」

 手を伸ばすと、ビクッと浩介が震えた。構わず額に手をあてる。

「熱は……ないみたいだな」
「………」

 そのまま頬に触れる。薄い唇をなぞる。
 浩介は緊張した面持ちでされるがままになっていたが、

「……慶」

 そっとおれの頬に手を寄せた。
 そして、ホッと……心の底から安心したように息をついた。

「大丈夫……みたい」
「そうか」

 おれも安心して出そうになったため息をひっこめて、浩介の方に体を寄せる。すると浩介が遠慮がちにおれの背中に腕を回して、ポツリと言った。

「ごめんね。おれ昨日、変だったでしょ?」
「お前が変なのなんていつものことだろ」

 言うと、浩介は、そうだね、と低く笑った。

「今日、ちょっと遅くなるかも。目黒さんの面接に付き添うことになると思うから……」
「わかった」

 目黒さんというのは、浩介の勤める学校の卒業生で、訳あって浩介が住み込みの勤め先を紹介することになったのだ。

「だったら余計にちょっとでいいから寝ろよ? バテるぞ?」
「うん……」

 頭を引き寄せ、腕枕をしてやる。額に口づける。髪の毛を優しくなでる。
 それから…それから……。おれは何をしてやればいい?

 頭をなで続けていたら、身を固くしていた浩介がようやく力を抜いて、ポツリと言った。

「慶……いなくならないでね」
「………」

 胸をつく切実な言葉……。

 いなくならないで、なんてこの25年の間で言われたの初めてじゃないか?
 一緒にいてね、なら何度もあるけれど、いなくならないで……って………。
 いつもならば、ばーかとかあほかとか切り返すところだけれども、ぐっと詰まってしまった。

「………慶?」
 おれが黙ってしまったので、浩介が不安げにおれの肩口から顔を離した。いかんいかん。

「慶?」
「いなくなんねえよ。ばーか」

 おでことおでこをくっつけ、その不安に揺れる瞳を間近から見つめ返す。

「あんまアホみてーなこと言ってると襲うぞ?」
「……………慶」

 ふっと浩介が笑った。

「さすがに4回目は………」
「いけないこともなさそうだな」
「そんなことされたら、そりゃ……、あ」

 不安でいっぱいの浩介。余計なことを考えさせたくない。快楽の海に溺れてしまえばいい。

「浩介………」

 お前を守りたい。そのためにおれができること……できることはなんだろう……。


***


 その夜……
 おれは一人で、浩介の実家を訪れた。
 浩介の母親に追い返されそうになったけれど、父親の鶴の一声で中に通してもらえた。

 浩介の父親に会うのは20年以上ぶりになる。もう80歳を超えているのに矍鑠としている。でも、20年前に比べたら、二回りくらい小さくなった印象だ。
 家の中はあいかわらず広くて綺麗で、まるでモデルルームのよう。人の住んでいる気配のない不思議な家だ、と高校生の時に感じたことと同じことを感じる。

「それで……浩介は?」
 手を揉み絞りながら浩介の母親が言う。この仕草、昔から全然変わっていない……。

「浩介さんはいらっしゃいません。申し訳ありませんが、しばらく会わせることはできません。これは医師としての判断です」
「なにを……っ」

 きっぱり言い切ると、母親は青くなって悲鳴じみた声をあげかけた、が、夫に手で制されて慌てたように悲鳴を飲み込んだ。

「医師としての判断、とは?」
「こちらをご覧ください」

 少々小さくなったとはいえ、まだまだ迫力のある浩介の父親に、若干ビビりながらも用意してきた資料一式を手渡す。

 今日、一日かけて仕上げた資料だ。以前から、浩介の過換気症候群の症状については記録を取っていた。日本を離れていた間に、精神科医でもあるアメリカ人医師に診てもらっていた時期もあり、そちらの診断結果もすべて翻訳した。
 結論からいって、幼少期からのトラウマが原因でいまだ発作を起こしている状態なので、今、無理にご両親に会うことは危険である。こちらもカウンセリングに通わせるなど、よい方向に向かえるよう努力するので、ご両親の方でも配慮をお願いしたい。

「そんな……」
 おれがざっくりと説明すると、母親は見た目にも分かるほどブルブルと震えだした。

 一方、父親は冷静に資料を読み返していたが……

「あの出来損ないに伝えてくれ」

 バサリと資料をテーブルに置くと、おもむろに立ち上がった。

「葬式までは会いにこなくていい。外聞が悪いから葬式だけは来るように。遺産は遺留分以外はすべて各方面に振り分けるからそのつもりで。以上だ」
「あなた………っ」
「お前ももう浩介には関わるな」
「そんな………」

 さっさと部屋を出ていってしまった浩介の父……
 浩介の母は、引き留めようと手を挙げかけ……力なくその手を下ろした。

「………浩介は」

 母親が独り言のようにつぶやく。

「私がいないと何にもできない子で……ずっとずっと一緒にいてあげて……」
「……………」
「どうしてこうなったのかしら……いつからこんな…………」

 聞いているこちらも苦しくなってくる。
 浩介の母親は、愛情の形が歪んでしまっただけなのだ。浩介を愛していることに間違いはない……。

「あの……よろしければなんですが」
 別に入れてきた紙を手渡すと、浩介の母親の顔がみるみる引きつってきた。

「なに? 私にここに行けっていうの? 私の頭がおかしいとでも?」
「あ、いえ、そういうことではなく」

 予想通りの反応だ。
 今、手渡したのは心療内科クリニックのパンフレット。同僚の戸田先生のいる病院だ。戸田先生は火曜と木曜はうちの病院にきているけれど、他の曜日はこちらのクリニックで診療をしている。
 予定通りの返答を淡々とする。
 
「親子関係を改善させるための相談、といいますか、そういうこともしていますので、是非にと思いまして」
「……………」

 眉を寄せたまま、浩介の母はパンフレットを眺めている。

「もしよろしければ紹介させていただきますので……こちら、私の連絡先です」

 名刺の裏に携帯番号を書いたものをテーブルの上に置く。

「火曜と木曜でしたら、こちらの病院でも担当医師おりますので」
「…………渋谷君」

 ふいに言葉を遮られた。まじまじとこちらをみてくる浩介母。

「………はい」

 何を言われるんだろう、とドキドキしながら待っていると、

「なんだか……ずいぶん立派になったわね」
「え」
「すっかり大人ね」
「…………」

 そりゃまともにあったのは高校の時以来なんだから、大人にもなる。

「あなた、いつから浩介と一緒に住んでいるの?」
「………。8年半前からです」

 ここはウソをつかなくてもいいだろう。正直に答えると、浩介の母親は8年、8年……とブツブツ言ってから、

「それじゃあ、浩介はあかねさんと別れてから、またあなたに戻ったってことね。そう……こんなことなら……」

 あかねさんと別れさせるんじゃなかった。あかねさんは女性だからまだマシだったのに。……って、言葉には出していないけれども、その表情から感情がただ漏れている。あいかわらず正直と言うか失礼というかなんというか……。

「あかねさんとは今でも良い友人です。今、私達が住んでいるマンションも、あかねさん所有のマンションで……」
「え、そうなの?」

 浩介の母親の目がまん丸くなる。その顔、妙に浩介に似ている……。

「じゃあ、あかねさんはどこに?」
「あかねさんは、新しい家族と一緒に暮らしていて……」
「まあ。ご結婚されたのね?」
「いえ、お相手は女性なので結婚は……」
「……………」

 はああ……と大きくため息をついた浩介の母。理解できないわ、と首を振り続けている。

「それじゃ、私はこれで……」

 もうこれ以上ここにいる必要はない。言うべきことは言った。
 あとは、ご両親が浩介にちょっかいだしてこないことを祈るばかりだ。今の感じだと父親は大丈夫そうだが、母親は……

「渋谷君。ちょっと待ってて」
「はい」

 呼び止められ、玄関先で待っていると、台所に一度引っ込んだ浩介の母親が、苺の入ったビニール袋を持って出てきた。

「これ、浩介に渡してくれる? 浩介、苺好きだから……」
「…………はい」

 ぐっと胸が苦しくなる。
 どこのうちの母親もそうなんだろうか。うちも遊びに行くと、おれの母親があれ持っていけこれ持っていけ、と色々持たせてくれる……。

 浩介の母親は寂しげに微笑んだ。

「渋谷君も一緒に食べてね。この苺、甘くておいしいのよ」
「!」

 一緒に食べて、なんて言ってもらえるとは思わなかった。

「ありがとう……ございます」

 受け取って深々と頭を下げる。
 いつか、浩介も一緒にこのうちを訪れる日がくるまで……それまでもう少し待っていてください……。


にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「あいじょうのかたち」目次 → こちら
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする