獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

友岡雅弥さんの「地の塩」その13)認知症に対する意識が変われば社会はもっと豊かに

2024-05-27 01:11:26 | 友岡雅弥

友岡雅弥さんは、執筆者プロフィールにも書いてあるように、音楽は、ロック、hip-hop、民族音楽など、J-Pop以外は何でも聴かれるとのこと。
上方落語や沖縄民謡にも詳しいようです。
SALT OF THE EARTH というカテゴリーでは、それらの興味深い蘊蓄が語られています。
いくつかかいつまんで、紹介させていただきます。


カテゴリー: SALT OF THE EARTH

「地の塩」という意味で、マタイによる福音書の第5章13節にでてきます。
(中略)
このタイトルのもとに書くエセーは、歴史のなかで、また社会のなかで、多くの人々の記憶に刻まれずにいる、「片隅」の出来事、エピソー ド、人物を紹介しようという、小さな試みです。

 


Salt29 - 震災直後の奇跡、その一例

2018年7月2日 投稿
友岡雅弥


震災後、実際にあった「奇跡」の話をしたいと思います。岩手県大船渡です。
直接、その現場にも足を運びました。

ある社会福祉法人が運営する二つのグループ・ホームがありました。かなり進んだ認知症のかたがたが入所しています。

今の医療・介護の「常識」、いや「通念」として、あまり知らない人や大勢の人と顔を合わせると、認知症のかたがパニックになる、ということで、小高い丘に「孤立」 してありました。

2011年3月11日、大船渡に津波が襲いました。

下の町は壊滅です。

一つのグループ・ホームは、津波のために道路が寸断され、陸の孤島となった赤崎町後ノ入(のちのいり)にありました。

グループホームは、前述のように、町とは離れた小高い丘にあったので、津波の被害は免れました。

家を流された、下の町の人たちが、泥だらけ、裸足で駆け、無事だったグループホームに駆け込んできました。

知らない人たちがどんどん入ってくる。
暮らしているのは、いつも数人。そこに百数十人です。

入所者は、想定通りパニックになり、騒ぐ。飛び出そうとする。避難してきた住民の人も不安になる。
職員さんは、「これから地獄が始まるか」と思ったそうです。

ところが。

避難してきた人のなかに、一人の女性がいて、子どもさんが行方不明であると、泣き叫びます。

すると、一人の認知症のおばあちゃんが、まるで赤ちゃんをあやすように、「よしよし」と、その女性に添い寝をし始めたんです。

パニックで泣き叫んでいた女性は、安心して、疲れたのか、すやすやと寝息をつきはじめました。(後日、お子さんは無事みつかりました)

翌日です、グループホームなので、食料はあります。でも、ガスなどのインフラが寸断されています。

ここで、別の認知症のおじいちゃんが、枯れ木で火をつけて、かまどでご飯を炊いて、みんなに食べさせはじめたのです。ご飯をもらって、子どもたちが、やっと笑顔を見せました。

自衛隊が数日後来るまで、一つ屋根の下で、百数十人が家族のように暮らしたのです。だれが采配を振るうわけではなく、御高齢の入所者も、壮年も婦人も、子どもたちも、みんな自分で考えて、それぞれの役割で動き、自主的に運営をし、生き延びたのです。

もう一つのグループホームは、平(ひら)地区にありましたが、ここでも同様でした。

この社会福祉法人は、認知症の介護については、高い評価を得ていました。それでも、やはり重い認知症の人は、あまり人と交流はさせないほうがいいと思っていた。それが 「通念」だったのです。

この震災の時の経験、つまり、人の可能性の奇跡、どんな人でも、他者にとって奇跡となる可能性があるということから、法人本部は、考え方を一変させました。

施設入所者と地域の人たち、また地域の人たちが共生し、交流する場所を作ろう。子どもから高齢者までが利用できる場所を作ろう。

名高い「気仙大工」の仕事ぶりが残る古民家を再生し、陸前高田の末崎町で「居場所カフェ」を作り、そこで「産直イベント」も行いました。

その法人が学んだこと――認知や体の障がいなどがでているような高齢者が、住民の人たちとともに暮らせるのだということです。

また、地域の人たちが、認知症のかたと身近に接することができたということ。

認知症のかたは急激な変化などに対応は困難かもしれませんが、ほとんどの時間はおだかやに過ごしています。そういうことを、多くの地域住民が共通に認識したのです。

住民の家族が亡くなったと聴いたとき、みんなで泣いたし、助かったというとみんなで喜んだ。喜怒哀楽の感情をみんなで味わったということも、とても貴重でした。

「認知症」に対する意識が変われば、社会ももっと豊かになるでしょう。

子どもや障がい者、またご病気のかた、高齢者。

――そういうかたを中心に回って行く地域というのは、自発の智恵や、能動のちからがでて、とても強くなっていきます。

「弱者」(この言葉、好きではないですが)を中心にすれば、社会は強くなっていくのです。

 

 


解説
「認知症」に対する意識が変われば、社会ももっと豊かになるでしょう。
子どもや障がい者、またご病気のかた、高齢者。
――そういうかたを中心に回って行く地域というのは、自発の智恵や、能動のちからがでて、とても強くなっていきます。

今回の話は、とくべつ胸に刺さります。

 


友岡雅弥さんのエッセイが読める「すたぽ」はお勧めです。

 


獅子風蓮