獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

総括:コロナワクチン その4 インフォデミックが広がる訳

2024-03-02 01:06:30 | 反ワクチン・陰謀論

新型コロナウイルスも度重なる変異を繰り返すことで弱毒化し、国民の多数が感染やワクチン接種による免疫を得ることで、新型コロナの感染者数も落ち着いてきました。

反ワクチンの人々はこの間、いろいろ無責任なことを言ってきましたが、ここらへんで一区切りですね。総括しておきましょう。

 

d-マガジンで興味深い記事を読みました。
何回かにわけて引用します。


ニューズウィーク日本版 2月20日号

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あなたが打った
ワクチンの真実
医療
コロナワクチンのせいで過剰に人が死んでいる? 
国内外のデータを基に誤情報と陰謀論を検証する
國井 修
(元長崎大学熱帯医学研究所教授)

(つづきです)


インフォデミックが広がる訳

誤った情報が急速に拡散し、社会に影響を及ぼすインフォデミックや陰謀論を基にしたプランデミックは全くの嘘でなくとも、信頼できないデータや情報を基にしていたり、信頼できるデータや情報を使っていてもその解釈やそこからの推測が誤っていたりすることがある。 ここで重要なのは科学的な議論であり、それには普遍性(いつどこにでも妥当する)、論理性(主張が首尾一貫しており理論の構築や用語に至るまで一義的である)、客観性(物事の存在が主観によって左右されない)が必要だ。
ただし、インフォデミックやプランデミックがなぜ世界中で巻き起こるのかも考える必要がある。突如として現れて世界を席巻した新型コロナウイルスは未知のものであり、そこから1年以内にmRNAという新たな技術で作られたワクチンは未曽有のものだった。初めから全てのことを科学的に説明できたわけではなく、普遍性、論理性、客観性のある議論は簡単ではなかった。
そんな中でロックダウン(都市封鎖)やさまざまな活動の自粛など個人の自由が制限され、ワクチン接種を義務化する国もあった。そこには個人の自由や権利が奪われ、権力への不満や敵意まで感じる人もいた。
当時、筆者はヨーロッパに住んでいたが、周りにそのような感情を持つ人が少なからずいた。新たな技術に不安も募る。政府は大丈夫と言うが、接種した人の中には重篤な副反応を訴える人もいる。死者もいるらしい。それを報告しても、ワクチンとの因果関係は99%が「情報不足などで評価できない」と判断される。
そんな中で「ワクチンは危ない」「信用できない」という情報があったらそちらに耳を傾け、その情報を信じ込んでしまうかもしれない。その情報源が商売や金儲けを含む意図で嘘や誤った情報を流そうとしていたとしても。
ワクチン接種後に重篤な疾病にかかった人や、家族が死亡して取り残された人々にとって、 科学の普遍性、論理性、客観性を追い求めた議論や結論よりも、ワクチンに対する納得できない、やるせない思いに重きを置くのは当然かもしれない。
だからこそ、ワクチンの有効性と安全性をより迅速に正確に把握し、分かりやすく国民に伝えていくことが重要だ。特に安全性についてはリアルタイムでモニタリングし、シグナルを早期に検知して、健康問題とワクチン接種との因果関係をより明確にできるシステムを構築する必要がある。
ただし、こうしたデータがそろっているアメリカやイギリスでも、いざワクチン接種との因果関係を突き止め、健康被害として補償する段階になるとそううまくはいっていない。
アメリカでは今年1月1日時点で1万2854件の新型コロナワクチンに対する補償制度への申し立てがあったが、1万640件が審査中または審査保留となり、判決が出た2214件のうち補償対象となったのは40件のみで98%以上は却下されている。支払われても1人2900ドルで、痛みや苦しみを十分補償しておらず、判断に透明性がないとの批判がある。
イギリスでも、23年6月13日時点で5708件の申し立てがあり3889件が審査中。1614件が却下 され、96人が補償対象となったのみ である。


次のパンデミックは必ず来る

世界のどこの国でも、今まで健康だったのにワクチン接種後に重篤な健康問題が突然現れたならば、ワクチンのせいにしたくなる。それに対して補償も十分でなければ、その不満や不信はインフォデミックやプラデミックの火種にもなるかもしれない。
日本としても今後、ワクチンの安全性に関するより科学的なアプローチとともに、ワクチン接種後に重篤な副反応の疑いがあった人や家族には、個別の相談やカウンセリングなどでその痛みや苦しみに耳を傾け、できるだけ寄り添うことのできる制度や仕組みが必要だろう。
因果関係が否定できない場合には、日本には「健康被害救済制度」があるが、その申請や判断、手続きなども含めて、健康被害者にとって納得いくものかどうか、再検討も必要かもしれない。
次のパンデミックは「来るかどうか」ではなく、「いつ来るか」の間題である。そのための備えとして、国産ワクチンの研究開発だけでなくワクチンの安全性についてのモニタリングを強化し、国民の不安や懸念に向き合い、いざというときの相談や補償も強化していくことが重要である。それがワクチンに対する国民からの長期的な信頼を得ることにもつながるだろう。


(筆者はジュネーブにある国際機関「グローバルファンド〔世界エイズ・結核・マラリア対策基金〕」の前職略・投資・効果局長。元長崎大学熱帯医学研究所教授。これまで国立国際医療センターやユニセフなどを通じて感染症対策、母子保健、緊急援助などに従事し、110ヵ国以上で開発援助活動を行う。近著に『人類 vs 感染症:新型コロナウイルス 世界はどう闘っているのか」〔CCCメディアハウス〕がある)

 

 

 


解説
ワクチン接種後に重篤な疾病にかかった人や、家族が死亡して取り残された人々にとって、 科学の普遍性、論理性、客観性を追い求めた議論や結論よりも、ワクチンに対する納得できない、やるせない思いに重きを置くのは当然かもしれない。
だからこそ、ワクチンの有効性と安全性をより迅速に正確に把握し、分かりやすく国民に伝えていくことが重要だ。特に安全性についてはリアルタイムでモニタリングし、シグナルを早期に検知して、健康問題とワクチン接種との因果関係をより明確にできるシステムを構築する必要がある。
(中略)
次のパンデミックは「来るかどうか」ではなく、「いつ来るか」の間題である。そのための備えとして、国産ワクチンの研究開発だけでなくワクチンの安全性についてのモニタリングを強化し、国民の不安や懸念に向き合い、いざというときの相談や補償も強化していくことが重要である。それがワクチンに対する国民からの長期的な信頼を得ることにもつながるだろう。

同感です。

ワクチンに対する国民の不安を解消するため、いろいろな面で、科学的で迅速な情報を提供することが必要でしょう。

 


獅子風蓮


総括:コロナワクチン その3 ワクチン接種による死亡例は?

2024-03-01 01:52:47 | 反ワクチン・陰謀論

新型コロナウイルスも度重なる変異を繰り返すことで弱毒化し、国民の多数が感染やワクチン接種による免疫を得ることで、新型コロナの感染者数も落ち着いてきました。
反ワクチンの人々はこの間、いろいろ無責任なことを言ってきましたが、ここらへんで一区切りですね。総括しておきましょう。

 

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ニューズウィーク日本版 2月20日号

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(元長崎大学熱帯医学研究所教授)

(つづきです)


「ワクチンによる死亡」の実態

アストラゼネカ製とJ&J製のウイルスベクターワクチンでは、接種後の血小板減少を伴う血栓塞栓が報告されている。これはワクチン接種後4~28日に脳静脈や内臓静脈といった通常ではあまり発生しない場所に血栓症が生じるもので、発症メカニズムは明らかではないが、ワクチンに使用されているアデノウイルスが血小板に結合して活性化する可能性が疑われている。
アストラゼネカ製ワクチンは欧州では100万回接種当たり3.4件の発症が認められ、注意を喚起している。だがファイザー製とモデルナ製では、接種者と非接種者との比較で発生率の有意な増加は認められて いない。
ワクチンによる直接的な副反応とは言えないが、ワクチン接種によりウイルスに感染したときの症状が増強してしまうワクチン関連疾患増悪(VAED)という現象を懸念する人がいる。確かに、過去にはRSウイルスワクチンや不活化麻疹ワクチン導入時に観察され、またデング熱ワクチンでもワクチンによって誘導された抗体によって感染が増強する抗体依存性増強(ADE)の可能性 が疑われ、9歳未満では接種が中止されている。
ただし新型コロナについては、ファイザー製とモデルナ製ワクチンの動物実験によりVAEDやADEに関連する免疫誘導は見られず、実社会でもこの現象を裏付ける研究結果は認められていない。
これ以外にも脳卒中や認知症などワクチン接種による重篤な副反応ではないかと疑われた疾患はあるが、世界のさまざまな調査研究結果から、これらの疾患が自然発生率と比べてワクチン接種後に多く発生しているとのエビデンスはない。

ワクチン接種による最も重篤な副反応である死亡はどれだけあったのだろうか?
「ワクチンを打った時期に超過死亡が増えた」との言説が出回っているが、これはさまざまな研究で否定されている。
例えば日本では、ワクチン接種後でなく、接種前から死亡数は増えており、むしろ21年のデルタ株や22年のオミクロン株の流行による多くの超過死亡をワクチンによって防ぐことができたとも言える。アメリカでは政治的な影響もあり、ワクチン接種率の高い州と低い州の違いがあるが、ワクチン接種率の高い州で超過死亡は少なくなっている。
また欧州29カ国に関する研究では、初回および追加接種率をある時期までにそれぞれ70%、35%に達した早い国のグループとそのレベルに達しなかった遅い国のグループを比較すると、後者の新型コロナによる平均超過死亡は前者の約5倍だった。
では、実際にワクチンによる死亡はどの程度報告されているのだろう。
アメリカにはワクチン接種後に起こった健康問題を本人や家族、医療従事者など誰からでも自発的に報告できる「ワクチン有害事象報告システム(VAERS)」がある。今年1月25日時点で2万2225人の死者が報告されている。
このVAERSの死亡数を使って、実際のワクチン関連死は15万人以上だ、いや30万人だなどと勝手に臆測した数字がSNSなどで独り歩きした。このVAERSはワクチン接種によって何か問題が起きていないかのシグナルを検知するために広く一般や開業医などからも情報を吸い上げるもので、ワクチン接種との因果関係も情報の信頼性も不明である。何といっても、ワクチンの有無にかかわらずアメリカでは毎日2300人以上が心血管障害で死亡し、そ れを含む9400人以上が何らかの原因で命を落としている。それが起こる前にたまたまワクチン接種を受けていたということもあり得る。
ちなみにイギリスでは、医師の死亡診断書に新型コロナワクチンが死亡原因として記載されているものを集計して毎月報告している。23年7月30日時点で累計64例で、これをさらに精査した結果、ワクチンとの因果関係がありそうなものは56例となっている。当時、イギリスの人口のうち6000万人近くが少なくとも1回のワクチン接種をしていたと言われるので、新型コロナ流行中の約3年間で100万人当たり1人程度の死亡である。
また、ワクチン接種率がほぼ100%と高率であるカタールではワクチン接種後30日以内に死亡した例を全て登録している。その数は22年6月時点で138例であり、うちワクチンとの因果関係がある可能性が大および中程度と判断されたものは23例だった。当時約265万人がワクチンを接種していたので、100万人当たり10人未満の割合となる。


日本における「ワクチン死」

日本においても医療機関や製造販売業者から新型コロナワクチンの副反応疑いが報告されている。
23年7月30日時点で新型コロナワクチンは約4億回接種され、死亡はファイザー製1878例、モデルナ製236例を含め2117例が報告された。これらについては性別、年齢 接種したワクチンの種類・回数・ロット番号、接種日と死亡日、基礎疾患・既往症、服薬状況、死因や死亡の状況、報告医が死因等の判断に至った検査、他の要因の可能性などが詳細に報告され、不明な部分は受診した医療機関などに問い合わせてできる限りの情報を調べている。それらの情報を基に外部専門家らが評価して、ワクチンと死亡との「因果関係が否定できない(α)」 「因果関係が認められない(β)」「情報不足等により因果関係が評価できない(γ)」の3つに分類して報告した。
その結果、2117例中「因果関係が否定できない」とされたのは、ファイザー製ワクチンを3回目接種した2日後に「心筋心膜炎」で亡くなったとされる14歳女性と、ファイザー製を4回目接種した当日に「アナフィラキシー」の疑いで緊急搬送されたが最終的に死因が特定できなかった42歳女性の2例だった。
「因果関係が認められない」は、ワクチン接種4日後に誤嚥性肺炎で死亡した全介助状態の65歳男性やワクチン接種前から腹部大動脈瘤が切迫した状況であった93歳男性など11例。残りの2104例は「情報不足などで評価できない」と判断された。
その詳細を見てみると、90歳以上、時には100歳以上で高血圧・心臓病からまでさまざまな基礎疾患を持っていて、突然死で死亡原因がよく分からないものから、20~40歳代でワクチン接種後に突然死したのが基礎疾患によるものか否か情報がない、なかには精神疾患を発症して自殺したのでワクチンとの因果関係はなさそうだが、完全に否定もできないものまでさまざまである。
これらの中で原因究明のために検死をしたものは、わずか1割程度だったという。私も医師として過去に多くの突然死や心肺停止後の方を診たが、検死もせずに、また検死をしたとしてもその原因を突き止めるのは簡単ではなかった。
いずれにせよ、死亡報告された2117例のうち99%以上は「情報不足などで評価できない」と分類された。1億人以上がワクチン接種を受けて、報告された死亡数2117人とすると100万人当り約20人、「因果関係が否定できない」と判断された2人とすると100万人当たり約0.02人の死亡確率となる。
これらの報告データだけではワクチンの安全性が十分につかめないため、日本を含め世界でさまざまな調査研究がなされてきた。
例えば、日本国内において20年9月から1年間、18歳以上の22万人以上をワクチン接種群(1回接種13.6万人と2回接種12.7万人)と非接種群18.3万人に分けて180日以上観察した結果、 死亡はそれぞれ65人、65人、2316人と非接種群で多く、接種群の死亡リスクは非接種群よりも26分の1も少ないことが示されている。この研究で示された死亡はワクチンとの因果関係は追究しておらず、あくまで観察された死亡数であることに注意したい。
世界では同様に、接種群と非接種群に分けたランダム化比較試験が数多くなされているが、ワクチン接種によって死亡が増えるという結果はなく、むしろ接種によって死亡を防いでいるとのエビデンスが示されている。
感染症が猛威を振るっていた時代であれば、有効性の高いワクチンが感染や重症化を防ぐ利点を感じる度合いが大きいが、感染症が減り、その影響もあまり感じなくなってくると、予防接種のリスクのほうにより意識が高まるのは当然だ。
特にワクチンは本来、健康な人に接種するため、その安全性には高い水準が求められ、リスクに対する国民の許容度は低くなる。まれな副反応であってもしっかり検討すべきであり、因果関係があるのかないのかについても、より明確な情報を入手できるシステムが必要である。
その意味では、副反応疑いで死亡している人のほとんどが「情報不足などで因果関係を評価できない」という日本の現状を改善する必要がある。ワクチンの安全性をチェックできるよりよいシステムとして参考になるのが、アメリカのワクチン安全性データリンク(VSD)である。
VSDとは米CDCが90年に創設したプロジェクトで、9つの民間の病院群と共同でワクチンの安全性をモニタリングする。ここでは約1200万人の医療情報を集積している。
先述のVAERSは予防接種後の有害事象の全国からの自発的報告として比較的迅速にシグナルを検知できるが、データが不完全で、報告バイアスがあり、比較群が欠如している。一方、VSDは医療機関でのさまざまな検査データを含めた電子カルテの情報と正確な予防接種に関するデータなどがつながっているため、ワクチン接種群と非接種群との比較、ワクチン接種前の健康問題や基礎疾患の有無などの分析により、ワクチン接種後の健康問題とワク チンとの因果関係も見えやすい。
さまざまなデータを自動解析し、統計的に有意な問題があればそれをほぼリアルタイムで検出でき、毎週データを更新できるので、未知であるとかまれな副反応疑いも見つけやすい。 ネットワーク内の各地域に医師、疫学者を含む専門家もいるため、これらのデータを基に新たな研究も計画・実施できる。

(つづく)


解説
「ワクチンを打った時期に超過死亡が増えた」との言説が出回っているが、これはさまざまな研究で否定されている。
例えば日本では、ワクチン接種後でなく、接種前から死亡数は増えており、むしろ21年のデルタ株や22年のオミクロン株の流行による多くの超過死亡をワクチンによって防ぐことができたとも言える。アメリカでは政治的な影響もあり、ワクチン接種率の高い州と低い州の違いがあるが、ワクチン接種率の高い州で超過死亡は少なくなっている。

このことは、事実として押さえておきましょう。
その上で……

(日本では)死亡報告された2117例のうち99%以上は「情報不足などで評価できない」と分類された。(中略)

特にワクチンは本来、健康な人に接種するため、その安全性には高い水準が求められ、リスクに対する国民の許容度は低くなる。まれな副反応であってもしっかり検討すべきであり、因果関係があるのかないのかについても、より明確な情報を入手できるシステムが必要である。
その意味では、副反応疑いで死亡している人のほとんどが「情報不足などで因果関係を評価できない」という日本の現状を改善する必要がある。ワクチンの安全性をチェックできるよりよいシステムとして参考になるのが、アメリカのワクチン安全性データリンク(VSD)である。

これは、今後の課題として受け止める必要がありますね。

 

獅子風蓮


総括:コロナワクチン その2 安全性はどうだったのか?

2024-02-29 01:16:43 | 反ワクチン・陰謀論

新型コロナウイルスも度重なる変異を繰り返すことで弱毒化し、国民の多数が感染やワクチン接種による免疫を得ることで、新型コロナの感染者数も落ち着いてきました。

反ワクチンの人々はこの間、いろいろ無責任なことを言ってきましたが、ここらへんで一区切りですね。総括しておきましょう。

 

d-マガジンで興味深い記事を読みました。
何回かにわけて引用します。


ニューズウィーク日本版 2月20日号

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あなたが打った
ワクチンの真実
医療
コロナワクチンのせいで過剰に人が死んでいる? 
国内外のデータを基に誤情報と陰謀論を検証する
國井 修
(元長崎大学熱帯医学研究所教授)

(つづきです)


ワクチンが実際に防いだもの

実社会においてはどうなのか。さまざまな研究が行われてきたが、なかでも世界に先駆けてワクチン接種を全国展開したイスラエルで実施された大規模研究では、ファイザー製ワクチンの接種群と非接種群それぞれ59万人を比較したところ、2回接種により感染率を94%、入院率を87%、重症化率を92%下げていたことが分かった。
米疾病対策センター(CDC)の報告ではモデルナ製でも似たような高い有効性が示され、イギリスからの報告ではアストラゼネカも1回接種の発症予防効果は73%と悪い結果ではなかった。
しかし、ワクチン接種が増えても流行が続き、接種しても新型コロナに感染した人の話を聞くと、「ワクチンは本当に効いているのか」と疑問に思った人も多いのではないか。
実際、新型コロナワクチンには2つの難しさがあった。1つはmRNAワクチンの免疫誘導力は強いが、その自然減衰も速いということ。ファイザー製ワクチンでは接種6カ月後に抗体価が約10分の1に低下してしまうとのデータもある。
2つ目は新型コロナウイルスの変異速度が速いため、変異株に対してはワクチンの有効性が下がる傾向にあることだ。特にオミクロン株には起源株で開発したワクチンを接種しても感染してしまう「ブレークスルー感染」を引き起こし、イギリスのデータではオミクロン株に対する発症予防効果がファイザー製で8.8% モデルナ製で14.9%と大きく下がっていた。
日本の調査でも発症予防効果はほぼ半減との結果だ。さらに最近では XBB1.5やEG.5、JN.1などオミクロン株の亜系統も出現し、起源株によるワクチンの効果が下がっているとの報告もある。
ではワクチン接種は意味がないのかというと、そうではない。3回目の追加接種をすることで2回接種に比べて発症率を75%、入院率を80%下げるとのイギリスの報告をはじめ、入院率を93%、重症化率を92%、死亡率を81%下げるとのイスラエルの研究結果もあり、追加接種の高い有効性を示している。
また、4回目の追加接種により、3回接種に比べてオミクロン株流行下のブレークスルー感染率を3分の1程度に抑え、発症や重症化も半分から3分の1に減少させるとのデータのほか、60歳以上では発症率を55%、入院率を68%、死亡率を74%下げる、という研究結果もある。これ らのエビデンスにより、多くの国で特にリスクの高い人々に対する追加接種が推奨されているのだ。
さらに起源株のワクチンだけでなく、BA.1やBA.4-5などオミクロン株に対応したワクチンの有効性も示され、アメリカの研究では発症予防とともに、73%の入院予防効果を示した。
オミクロン株の出現で30歳未満の若年層も多く感染し、さらに起源株ではあまり見られなかった5歳未満児の感染・重症化が目立つようになった。特にアメリカでは新型コロナによる子供の1日当たりの死亡数がオミクロン株流行後は10倍に増加し、子供へのワクチン接種も推奨されるようになった。5~11歳の子供を対象としたアメリカの研究では、ワクチン接種群は非接種群に比べ感染率を74%、重症化率を76%、集中治療を要する入院率を85%下げている。
ワクチン接種によるパンデミック収束を期待していた人々にとっては劇的な効果に見えなかったかもしれないが、世界のさまざまなデータを基に推計すると、20年12月からの1年間だけでワクチン接種によって世界で1980万人の命が救われたとの推計もある。
つまりワクチンがなければ今の5倍以上に死者が増えていた可能性がある。京都大学の西浦博教授らの研究でも、ワクチンがなければ日本国内の21年2~11月の死者は約36倍に増えていた可能性が指摘されている。
では安全性はどうだったのか? 
まずワクチン接種で留意すべき副反応はアナフィラキシーショックである。急性のアレルギー反応で、軽いものは蕁麻疹程度だが、くしゃみ、吐き気、下痢など複数の症状が現れ、重篤になると呼吸困難や動悸、さらに血圧と意識が低下して命に関わることもある。これらがわずか30分以内に起こることもあるのだ。


「重篤な副反応」疑いの例

CDCによると、ファイザー製ワクチンの初回接種によるアナフィラキシーの発生頻度は100万回接種して4.7例、モデルナ製では2.5例、日本ではファイザー製で100万回接種当たり3.6例、モデルナ製で1.6例が報告されている。
適切な問診と処置をすればアナフィラキシーによる死亡はめったに起こらないが、アメリカではカンザスシティーに住む68歳の女性などがアナフィラキシーの疑いで死亡している。世界14カ国にわたるの研究では新型コロナワクチンによるアナフィラキシーは7942例、うち死亡は43例だった。
インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーの発生頻度は接種100万回当たり1.3例で、それに比べるとやや多いが、食物によるアナフィラキシーを経験したことのある小中高生は日本で100万人当たり約6200人、食物によるアナフ ィラキシーで死亡する人が毎年3人ほどいることを考えると、新型コロナワクチンのアナフィラキシーが必ずしも多いとは言えない。
ワクチンに関連する重篤な副反応の疑いとして心筋炎や心膜炎もある。メカニズムは不明だが、ワクチン接種による発熱や免疫反応の活性化により心筋などの炎症が引き起こされる可能性が考えられている。世界中から報告があるが、日本ではワクチン接種後に10代男性で起こる心筋炎の発生頻度はファイザー製で100万人当たり3.69件、モデルナ製で28.8件である。
一方、新型コロナの感染自体による心筋炎の発生は100万人当たり220件、特に新型コロナに感染したアメリカの平均19歳のスポーツ選手では2.3%、100万人当たりにすると2万3000人に心筋炎が発生する計算になる調査結果もあり、心筋炎・心膜炎はワクチンによって起こるリスクよりも、ワクチンを接種せずに新型コロナに感染して心筋炎にかかる可能性のほうが圧倒的に高いことが示されている。
さらに、ワクチン接種によって起こる心筋炎や心膜炎のほとんどは回復するが、感染に伴う場合は「コロナ後遺症」として長期に症状が続くケースも多い。
顔面神経の機能不全で顔の片側の筋肉が突然動きにくくなったり動かなくなるベル麻痺も、特にmRNAワクチン接種後の発生が報告された。通常でも毎年100万人当たり150~300人の発生がある疾患だが、アメリカの600万人以上のデータを含む調査研究ではワクチン接種による過剰な発生は見られていない。
四肢の脱力、しびれ感が急速に全身に広がるギラン・バレー症候群(GBS)も、ワクチン接種後の副反応疑いとして報告されている。
GBSは一般的に風邪や下痢などの症状から発症するが、時にインフルエンザやポリオなどのワクチン接種や抗ウイルス薬、抗癌剤などの医薬品による副反応としても発症する。アメリカでの報告数は新型コロナ以前で年間100万人当たり10~20例で、インフルエンザワクチン接種によるGBS発生は100万回で1~2例であった。
新型コロナに対するファイザー製とモデルナ製ワクチン接種後のGBSの報告数は、アメリカで接種100万回当たり10例と自然発生率とほぼ同じだったが、ヒトのアデノウイルスをワクチン成分のベクター(運び手)に利用するジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)ワクチンではその15~30倍の発生率と高く、チンパンジー由来のアデノウイルスをベクターに利用するアストラゼネカ製ワクチンでも接種100万回当たり10例前後の超過発生が起こるとの研究結果もあり、注意が必要だ。
一方、新型コロナ感染によってもGBSは発症するが、イスラエルの研究ではその発症リスクが非感染者の6倍と高いため、mRNAワクチンで感染を予防したほうがGBSの発症リスクは低いと考えられた。
ウイルス感染後やワクチン接種1~4週間以内に起こる脳・脊髄の疾患に、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)がある。
人口100万人当たり8人ほどが罹患するまれな病気で、子供に多い。発熱や頭痛、吐き気などから始まり、意識障害やけいれん、手足が動かしにくい、目が見えにくい、しゃべりにくい、ふらつくなどの症状が現れる。多くは数日以内に回復し、6カ月以内にはほとんどの人が回復すると言われている。
新型コロナワクチン接種後の副反応疑いとして、世界で20件の研究報告から54症例が報告されたが、発生頻度は100万人当たり0.2例程度。これをワクチンによる副反応とするには頻度が低く、むしろ新型コロナ感染後に発生するADEMのほうが多いとの報告もある。

(つづく)


解説
世界に先駆けてワクチン接種を全国展開したイスラエルで実施された大規模研究では、ファイザー製ワクチンの接種群と非接種群それぞれ59万人を比較したところ、2回接種により感染率を94%、入院率を87%、重症化率を92%下げていたことが分かった。

実社会においても、ファイザー製コロナワクチンは、きわめて高い有効性を示しました。


実際、新型コロナワクチンには2つの難しさがあった。1つはmRNAワクチンの免疫誘導力は強いが、その自然減衰も速いということ。ファイザー製ワクチンでは接種6カ月後に抗体価が約10分の1に低下してしまうとのデータもある。
2つ目は新型コロナウイルスの変異速度が速いため、変異株に対してはワクチンの有効性が下がる傾向にあることだ。

しかし実際には、このようにワクチンには、2つの難しさがありました。

 

ワクチン接種によるパンデミック収束を期待していた人々にとっては劇的な効果に見えなかったかもしれないが、世界のさまざまなデータを基に推計すると、20年12月からの1年間だけでワクチン接種によって世界で1980万人の命が救われたとの推計もある。
つまりワクチンがなければ今の5倍以上に死者が増えていた可能性がある。

このことは、了解しておく必要があります。

 

安全性はどうだったのか?
(中略)
心筋炎・心膜炎はワクチンによって起こるリスクよりも、ワクチンを接種せずに新型コロナに感染して心筋炎にかかる可能性のほうが圧倒的に高いことが示されている。

アナフィラキシーの発生頻度は他のワクチンに比べてやや高かったことは事実だが、ワクチン接種現場で適切な処置が行われればめったに死亡することはありません。
心筋炎や心膜炎は重篤な副作用ですが、ここに書いてあるように、ワクチン接種せずに新型コロナに感染した場合のリスクの方が高いのです。

ギラン・バレー症候群(GBS)についても、同じような考察がなされています。

 

獅子風蓮


総括:コロナワクチン その1 ワクチンは本当に効いていたのだろうか?

2024-02-28 01:42:20 | 反ワクチン・陰謀論

新型コロナウイルスも度重なる変異を繰り返すことで弱毒化し、国民の多数が感染やワクチン接種による免疫を得ることで、新型コロナの感染者数も落ち着いてきました。

反ワクチンの人々はこの間、いろいろ無責任なことを言ってきましたが、ここらへんで一区切りですね。総括しておきましょう。

 

d-マガジンで興味深い記事を読みました。
何回かにわけて引用します。


ニューズウィーク日本版 2月20日号

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HERE ARE THE FACTS
あなたが打った
ワクチンの真実
医療
コロナワクチンのせいで過剰に人が死んでいる? 
国内外のデータを基に誤情報と陰謀論を検証する
國井 修
(元長崎大学熱帯医学研究所教授)

超スピードで開発された新型コロナウイルスのワクチンは、2023年末までに世界で約136億回接種された。一方で、国内外の一部ではその危険性を訴える声が拡散し続けている。本当のところ、ワクチンの有効性と危険性はどうなのか。世界の感染症対策をリードしてきた医師の國井修氏が国内外のデータを基に検証した。そこから見えてきたコロナワクチンの真実とは?(本誌編集部)


ワクチンにはデマや誤情報が付き物である。古くから「ポリオや麻疹などのワクチン接種で HIVに感染する/不妊になる/自閉症になる」などがあったが、現在でも「新型コロナウイルスやインフルエンザのワクチン接種で過剰に人が死んでいる/闇の政府が絡んでいる」などの言説がSNSなどで広がっている。パンデミックにちなんで、こうしたデマや誤情報が広がることをインフォデミック(infodemic)、陰謀論が広がることをプランデミック(plandemic)と言う。
私はこれまで30年以上、主に途上国の感染症対策や母子保健に従事し、現在は結核やマラリア、顧みられない熱帯病などの感染症の研究開発支援をしているが、さまざまなワクチンに関し、多くの国で同じようなデマや誤情報が広がるのを見聞きしてきた。そうして人々の間にワクチン忌避が広がり、感染や死者が増える現実も目の当たりにしてきた。
本稿では新型コロナパンデミックを振り返り、実際にワクチンは有効だったのか、それによるワクチン後遺症や死者はどれほどいたのか、今後、新型コロナに限らず、ワクチンに対してどのような情報を信じ、どのように対処したらいいのかを国際的データを使いながら考えてみたい。
新型コロナワクチンには、2020年12月2日にイギリスで世界初の緊急使用許可を得た米ファイザーとビオンテックが共同開発したmRNAワクチンを筆頭に、WHO(世界保健機関)が緊急使用リストに入れたものが16製品ある。世界で研究開発が進められたワクチン候補は240を超え、その臨床試験は80カ国800件以上実施された。そこから選ばれた16製品は、研究開発の方 法、製品の品質・安全性・有効性・免疫原性(抗原が免疫反応を引き起こす能力)・効能などの観点から厳しい審査を通過したものと言える。
新型コロナワクチンは23年末までに世界で約136億回接種され、初回ワクチン接種と追加接種はそれぞれ世界人口の7割、3割をカバーしたとされる。ただし、国民のほぼ100%が接種している国もあれば、5%に満たない国もあり、その格差は大きい。ちなみに日本は、24年2月6日時点で4億2200万回以上が接種され、1回目接種は人口の8割超、特に高齢者は9割超、3回目接種も人口の約7割をカバーし、接種率は世界のトップクラスだ。
この新型コロナワクチンは本当に効いていたのだろうか?
ワクチンの有効性は病原体やワクチンの種類によって大きく異なる。例えば天然痘や麻疹のワクチンであれば、1~2回の接種で100%に近い感染予防効果を示し、その効果は一生続くため、接種率を上げれば感染者や死者数を急速に減らすことができる。天然痘が根絶できたのも、麻疹による死亡が急減したのもワクチンの役割が大きい。
一方、新型コロナについては、世界でワクチン接種が広がりながらも、なかなか流行が止まらず、増加したように見える国もあった。そのため、有効性を疑問視する人が少なくない。


そもそも「有効性」とは何か

ここで有効性とは何か、いかにそれを測定するかを整理したい。有効性には大きく分けて、①感染・発症の予防 ②重症化・死亡の予防の2つがある。この有効性の評価方法には、①ワクチンで誘導される免疫力を血液で測る ②臨床試験で接種群と対照群に分け、発症率・重症化率・致命率などを比較する ③ワクチン普及後に目的の感染症の発症や死亡が実社会でどのくらい減少したかを測る、という3つがある。
まず免疫力は、ウイルスと闘う中和抗体などの物質がワクチン接種によってどれだけ増加するかを測るが、日本で承認されているワクチン全てで大幅な上昇を示し、なかにはこれらの抗体価が50倍以上に上昇したものもある。
次に臨床試験での有効性だが、20年11月に公表されたファイザー製ワクチンの臨床試験データの最終分析結果には世界が驚いた。発症予防の有効性が95%というのだ。
誤解しやすいので説明しておくと、これは100人がワクチンを受けて95人が感染しないというものではない。ワクチンを接種したグループと接種しないグループの間で感染・発症や重症化を比較して、どれだけ予防できたかを示すものだ。
例えば1000例にワクチン、1000例にプラセボ(有効成分や害のない偽薬)を接種し、プラセボ群で100例、接種群で5例が感染した場合、プラセボ群の感染リスクは 100/10000=0.1(10%)、接種群の感染リスクは5/1000=0.005(0.5%)となる。
接種群の感染リスクをプラセボ群の感染リスクで割ったもの(0.5/10=0.05)をリスク比と呼び、プラセボ群に比べてどれほど接種群に発症リスクがあるかを示し、1-リスク比(1 - 0.05=0.95)は逆にどれだけリスクを回避したかを示す。これが有効性95%となる。
ファイザーの臨床試験には接種群2万1720人、プラセボ群2万1728人が参加。新型コロナを発症したのは接種群で8人プラセボ群で162人であり、各群の発症リスクからリスク比を求めると4.9%、従って有効性は95%とされた。ちなみに重症患者はワクチン接種群で1人、プラセボ群が9人で重症化予防も約90%と高い有効性が示された。
同じmRNAのモデルナ製も似たように高い発症予防効果(94.1%)を示し、mRNAではなくベクターワクチンであるアストラゼネカ製も約70%の効果だった。ワクチン開発前、WHOや米食品医薬品局(FDA)では予防効果が50%以上であることをワクチン承認の条件としていただけに、いずれのワクチンも高い有効性を示したことになる。

(つづく)


解説
この新型コロナワクチンは本当に効いていたのだろうか?


一般的なワクチンの有効性の求め方について分かりやすい説明がありましたね。

初期の新型コロナの株については、mRNA型のワクチンに関していえば、90%以上の高い有効性を示していたことは事実です。


獅子風蓮


興味深い記事:カネのために国会議員になった男ガーシーの正体

2023-05-03 01:43:19 | 反ワクチン・陰謀論

少し前ですが、d-マガジンで興味深い記事を読みました。

引用します。


サンデー毎日 2023年4月30日号

シリーズ・路上のデモクラシー 石戸諭

「カネ」のために国会議員になった男

「公共性」とは無縁だったガーシーの正体

 

一連の「ガーシー騒動」とは何だったのか。ガーシーこと東谷義和元参院議員(51)は除名され議員の資格を失い、さらに警視庁の捜査が続く。しかし、ご本人はドバイ(アラブ首長国連邦)から帰国する気配もない。気鋭のノンフィクションライターがガーシーの内奥に迫 り、その行為は公共性とは無縁だったことを喝破する。(一部敬称略)

ここ最近、月刊『文藝春秋』の依頼でルポを書くために、ガーシーこと東谷義和元参院議員を追いかける日々を送っていた。
22年2月に芸能人の醜聞を暴露するユーチューブを開設し、瞬く間にトップユーチューバーの仲間入りを果たした東谷は、同年7月の参院選に旧NHK党から立候補すると2万票余を集め当選を果たしてしまった。
だが、UAE=アラブ首長国連邦の都市ドバイを拠点として一度も日本に帰国することがなかったばかりか、かつての暴露動画によって現職期間中に暴力行為等処罰法違反(常習的脅迫)などの容疑で警視庁の捜査対象になった。国会の召集を徹底して拒んだ東谷は、参院懲罰委員会で決議された「陳謝」にも応じず、3月15日の参院本会議で「除名」が可決された。
そして、除名の翌日にはネット上の暴露が名誉毀損、常習的脅迫などの容疑で、逮捕状が出されるに至った。まもなくして、兵庫県伊丹市の実家などに警察の家宅捜索が入る。東谷はインターネット上で涙ながらに「オカンは関係ないやろ」などと訴えたが、実家の捜索が捜査に必要なものであることは明白であり、支持者以外は同情しなかった。今後も粛々と捜査は進行していくが、ドバイ在住にあたって長期ビザを取得している東谷が帰国を選択することもないだろう。
事件そのものはしばらくの間、こう着状態となりそうだが、興味深いのはいまだに彼を正と邪の境界を引っ掻き回すトリックスター、もしくはダークヒーローと期待する声が根強く残っていることだ。私が見るに、彼のシンパの望みが叶う可能性は極めて低い。なぜなら、彼の発言や一連の行動にはほとんどと言っていいほど、「公共性」がないからだ。
彼がそもそも国会議員を目指したのは、本人も公言しているように「カネ」のためだ。

同じ意見を持つ単一的な空間

ことの発端は、芸能界とつながりが深かった東谷が高額レートの違法ギャンブルで作った借金にある。勝てば数千万単位のカネが手に入り、負ければ一気に失う。手持ちの現金がなければ、カネを借りてでも埋め合わせなければいけない――。そう考えた彼が資金源としたのは、“アテンダー業”で知り合った芸能人からの借金と詐欺行為だった。
その一つが韓流アイドルグループ「BTS」の名前を使ったものだ。東谷が経営するアパレル会社がグッズを手がけることになり、彼に航空機代とホテル代などを支払えば会わせることができる、というのが騙し文句だった。華麗な芸能界の人脈をちらつかせる東谷を信じ込んだBTSファンは、言われた通りの金額を振り込んでしまう。ところが、出国予定日直前になり、突如、旅行は中止になったと連絡が入り、返金をにおわせながら徐々に連絡は途絶えていく。いくつかの事実で人を信頼させ、肝心の部分は虚構だらけだった。こうして借金を膨らませた彼は、いよいよ追い詰められ知人を頼ってドバイへ と向かう。 彼の詐欺行為も広まっていくなか、関係を断ち切った芸能人も多かった。借金返済のために、東谷が手を染めたのが芸能人の暴露動画と選挙である。ユーチューブの収益化、旧NHK党からは政党交付金を原資とする“当選報酬”3億円を得るというシナリオは実現した。
一連の行為には裏切られた――と彼が感じている――芸能人への私怨、ギャンプルで作った借金を返済するための私益は確かに存在している。だが、それ以上のもの、すなわち公共的な問いは見えてこない。
大雑把なまとめになってしまうが、政治思想家のハンナ・アーレントは公共性についてこんなことを考えていた。アーレントが重視したのは、人々の「複数性」だ。一緒くたになるのではなく、異なる意見を持った人々が同じ空間に集って、共通の問題について開かれた議論を交わすことを政治、そして公共性の核心として捉えていた。
東谷にとって大切なのは、公的空間の中で議論を交わすことではなく自らの利益を守ることになってしまった、と見るのが妥当だろう。開かれた空間で異なる意見を持つ人々に語ることよりも、同じ意見を持つ単一的な空間で語ることを優先しているようにしか見えないからだ。
彼がこだわっていたのは、既得権益と戦っているという内向きの“物語”だった。
芸能界、実業家、そして既成政党の政治家が自分たちの利益を守るために、異物である東谷を排除しようとしている、それが今回の捜査であるという物語を生きている。彼は捲し立てるような関西弁で公権力を含む既得権益を批判し、自身の正当性を訴える。真実を語っている自分は、国策捜査と戦うのだ、といういささ大仰な主張を最後まで繰り返していた。その根拠とやらも彼やその周囲にいる人々は信じられるのかもしれないが、強固なものとは言い難い。
東谷の暴露を「一人週刊誌」「ガーシー砲」と持ち上げてきた人々がいる。彼らの発信は反マスメディア感情を刺激し、東谷の政治進出への期待感を高めた。なるほど、確かに法的リスクが伴う暴露行為で収益をもたらす構造は週刊誌のスクープとそう変わらないのかもしれない。だが、重要なのは公共性、開かれた空間のなかで、意見が異なる人々に向けて語れる言葉があるか否かだ。
私は、取材のなかで、少なくとも一度は政治を志した東谷にとって「民主主義とは何か」と尋ねてみた。答えはこうだった。
「民衆のためにある主義が民主主義やって思ってるから。選んでくれた30万人の有権者がいるのに、参議院のお爺ちゃんたちが反対しただけで除名にするのはもう民主主義じゃないって。日本はどこまでも資本主義なんやろうなと。お金を持ってる人、権力者が既得権益を持っていて、お金のない人、弱者といわれる人たちはどんどんダメになって いく」
この言葉を聞いた時、私は東谷をめぐる問題の本質的な部分が見えてきたように思う。彼はポピュリズムの担い手にはなり得ない。ポピュリストは少なくとも、人々の意思を代弁しようとする。人々、あるいはもっと狭い範囲かもしれないが支持者が思っていることを掬い取ろうと試みる。こう言い換えてもいい。ポピュリストもまた公共的な課題を語ろうとはする。お金がない人がどうすれば持てるようになるかを荒唐無稽なビジョンであったとしても、ポピュリストならば語るだろう。しかし、彼からこうした言葉を聞くことはない。自分の利益を守るための既得権益論ばかりが出てくるだけなのだ。
今、私たちが目の当たりにしているのは、あまりに私的でかつ関心の大半をカネにあると公言する人々が、政治を新しい“ビジネス”の場として見定めているという現実だろう。


公共性軽視で政治は動かせない

東谷が前例になってしまった以上、彼のような存在が旧N党に限らず、他の政党からも出てくる未来は容易に想像できる。「民主主義の危機」を嘆きたくなる人々もいるだろうが、私はそう絶望もしていない。今のところ私欲や目先の選挙戦術が公共性に勝る限り、私怨を晴らすか、せいぜい少数議席だけで終わる可能性のほうがはるかに高い。彼らが社会を変えることもなければ、政治家としての活動が持続する可能性も薄い。東谷を一時的に政治家にすることはできたが、政治家としての結果を残せなかったという前例もまた残っているのだ。
「政治家の暴露ネタは持っているが出していない。どうせ既得権益に潰されるから」というのが東谷や旧N党の言い分だったが、期待されたような政治家への暴露はほとんどと言っていいほどなかった。
それも当然の帰結である。30年近く、関係を構築してきた芸能界の暴露ならばいざしらず、いきなり飛び込んだ政治の世界でそう簡単に確度の高い情報が入ってくるわけがない。東谷が既成政党への不満をある程度吸収したことで支持を伸ばしたという分析も当たってはいるが、より重要なのは公共性を軽視する限り、政治を動かすことはできないということだ。
ガーシー騒動から見えてくるのは、たとえ偽善的だと揶揄されても、公共的な課題を語り続けることの大切さなのかもしれない。偽善は少なくとも善を意識する。彼らが語る露悪的なホンネの先には善すらないのだから。

 


解説
どうしてガーシーのような人がユーチューバーとして人気を博し、国会議員にまでなったのか、私には訳が分からなかった。
要するにお金に困ってユーチューバーになり、またお金に困って国会議員になったのですね。
呆れた人物です。
このような人物を自分の党の候補とした旧N党の立花氏もいいかげんな人物ですね。

この記事をどのカテゴリーに入れるか迷ったのですが、ガーシーを友人と公言してはばからない奥野卓志(たかしさん)にちなんで、「反ワクチン・陰謀論」のカテゴリーに入れました。

ちなみに、たかしさんのLINE VOOMの記事(2023.2.9)に次のような記載があります。
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久しぶりにドバイのお兄ちゃん(ガーシー)から連絡あって「拡散してな?」とのことだったので書きます(^^)

過去一くらい怒ってるお兄ちゃんの様子はコメント欄に貼り付けておきます

そして時を同じくしてNHK党の立花さんの動画もめちゃめちゃ勢いとエネルギーを感じたので貼り付けておきます

(以下省略)
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獅子風蓮