獅子風蓮のつぶやきブログ

日記風に、日々感じたこと、思ったことを不定期につぶやいていきます。

友岡雅弥さんの「地の塩」その6)「のだ塩」はご存知ですか?

2024-05-12 01:31:04 | 友岡雅弥

友岡雅弥さんは、執筆者プロフィールにも書いてあるように、音楽は、ロック、hip-hop、民族音楽など、J-Pop以外は何でも聴かれるとのこと。
上方落語や沖縄民謡にも詳しいようです。
SALT OF THE EARTH というカテゴリーでは、それらの興味深い蘊蓄が語られています。
いくつかかいつまんで、紹介させていただきます。

 


カテゴリー: SALT OF THE EARTH

「地の塩」という意味で、マタイによる福音書の第5章13節にでてきます。
(中略)
このタイトルのもとに書くエセーは、歴史のなかで、また社会のなかで、多くの人々の記憶に刻まれずにいる、「片隅」の出来事、エピソー ド、人物を紹介しようという、小さな試みです。


Salt11 - 塩を巡るちょっとした話

2018年3月26日 投稿
友岡雅弥

ちなみに、みなさん「のだ塩」はご存知ですか?

岩手の野田村でできる塩です。僕は「マイのだ塩」を持ち歩いています。てんぷらとかフライ、餃子、刺し身とかに、一振りすれば、びっくりするほどのおいしさです。

野田村は、震災後から、何度も訪れ、固有種の「山ぶどう」の収穫には、毎年、手伝いに行っている、個人的に思い入れのあるところです。

こののだ塩についても、思い入れがあります。

のだ塩は、直煮(ぢかに、ぢきに、直火炊き)製法という、海水を熱して水分をとばす方法で作られています。

ある程度、塩分濃度が濃くなるまで、化学的な方法とか、日光を使うのはありますが、最初から最後まで熱する直煮は、あまりありません。それだけ、燃料が豊富になければならないからです。

また、直煮で、水分を蒸発させるところは、日本で数ヶ所ありますが、ほとんどが、 重油で熱します。

あっというまに、蒸発するので、塩の結晶が成長しない。

野田村ののだ塩も、もともとは、重油直火炊きでした。

もちろん、「むかしむかし」は、違いますよ。よく燃える松の木を使うのです。江戸時代とか明治時代とかはね。

さて、 松と言えば

第二次大戦末期には、石油の代わりに、松から採った松根油(しょうこんゆ)が使われ、たとえば、ハンセン病で隔離されていた人たちは、その労働に駆り立てられ、それで手足を失った例がたくさんあります。ハンセンでは手足は失いません。ハンセン病入所者に対する強制労働、そしてたとえ、傷ができても治療をしてくれなかったことで、指を失ったりして、手足が不自由になったのです。

三陸沿岸は、海岸まで山が迫り、アカマツがたくさん生えて、そして、釜になる砂鉄がよく採れました。それで、直煮製法が昔から普及していたのです。

その塩は、牛(べこ)の背に乗せて、内陸部に運ばれ、米などと交換されていました。

なんと、塩だけではなく、鉄(砂鉄)も、牛の背に乗せて、鉄が採れにくい関東・中部地方まで運ばれたのです。

ほんとに、日本の産業の屋台骨を東北が支えていたんです。

『日本塩業体系──特論・民俗』所収の広山尭道「製塩技術の伝承と用具」に、直煮の地域分布表が載っていますが、それによると、岩手と福島(やはり、アカマツの山が海岸まで迫る)に、直煮は広く分布し、海岸が広い平野になっている宮城県には、直煮はありません(三陸リアス式海岸に属する気仙沼だけ、宮城県ですが、岩手と同じく、直煮はあります)。

というわけで、野田村には、昔々は松の、そして近現代になると重油直煮の製塩所がありました。

でも、その製塩所が津波で壊滅し、もうやめようということになったんです。しかし、これから、絶望から復活するときに、何を根本としたらいいのか、村中で話し合いがありやはり、牛で、盛岡まで運んでいた江戸時代以来の伝統を絶やしてはいけない、それこそが野田村だということで震災後復活するのです。

この時、すごかったのは、どうせ復活するならば、江戸時代以来の、薪でゆっくり直煮に挑戦しようということになったことです。

それで、今の場所(もう津波が来ない高台)に移動し、海水は、ポンプではなくて、トラックで運ぶ、そして、薪でゆっくり炊く。

ゆっくり炊くと、いろんなミネラル分を含む塩がゆっくりと結晶となり、水面に成長する。それを、すくい上げるのです。丁寧にね。

これが、ほんとにおいしい、のだ塩の製法の秘密です。ほんとに、手間ひまかけて、丹精込めて、まさに、手塩にかけて、です。

「にがり」という、(あまりおいしくない)不純物(豆乳に入れると、かたまり、それが豆腐になります)は、ゆっくり分離して下に溜まります。

その「にがり」は、高品位の「にがり」として、豆腐製造などに使うわけです。

毎度のことですが、ちょっと横道に逸れます。「むかしむかし」、三陸沿岸などで採れた塩を、内陸部の人たちが買うとき、「にがり」があまり分離していない、低品位の塩を買った例が、たくさんあります。

なぜか分かりますでしょうか?

「低品位の塩」=「高品位の塩」プラス「にがり」だからです。

買った低品位の塩をザルなどに入れて、下に瓶を置く。すると時間とともに、「にがり」が、下に垂れ落ちていく。もちろん、この「にがり」を、豆腐を凝固するために使ったのです。

低品位の塩は、安いし、しかもおまけで「にがり」まで付いてくる。「にがり」 を自分で取り除く方法さえ知ってれば、一石二鳥。

賢さって、日常生活から生まれるものですね。

 

 


解説
今回の話も面白かったです。
「のだ塩」いいですね、使ってみたいです。

友岡雅弥さんのエッセイが読める「すたぽ」はお勧めです。


獅子風蓮