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獅子風蓮のつぶやきブログ

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佐藤優『国家の罠』その66

2025-04-25 01:07:56 | 佐藤優

佐藤優氏を知るために、初期の著作を読んでみました。

まずは、この本です。

佐藤優『国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて』

ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。執筆活動を続けることの新たな決意を記す文庫版あとがきを加え刊行。

国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて
□序 章 「わが家」にて
□第1章 逮捕前夜
□第2章 田中眞紀子と鈴木宗男の闘い
□第3章 作られた疑惑
■第4章 「国策捜査」開始
 □収監
 □シベリア・ネコの顔
 □前哨戦
 □週末の攻防
 □クオーター化の原則
 □「奇妙な取り調べ」の始まり
 □二つのシナリオ
 □真剣勝負
 □守られなかった情報源
 □条約課とのいざこざ
 □「迎合」という落とし所
 □チームリーダーとして
 □「起訴」と自ら申し出た「勾留延長」
 □東郷氏の供述
 □袴田氏の二元外交批判
 □鈴木宗男氏の逮捕
 □奇妙な共同作業
 ■外務省に突きつけた「面会拒否宣言」
□第5章 「時代のけじめ」としての「国策捜査」
□第6章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
□あとがき
□文庫版あとがき――国内亡命者として
※文中に登場する人物の肩書きは、特に説明のないかぎり当時のものです。

 


第4章 「国策捜査」開始

外務省に突きつけた「面会拒否宣言」

6月5日、夜の取り調べ中に、拘置所職員がやってきて、「接見等を一部解除し、6月6日午前9時に外務省斎木昭隆(さいきあきたか)人事課長、大菅岳史(おおすがたけし)首席事務官との面会を許可する」との連絡があったので、私はその場で「面会を拒否する。そんな許可を俺は必要としない。今更なんだ。来るのが遅い」と凄みをきかせて述べた。
西村検事が「わかりました。すぐにこちらから外務省に佐藤さんは会う意思がないということを連絡しておきます」と言って、その場を納めた。職員が立ち去るとただちに西村氏は検察事務官を呼び、留守を頼み、十分程して戻ってきた。
「外務省に電話しておいたよ。『佐藤さんは会いたくないと非常に強い意思をもっておられるようです』と伝えておいた」
私は西村氏から「会うように」と説得されると思っていたが、そのようなことばは一言もなかった。
翌6月6日、朝いちばんで緑川由香弁護人との面会を終え、待合いボックスに入ると、拘置所職員が「1095番、一般面会、外務省、斎木課長他一名」と言ったので、私は「面会拒否」と答えた。暫くして、年輩の責任者が来て、「もしよかったら、面会拒否の理由を聞かせて」と尋ねるので、「面会拒否の理由の説明も拒否。半蔵門法律事務所の大室征男主任弁護人と接触してくれ」と答えた。

その夜の取り調べで、西村氏は「あなたはほんとうに先例のないことばかりするんだから。役人で検察庁の呼び出しに応じないのも初めてだし、起訴後、役所の人と会わないのもはじめてだ。前島君は会ったんだけれど、あなたから聴聞ができないので、さて外務省はあなたたちにどういう処分をかけたらいいのか困っているね。しかし、僕はこの問題に関しては中立」と笑いながら言った。
私は「外務省の人たちとは会わなくても、検察庁の任意取り調べには応じる」と答えると、西村氏は「御協力ありがとうございます」と言ったので、二人で笑った。
検察官と被告人の基本的利害が対立しているのに、心理的には妙な雰囲気になってきた。強制取り調べ期間が終わって、お互いに気が緩んでいる。検察官のペースに巻き込まれないようにと言い聞かせた。
西村氏からは、「前島君と三井物産との関係であなたにも聞きたいことがいくつかでてきたんだけど、協力してほしい」ということなので、私は実態について特に警戒心ももたずに話していた。

6月7日も三井物産の話が続くので、私が「再逮捕でも考えているのか」と尋ねると、西村氏は「今のタイミングでは何とも言えないね。全体像を見てからの話だ」と答えた。西村氏の尋問も、背任事件のときとは異なり、形だけ聞いてみるという感じだったので、私としてもこの件で再逮捕される可能性については考えていなかった。むしろ中央アジア絡みで私と鈴木宗男氏を絡める事件を作ろうと西村氏が知恵を巡らしているのではないかと疑っていた。

しかし、週明け、6月10日月曜日の大森一志弁護人が伝えてきた新聞記事の内容で、私は認識を全面的に改めることになる。
大森弁護人は「8日付日経新聞朝刊に、佐藤さんの指示で前島が三井物産に国後島ディーゼル発電機供与事業の入札価格を漏洩したという記事がでているんですが、気味が悪いです。ソースは特捜と思われるので、十分に注意してください」と言う。
私は、週末の西村検事による取り調べについて説明した。

その日の夜の取り調べで、私は単刀直入に切り出した。
「土曜日(6月8日)の日経新聞に、僕が三井物産に入札価格を漏らしたという記事が出ているんだけれど、新聞に出すのは最終段階だよね。これが特捜のやり方なのかな」
西村氏は怪訝な顔をして「なあに、その話」と答える。
私が記事の内容について述べると、西村氏は事務官を呼び、一時退席した。戻ってきた西村氏は、憤慨した口調でこう言った。
「ほんとうに知らなかった。いまディーゼル班に文句を言ってきた。『僕はいま、佐藤に日経新聞の記事についてどうなっているのかと詰め寄られているんだぞ、いったいどうなっているんだ』と。あなたには正直に言うが、ディーゼルと僕のやっている外務省関連事件は班が違うんだ。僕は完全情報をもっていない。だからどういう構成で事件を作ろうとしているかわからないんだ。僕だって「ガキの使い」じゃないんだから、こんな取り調べはやらない」
事実、その後、1週間、西村氏は三井物産絡みの尋問をしなかった。私は、「任意取り調べ期間に、西村さん以外の検察官から要請が来ても断る。再逮捕になった場合も西村さん以外が担当ならば、房籠もり、仮に強制取り調べになっても、完全黙秘をする」と伝えた。
西村氏は「そういうこと言わないで。別の検事が話を聞きたいと言ってきても、一回だけは取り調べに応じて。そうじゃないと僕があなたを囲い込んでいると思われる」と冗談半分に答えた。
弁護人は毎日面会に来る。東京拘置所の面会室は全体で二十室あまりで、その内、弁護人用は半分しかない。弁護士にとって、刑事被告人を抱えるということは、実は面会のために半日を潰すということである。しかし、弁護人はそのような恩着せがましいことは言わない。私を独房に戻す途中、拘置所職員が私に耳打ちしてくれた。
「佐藤さんの弁護士さん、毎日、2時間も3時間も待っているんですよ。ほんとうに熱心です。私たちは見ていてわかるんですよ。弁護士さんがどれくらい一生懸命やっているかは……」
私は弁護人に対して、毎日の取り調べ状況を詳細に説明した。弁護人の反応は興味深かった。
「佐藤さん、検察官も人間ですからね。被疑者から『あなた以外の取り調べには応じない』などと言われると嬉しくなっちゃうんですよ」
「検察官をしていると、ときに被疑者のファンになって、共犯事件では自分の被疑者のために『よい席』を取ろうと他の検察官と争ったりすることがあるんですよ。そこには検察官しか知らない人間ドラマがあるんです」
さて、三井物産問題を巡っては、検察の舞台裏では何が行われているのかと私は想像をたくましくした。

 


解説

第4章 「国策捜査」開始 は、今回で終了です。

goo blog の終了に伴い、今後は はてなブログに記事を引っ越しする予定です。

タイトルと内容はなるべく変えないつもりですが、作業にどれだけの時間がかかるか分かりません。

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獅子風蓮


佐藤優『国家の罠』その65

2025-04-24 01:15:06 | 佐藤優

佐藤優氏を知るために、初期の著作を読んでみました。

まずは、この本です。

佐藤優『国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて』

ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。執筆活動を続けることの新たな決意を記す文庫版あとがきを加え刊行。

国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて
□序 章 「わが家」にて
□第1章 逮捕前夜
□第2章 田中眞紀子と鈴木宗男の闘い
□第3章 作られた疑惑
■第4章 「国策捜査」開始
 □収監
 □シベリア・ネコの顔
 □前哨戦
 □週末の攻防
 □クオーター化の原則
 □「奇妙な取り調べ」の始まり
 □二つのシナリオ
 □真剣勝負
 □守られなかった情報源
 □条約課とのいざこざ
 □「迎合」という落とし所
 □チームリーダーとして
 □「起訴」と自ら申し出た「勾留延長」
 □東郷氏の供述
 □袴田氏の二元外交批判
 □鈴木宗男氏の逮捕
 ■奇妙な共同作業
 □外務省に突きつけた「面会拒否宣言」
□第5章 「時代のけじめ」としての「国策捜査」
□第6章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
□あとがき
□文庫版あとがき――国内亡命者として
※文中に登場する人物の肩書きは、特に説明のないかぎり当時のものです。

 


第4章 「国策捜査」開始

奇妙な共同作業

読者にはこれまでの記述で、西村氏が「難しいお客さん」から供述をとる能力に、どれほど長けているかがわかっていただけたと思う。

ある時、西村氏は、
「あなたのカネの流れについて整理したいんだけれど、1995年4月に帰国してから今年(2002年)5月に逮捕されるまでのカネの出入りを教えてくれないか」と聞いてきたことがあった。
検察は無駄なことはしない。この作業から何か新しい事件を作りだしていこうとするであろう。他方、拒否したらどうなるか。検察の能力をもってすれば、私の通帳をチェックして、全く無関係なカネの出入りをつなげて話を作ることなど朝飯前だろう。これには応じることが得策だ。特に私は98年秋以降、外務省と官邸の報償費(機密費)を使っているので、これについては検察にきちんと説明しておく責任があると思っていた。
「うん。いいよ」
私は素直に同意した。
後に西村氏は「あんなに簡単に同意してくれるとは思わなかった」と述べていたが、ここにも私の計算があった。
「正確に作りたいんで、検察庁に押収されている僕の手帳を見せてもらえるとありがたいんだけれど」と要望したのである。
西村氏はこれに同意した。検察官がそう簡単に被疑者の押収されている手帳を見せるとは思っていなかったので、これには私が意外感をもった。
前に申し上げたように、私の記憶術は映像方式である。手帳のちょっとしたシミ、インクの色を変えること、文字の位置を変化させることで、記憶を再現する手掛かりが得られる。独房にノートがあるので、そのノートに別の手掛かりになる記述をすれば、過去の記憶をもういちど正確に整理することができる。
手帳に暗号は一切使っていない。符号(例えば、「NHK」と書いた場合、それは放送局ではなく、クレムリンの友人であるなど。もちろん、これは仮説例で実際に手帳に「NHK」などという記号を用いてはいない)はごく一部しか使っていないが、それも特殊情報のプロが見ない限り、それが符号であるということもわからない仕掛けになっている。
手帳を見て、特に鈴木宗男氏に関する記憶を再整理しておくことが重要だった。この時、記憶を整理する作業をしたからこそ、現在も手帳は東京地方検察庁に押収されたままであるが、私はこの回想録を書くことができるのである。
しかし、一日に定着できる記憶量には限界がある。カネのチェックならば、6時間くらい集中すれば、1週間で終えることができる。しかし、それでは記憶の再現には不十分だ。西村氏は、「カネの動きをできるだけ詳しく知りたい」という。私は「望むところだ。コーヒー代一杯まで思い出したものを盛り込みたい」と答えた。西村氏にとっても大歓迎だった。
二人で方法について相談し、西村氏が外務省の報償費資料から得た入金、会食データのシートを作り、そこに私が手帳を見ながら一日ごとの出金をメモにして渡し、入力するという手法をとった。これならば一日毎の記憶を再生するという私の目的に完全に合致している。
西村氏は、とりあえず01年後半のカネから整理したいと言い出した。第二章で述べたが、同年9月11日の米国同時多発テロ事件以後、鈴木宗男氏が再起動し、私も再び同氏とともに活発に動くようになった。当然、カネの動きも激しくなる。この辺から何か事件の切っ掛けを掴むことを検察庁は虎視眈々と狙っているようだった。こうして、ゲームが始まった。

ところで、読者は、これまでの記述で、西村氏の鈴木宗男氏に対する呼び方が、当初の「鈴木」という呼び捨てから、「鈴木さん」、「鈴木先生」と変化してきたことに気付いていると思う。逮捕直後、西村氏は、私と鈴木氏を切り離すことに主眼を置いていた。それになによりも、西村氏自身がこれまで特捜部が収集したデータに基づき鈴木宗男氏に対して激しい憎悪をもっていることを隠さなかった。私が鈴木氏と親しいのも、鈴木氏が私に対して人事上の便宜を図り、カネを提供しているからだと確信していた。当初の西村氏の発言をいくつか披露しておこう。
「雑居には移らない方がいいぞ。ヤクザが仕切っているからな。雑居に行くと『お前、宗男の舎弟かっ』て言われるぞ」
「なんで鈴木事務所の差入れなんか受け取るんだよ。あんたまだ公務員だろう。断れよ」
「鈴木個人はカネをもってないぞ。ここで君が頑張っても、外に出てから面倒なんかみてもらえないぞ」
「鈴木は人情味があるとかいうけれど、僕は大嫌い。計算ズクの人情だし、第一あいつ下品だ」

逮捕から十日ほどたったところで、私と西村氏の間で衝突が起きた。
「近いうちに流れが変わるぞ。鈴木のとこにガサ(家宅捜索)をかけるからな。これで鈴木は泥船になるぞ。君が逃げる最後のチャンスだ」
「いいよ泥船で一緒に沈んでも」
「虚勢を張るな」
「虚勢なんか張っていないよ。本心だよ」
「いいかげんにしろよ。自分のことや自分の将来を考えろ。君は孤立無援なんだぞ。外務省で君を守っている人はいないんだぞ」
「孤立無援」というのは嘘だ。何人かの仲間は必死で私を守っている。守っているというよりも、真実をそのまま言い続け、検察に迎合していない。
一方で、鈴木氏の前で土下座し、鈴木氏に「浮くも沈むも鈴木大臣といっしょです」という宣言をしたり、鈴木氏の海外出張で文字通り腰巾着、小判鮫のように擦り寄っていた外務省幹部たちが、「鈴木の被害者」として、それこそ涙ながらに鈴木宗男の非道をなじっている姿が走馬燈のように浮かんだ。独房生活が一週間を超えたので、拘禁症候群がでて若干涙もろくなっている。思わず涙がでてきた。
「あんまりだ」
私は泣いた。西村氏がここから私を「落とし」にかかってくるのではないかと身構えた。敵の戦略は、まず私に鈴木氏に対する恨み節を言わせ、次に感情的に切り離し、そして検察の「自動販売機」にしていくことだ。もっともこの程度の脅しならば気の弱い私でも耐え抜くことができるだろう。

なぜか西村氏は追及をやめた。
「いいよ、いいよもう。あなたほどの人が涙を見せるのだから鈴木さんにもいいところがきっとあるんだ」
このとき、西村氏は鈴木氏にはじめて「さん」と敬称をつけた。私は涙声で続けた。「拘禁症候群がでているのかもしれない。みっともない姿を晒して申し訳ない。今まで言っていなかったことをはじめて言おう。ある信頼する幹部に呼ばれたことがある。その人とこんなやりとりがあった」
私は幹部との具体的なやりとりを西村氏に説明した。
それは次のようなものだった。
「僕は佐藤君のことをほんとうにレスペクト(尊敬)している。こんなことになってしまってほんとうに済まない。世論の流れがこうなっているからどうしようもないんだ。嵐が過ぎるのを待つしかない」
「わかっています。2000年までに日露平和条約が締結できなかったのですから、誰かが責任をとらないとならないのでしょう」
「そういうふうに納得しているのか」
「それしかないでしょう」
「そうなんだろうね。鈴木大臣については、外務省のためにあれだけ尽くしてくれた人なのだから、別の解決法もあったのではないかと思う……。恨んでいるだろうな」
「これも仕方のないことなのでしょう。僕や東郷さんや鈴木さんが潰れても田中(眞紀子外相)を追い出しただけでも国益ですよ。僕は鈴木さんのそばに最後までいようと思っているんですよ。外務省の幹部たちが次々と離れていく中で、鈴木さんは深く傷ついています。鈴木さんだって人間です。深く傷つくと何をするかわからない。鈴木さんは知りすぎている。墓までもっていってもらわないとならないことを知りすぎている。それを話すことになったら……」
「そのときはほんとうにおしまいだ。日本外交が滅茶苦茶になる」
「僕が最後まで鈴木さんの側にいることで、その抑止にはなるでしょう」
「それは君にしかできないよ。是非それをしてほしい。しかし、僕たちはもう君を守ってあげることはできない」
「大丈夫です。そこは覚悟しています。これが僕の外交官としての最後の仕事と考えています」
「やめるつもりなのか。その必要はない。やめてはいけない。君が活躍するチャンスは必ず来る」
「もういやなんです。この仕事が。実を言うと以前からやめたいと思っていました。好きなこととできることは違います。そのことは鈴木さんにも話していました。特殊情報は僕の好きな仕事ではありません。ほんとうにやりたいのは、学生時代からやり残している中世の研究なので、アカデミズムに戻りたいと考えています。しかし、それも無理でしょう。嫌な感じがします。僕が受けた行政処分では終わらないでしょう。これから何事もありえます」

ここまで話してから、最後に私は西村検事にこう言った。
「西村さん、僕は外務省員として最後の仕事をしているのですよ」
「汚ねぇー。何て汚ねぇー組織なんだ。外務省は」
西村氏は吐き捨てるように言った。私の見間違えでなければ、西村検事の眼に涙が光った。
それから西村氏は、私との会話では、鈴木宗男氏に敬称をつけるようになった。

 


解説
鈴木氏の前で土下座し、鈴木氏に「浮くも沈むも鈴木大臣といっしょです」という宣言をしたり、鈴木氏の海外出張で文字通り腰巾着、小判鮫のように擦り寄っていた外務省幹部たちが、「鈴木の被害者」として、それこそ涙ながらに鈴木宗男の非道をなじっている姿が走馬燈のように浮かんだ。独房生活が一週間を超えたので、拘禁症候群がでて若干涙もろくなっている。思わず涙がでてきた。
「あんまりだ」
私は泣いた。


マンガ「憂国のラスプーチン」を読む その36(2025-03-31)


「……僕は鈴木さんのそばに最後までいようと思っているんですよ。外務省の幹部たちが次々と離れていく中で、鈴木さんは深く傷ついています。鈴木さんだって人間です。深く傷つくと何をするかわからない。鈴木さんは知りすぎている。墓までもっていってもらわないとならないことを知りすぎている。それを話すことになったら……」
__そのときはほんとうにおしまいだ。日本外交が滅茶苦茶になる。
「僕が最後まで鈴木さんの側にいることで、その抑止にはなるでしょう」
__それは君にしかできないよ。是非それをしてほしい。しかし、僕たちはもう君を守ってあげることはできない。
「大丈夫です。そこは覚悟しています。これが僕の外交官としての最後の仕事と考えています」


ここは重要です。
佐藤氏は、鈴木氏が外務省の暗部を知りすぎているので、それを墓場まで持っていってもらうように、鈴木氏に付き添うといっています。

しかし、佐藤優「外務省犯罪黒書」(2015年、講談社エディトリアス)によれば、有罪判決後に国政に復帰した鈴木宗男氏が質問主意書という方法で、外務省の闇を次々に暴いています。
おそらく佐藤氏は鈴木宗男氏の質問主意書作成を手助けしたのでしょう。
だからこそ、こういう本ができ上ったわけです。

「墓までもっていってもらわないとならないことを知りすぎている」から鈴木氏をなだめるために鈴木氏のそばにいるという話だったのに、鈴木氏と一緒にその外務省の闇を国会での質問主意書と出版という形で暴かれるとは……
日本の外交は、それこそ滅茶苦茶になってしまったのではないですか。
それとも、もっとひどい表に出せない闇が、外務省にはまだ残っているのでしょうか。

おそらく、当初は外務省を守り、日本の外交を傷つけないということを目的にしていた佐藤氏ですが、外務省に裏切られ続けた結果、外務省に反旗を翻し徹底的に対立する立場へと意識を切り替えたのだと思います。

 

 

獅子風蓮


佐藤優『国家の罠』その64

2025-04-23 01:57:50 | 佐藤優

佐藤優氏を知るために、初期の著作を読んでみました。

まずは、この本です。

佐藤優『国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて』

ロシア外交、北方領土をめぐるスキャンダルとして政官界を震撼させた「鈴木宗男事件」。その“断罪”の背後では、国家の大規模な路線転換が絶対矛盾を抱えながら進んでいた―。外務省きっての情報のプロとして対ロ交渉の最前線を支えていた著者が、逮捕後の検察との息詰まる応酬を再現して「国策捜査」の真相を明かす。執筆活動を続けることの新たな決意を記す文庫版あとがきを加え刊行。

国家の罠 ―外務省のラスプーチンと呼ばれて
□序 章 「わが家」にて
□第1章 逮捕前夜
□第2章 田中眞紀子と鈴木宗男の闘い
□第3章 作られた疑惑
■第4章 「国策捜査」開始
 □収監
 □シベリア・ネコの顔
 □前哨戦
 □週末の攻防
 □クオーター化の原則
 □「奇妙な取り調べ」の始まり
 □二つのシナリオ
 □真剣勝負
 □守られなかった情報源
 □条約課とのいざこざ
 □「迎合」という落とし所
 □チームリーダーとして
 □「起訴」と自ら申し出た「勾留延長」
 □東郷氏の供述
 □袴田氏の二元外交批判
 ■鈴木宗男氏の逮捕
 □奇妙な共同作業
 □外務省に突きつけた「面会拒否宣言」
□第5章 「時代のけじめ」としての「国策捜査」
□第6章 獄中から保釈、そして裁判闘争へ
□あとがき
□文庫版あとがき――国内亡命者として
※文中に登場する人物の肩書きは、特に説明のないかぎり当時のものです。

 


第4章 「国策捜査」開始

鈴木宗男氏の逮捕

今回の国策捜査が鈴木宗男氏をターゲットとしていたことは疑いの余地がない。私はその露払いとして逮捕されたのである。同時に検察は私を逮捕すれば、外務省と鈴木宗男氏を直接絡める犯罪を見つけだすことができるとの強い期待を抱いていた。しかし、残念ながらその期待は適わなかった。鈴木氏の逮捕につながらないならば、私は既に用済みなのだが、検察はそうは考えず、私の気持ちを鈴木宗男氏から切り離し、検察のために最大限活用することを考えた。
検察の目標は、逮捕した鈴木氏をいかにして「歌わせる(自白させる)」かに置かれていた。検察は本気だった。本気の組織は無駄なことをしない。

私の分析では、西村氏が私に期待している役割は二つあった。
第一は、鈴木宗男氏に関する情報収集である。私しか知らない鈴木氏に関する情報を獲得すること。それに、マスメディアや怪文書で流布されている情報の精査である。第二は、何か隙を見つけて、私と鈴木氏が直接絡む事件を作ることである。
第一について、私と鈴木氏の関係は外交、それも対ロシア外交、対中央アジア外交、そして国際情報の分野に限定されていた。しかも私は経済案件にはタッチしていないので、検察にとっての「おいしい話」に関する情報をもっていない。情報をもっていないというのはこの場合、最大の強みである。知らないことについては伝えることができないからである。
また、西村氏には、鈴木氏の対露外交についてはかなりきちんとしたブリーフィング(説明)をし、西村氏も外務省から秘密情報を取り寄せて私の情報の検証をしているので、鈴木外交が国是に反する利権追求を動機としていたとは考えていない。
西村氏が「鈴木先生の対露外交はしっかりとしているという話をしたら、うち(特捜部)の連中から『西村は佐藤に洗脳されている。大丈夫か』と言われた」と冗談を言っていた。ロシア語の諺で「冗談には必ずある程度の真理がある」というが、外交問題を猛勉強する西村氏の姿に若干の危惧をおぼえた同僚検察官がいても不思議ではない。
西村氏はむしろ鈴木宗男氏の人柄、人心掌握術について、私のコメントを聞こうとした。「被疑者の過去を追体験する」というアプローチである。それを掴んで鈴木氏を落とそうという策略であろう。
これに一切協力しないか、あるいは偽情報を流すことも可能だったが、私はそれをしなかった。まず偽情報については、鈴木氏を逮捕して少し経てば、それがガセネタであることは検察に容易にわかるので、そのような稚拙な情報操作には意味がないと考えた。一切協力しなければ敵も情報を一切出さない。情報を取るときは必ずこちらも情報を与えなくてはならない。要はそのプラス・マイナスが五分以上になっていればよいのである。
巷間伝わっている鈴木宗男氏のイメージは、ネガティブな要素が肥大してしまったので、到底この世のものとは思えないような大魔王になっているが、長年、国策捜査を扱った特捜検事にはこれが実像から遥かにかけ離れていることくらいは気付いている。まず、等身大の鈴木宗男像を掴み、その上で料理したいというのが西村氏の思惑と私は読んだ。
検察が正確な鈴木像を持つことは、無理な事件を作り上げることの抑止要因になる。この目的に適う範囲で検察の要請と私の知識の間で連立方程式を組んでみて、解がでる場合にだけ協力することにしよう、と考えたのである。

「鈴木さんについて、何を読んだらいいのだろうか。あなたの知恵を借りたい。例えば、中川一郎農水大臣と鈴木さんの関係についてはどう見たらよいのか。ほんとうに鈴木さんは中川さんを慕っているのか。それともあれは見せかけか。そういう基本がわかる本がないだろうか。週刊誌の記事じゃどうもピンとこないんだ」
私は、内藤国夫氏の『悶死――中川一郎怪死事件』(草思社、1985年)を薦めた。6月19日に鈴木氏が逮捕されてから48時間、私はハンガーストライキを行ったが、そのとき西村氏はこの本を読んだ。6月21日に西村氏から以下のような感想を聞いた。
「実に面白い本だったよ。鈴木さんを取り調べる特捜の副部長にも『佐藤氏のお薦め』と言って回しておいた。鈴木さんのパーソナリティーがよくでているね。要するに気配りをよくし、人の先回りをしていろいろ行動する。そして、鈴木さんなしに物事が動かなくなっちゃうんだな。それを周囲で嫉妬する人がでてくる。
しかし、鈴木さんは自分自身に嫉妬心が稀薄なので、他人の妬み、やっかみがわからない。それでも鈴木さんは自分が得意な分野については、全て自分で管理しようとする。それが相手のためとも思うけど、相手は感謝するよりも嫉妬する。その蓄積があるタイミングで爆発するんだ。中川夫人の鈴木氏に対する感情と田中眞紀子の感情は瓜二つだ。本妻の妾に対する憎しみのような感情だ。嫉妬心に鈍感だということをキーワードにすれば鈴木宗男の行動様式がよくわかる」
私はこのときまでに「鈴木氏に嫉妬心が稀薄で、それ故に他者の嫉妬心に鈍感だ」という見立てを西村検事に話したことはない。この検察官の洞察力を侮ってはならないと感じた。

 


解説
「鈴木さんについて、何を読んだらいいのだろうか。あなたの知恵を借りたい。例えば、中川一郎農水大臣と鈴木さんの関係についてはどう見たらよいのか。ほんとうに鈴木さんは中川さんを慕っているのか。それともあれは見せかけか。そういう基本がわかる本がないだろうか。週刊誌の記事じゃどうもピンとこないんだ」
私は、内藤国夫氏の『悶死――中川一郎怪死事件』(草思社、1985年)を薦めた。

私も、鈴木宗男氏の実像に迫りたくて、別のところ(獅子風蓮の夏空ブログ)で、この本を検証しているところです。

鈴木宗男氏は私利私欲のない潔癖な政治家なのか?(2025-04-17)~

 

獅子風蓮