序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

彼女の場合 その2

2013-02-15 16:00:12 | うんちく・小ネタ

昨日の午後三時ごろ、台本書きをしていた私の机の電話が鳴りました。

台本の中の人物達が動き始め、思わぬ台詞が頭の中に浮かぶほど興に乗っていた所だったので、思わず苛立ちを感じました。

しかし私も大人です。

その苛立ちを押さえ、何気なさを装いながら電話に出ました。

「もしもし、劇団芝居屋増田ですが」

しかし、返事がありません。

この沈黙に思わず、押し隠していた苛立ちが顔を出しました。

「もしもし、どちら様ですか」

ちょっと語気が強くなったかもしれません。

「間違いです、間違え電話なの」

彼女でした。

ええ、私の孫娘でした。

慌てた私はいつもの猫なで声で言いました。

「間違えじゃないよ、ジイジだよ」

でも、彼女は私の言葉が聞こえなかったように、「間違い電話なの、間違いなの」と繰り返し、私が電話を切るのを待っていました。

そこで私はやむなく電話を切りました。

彼女にとって私が出た電話番号は歓迎されるのに決まっているジイジの電話番号だったのです。

いつもだったら、私が電話を取った途端に自分が掛けた事を証明するかの様に、大きな声で用事を言います。

すると私も細君も、孫用の愛想の良い声で応対するのです。

それが彼女にとって当たり前のことだったんです。

でも彼女は初めてジイジではなく、社会の中でいっぱしの大人として生きている私の声を聴いた訳です。

ショックだったでしょうが、彼女がこれから世間というものと付き合う為の第一歩です。

これから彼女は世界が自分を中心に回ってはいない事を自覚していくんです。

それが育つという事なんですよね。

でもね、あの状況で、あの台詞。

私には書けないな。


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